精霊ルナ!
ゼウス神はアリーチェに魔法の説明を始めた。
『月属性の上位となる神癒属性に、手や足など失った身体を元通りに治す欠損再生の魔法がある。上位属性魔法を使うには神の加護が必要じゃが、アリーチェにはアスクレーピオスの加護もあるからその魔法も使えるのじゃ。じゃがこの属性の事を今や誰も知らないから、アリーチェが幼い内は悟られない方がいいじゃろうな』
「はい!分かりましたゼウス神様!お気遣いありがとうございます」
『う~ん………なんかその呼び方だと距離を感じるのぅ。なあアリーチェや、呼び方なんじゃが、お爺ちゃんでも大丈夫じゃぞ?………むしろお爺ちゃんがいいかな………うむ、お爺ちゃんでお願いじゃ!』
少し戸惑うアリーチェ。
『ゼウス神様、アリーチェはかまいませんが、気安過ぎませんか?失礼だと思うのですが』
『大丈夫じゃ、親しみが湧くからお爺ちゃんの方が、絶対いいのじゃ!なんか話し方まで変わってしまっておるから、お爺ちゃんでお願いじゃ!』
アリーチェは微笑んだ。
「分かりました………お爺ちゃん」
満足げに頷くゼウス神。
『フムフム、やっぱいいの~、ほんわかするわい。話しが長くなってしもうたが、わしはいつでも見守っておるから無理せんようにな、身体には気を付けるんじゃぞ』
「うん、お爺ちゃんありがとうね!」
『うんうん、じゃあまたいつかの~~』
声は徐々に小さくなり、静かになっていった。
* * * * *
祈りを終えたアリーチェを包み込む様な空気感は薄れ、鳥のさえずりが戻ってきた。
教会の中はそれ程明るくはないのだが、アリーチェの瞳に映る景色は眩しかった。
ローラさんを治せると知ったアリーチェには、全ての景色が輝いて見えた。
いつの間にか横に座っていたピエロ。
「大丈夫かい?祈りながら泣いたみたいだけど……」
アリーチェの頬には、涙が流れた跡があった。
アリーチェは隣にいるピエロに抱きついた。
「うん大丈夫………とっても嬉しかったの」
ピエロは背中をそっと支えてくれた。そして2人でゆっくりと教会を後にした。
祭壇の横から1人の男が、ピエロとアリーチェの後ろ姿を見ていた。
その男はボスコ教会のトップ、ボニート・コルンバーノ司祭であった。
ボスコは地方の田舎町なので教会のトップは司祭が勤めている。
ボニート司祭は執務室で書類仕事をしていたが、普段とは違う感覚を覚え、大聖堂の広間に降りてきたのである。
広間には数人いたが、明らかに違う雰囲気を感じる場所に座っている人物を見ていた。
そしてアリーチェとピエロが、手を繋いで出て行くまで見つめていた。
ボニート司祭は呟いた。
「神様の存在を今までないくらい近くに感じたが、いったい何者なのだろう………あの男は」
ピエロのお陰でアリーチェは守られた?
* * * * *
ピエロはアリーチェをアパートまで送ってくれた。
その途中でアリーチェは、ローラさんの事をピエロに謝った。
「ごめんなさい、私が人形なんか贈らなければローラさんの身体は………」
少し悲しそうな笑顔のピエロ。
「そっか………ローラの身体の事を知ってしまったのかい?でも、ローラは人形をとても喜んでいたし僕もアリーチェちゃんには感謝してるよ。アリーチェちゃんのせいじゃないんだからね?貴族のせいなんだよ?貴族は自分勝手だから仕方が無かったんだよ」
アパートに着いたアリーチェは、別れ際にピエロに言った。
「近いうちに必ずローラさんを………必ずローラさんの力になるから………今日はどうもありがとう、またね」
そう言ってアパートに入っていくアリーチェを、ピエロは戸惑った表情で見送った。
アパートにルカはまだ帰ってきてなかった。
時間がありそうなのでアリーチェは、月属性の精霊ルナと話しをしてみる事にした。
「えっと、月属性のルナさんルナさん、初めましてアリーチェです、ここでお話しを出来ますか?………」
部屋の中央に光りの粒子が集まると、艶やかな長い黒髪の頭には月の紋章の付いた黄金のティアラをかぶり、ライトブルーのロングドレスを着た綺麗な女の人が現れた。
アリーチェの前にひざまずき、先端が三日月型で蛇が巻き付いた様な杖を置き話し出した。
「ははぁ~!お呼び頂き感謝致します。私はルナと申します。この世界から精霊の私は勿論の事、月属性や神癒属性そしてアスクレーピオス神様すら忘れ去られて幾年月。永かった………実に永い年月でした」
感慨にふけりながら大きく息を吸い込んで、直ぐに話しを続けるルナ。
「このたびお呼び頂いたご恩、生涯忘れる事無く、誠心誠意アリーチェ様に尽くして参りたいと思います」
「えっと………そこまでじゃなくてね、ただ友達になってもらえたらいいのよ?」
顔を上げたとたんに直ぐに伏せるルナ。
「ご希望とあらばアリーチェ様の友人として、不撓不屈の精神で、アリーチェ様の為に身体も命も惜しまず尽くして参りたいと思います」
「えっと………もっと気楽でいいからね?」
「お優しいお言葉、勿体のう御座います」
勢いよく顔を上げ、右手の拳を握り締めた。
「アリーチェ様の為にも、アスクレーピオス神様の為にも、必ずや神癒属性を月属性を世界1メジャーな属性にして、そして世界をアリーチェ様の手に!」
(………なんか凄い野望があるのね………お淑やかにみえて、実は熱血タイプだったか)
「うんうんとりあえず今日は大丈夫よ。それでえっとね、知り合いに手と足を失った人が居て治せる魔法を教えて欲しいの」
「早速お役に立つチャンス!、畏まりました。まず属性の説明をさせて頂きます!」
ルナの熱血を省いた説明内容はこんな感じだった。
アスクレーピオス神様は、医術の神様で、ケガを治す魔法、心を癒す魔法、精神や身体を強くする魔法などがあるそうだ。
死者蘇生は神々の怒りを買い封印され、そのせいでこの世界から忘れ去られてしまったとの事。
「しか~し!このたびアリーチェ様のお陰で復活致しました。これをチャンスとし必ずや………必ずや月属性で世界制覇を!」
「あ~頑張ってね、それで手や足を再生する魔法を教えて欲しいの」
「アイアイサーアリーチェ様!いきなり神級魔法ですか流石です!では念の為に1つ中級魔法をやってからその神級魔法でも宜しいでしょうか?」
「ええ分かったわ」
「はい!ではまず相手の名前・Lv・HPが分かる魔法、サーチをお教えします。中級はレベルが下の相手しか分かりませんが、分からない相手は強いとゆう事になります」
「気を付けた方がいい相手が分かるのね」
「はい、では説明致します。今いる世界には、濃さは違いますが全ての場所に魔素が存在します。相手が触れた魔素は、その相手の影響を受けますので、その魔素から情報を得ます」
(触れた魔素が情報を持っていて、その魔素を調べる感じかな)
「誰で試そうかな……」
中庭の方で水の音がするので、ドアまで行ってそっと中庭を覗いて見ると、レベッカが洗い物をしていた。
(おっ、丁度いいじゃない)
覗き込んだままレベッカの周りの魔素に集中するアリーチェ。そして魔素に問いかける。
(魔素さん、その人の事を教えて欲しいのお願い!)
そして唱えなくて大丈夫だが、唱えるアリーチェ。
「『サーチ』!」
次の瞬間、目の前に情報が現れた。
レベッカ・ベリザリオ
Lv1
HP 21
「うぐっ!!」
驚いて声が出そうになり、目を瞑りながらそっとドアを閉めた。
そこでアリーチェはまた驚いた、目を閉じてもレベッカの情報が見えたままだったのだ。
少しして消えたがルナに聞いてみる。
「それは、目の前に表示され一定時間で消えますが、アリーチェ様にしか見えない様になってます」
「ふぅ~ん、そうなんだ、文字が目の前に現れて目立っちゃうと思ってちょっと焦ったけど、そうなんだ、結構便利かもね、有り難う」
「お褒めにあずかり光栄です。それにしても、少しの説明で最初から成功してしまうとは、さすがアリーチェ様です」
(レベッカ・ベリザリオ Lv1かぁ、ちゃんと名前も分かって意外と便利かも)
喜ぶアリーチェだった。
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