ローラさんの為に…
一睡もせずに迎えた朝。
アリーチェが中庭の洗い場で顔を洗っていると、同じアパートの住民レベッカが顔を洗いに来た。
顔を洗い終わったアリーチェ。
「おはようございます」
ジーッとアリーチェを見るレベッカ。
「おはよ………冴えない顔だね、何かあった?」
「えっいえっ………大丈夫です」
優しい言葉を掛けられるとは思ってなかったアリーチェは驚いていた。
ドアが開いて、そこにあの危ない感じの若い男の人が、顔を洗いに来た。
アリーチェの顔をジッと見た。
「何かあったのか?」
「えっ?いえ何も………」
(親しくない人に心配される程、酷い顔をしてるのかな)
「心配してくれてありがとうございます。お金持ちって、人を傷つけても平気なの?」
「そりゃそうさ。お前は田舎に居たから知らないか。貴族に無礼な態度をしただけで不敬罪で殺されるし、ただ気に入らないと言うだけで何されるか分からないんだからな。お前も気をつけるんだな」
若い男は早々に顔を洗って家に入っていった。
「今のはうちの兄貴でマウロ兄よ。うちらの親は何もしてないのに貴族に殺されたのよ。あんたの父親だっていつ居なくなってもおかしくないんだよ。子供が1人で生きていくのは大変だ。あんたももし親になんかあったらうちらに相談にきな」
言い終わるとレベッカは家に入っていった。
危ない人かと思ってたら、案外いい人たちだった。
(貴族のわがままを、みんなが普通だと思ってるの?)
泣いて腫れぼったかった顔を魔法で治してからルカを見送った。
部屋でひとりイスに座って悩むアリーチェ。
(この世界に義手や義足ってあるのかしら………あっても周りの理解が無いと大変なのよね。服屋さんも辞めるしかなかったみたいだし、精神的にも辛い筈よね………ピエロが居なかったらローラさんは)
頭を抱え込んでいたアリーチェは、ふと思った。
(魔法は………)
突然顔を上げる。
(この世界の魔法は………)
アリーチェは久しぶりにウィスプを呼んだ。
「ウィスプ!」
直ぐ横に現れるウィスプ。
「はいアリーチェ様。お呼びでしょうか?」
無理を承知で聞いてみるアリーチェ。
「ウィスプ、失った手や足を、魔法で元通りに出来たりするのかしら?」
考え込みながら答えるウィスプ。
「それは………出来ません………今はもう」
「そう……出来ないの………」
少し俯きかけたアリーチェが顔を上げる。
「今はもう?昔は出来たって事?」
「ええ、昔は出来たと聞きいた事があります」
「昔は……今は何故出来ないの?」
「何処まで本当か解りませんが、その属性魔法が死者蘇生まで出来るようになった事を、問題と考えたゼウス神様が、神々と話し合い、その属性の神様の力を封印したと聞いた事があります」
「死者蘇生………確かに問題ね。ゼウス神様って、世界の為に色々と考えているのね………でそれ誰?」
「はい?えっと、ゼウス神様は全ての神様の主神で、1番力があります。アリーチェ様はお話しされた事がお有りだと思います。ゼウス神様の指示でアリーチェ様には全ての神の加護がお有りになりますから」
「んっ?アリーチェはお爺ちゃんとしか話した事ないよ?」
「お爺ちゃんですか……………その方がゼウス神様です」
「おぉ~お爺ちゃんって偉かったんだ!お爺ちゃんが封印したなら、お願いすればローラさんだけでもなんとかなるかしら?」
「それはどうでしょう、確かに封印したのはゼウス神様ですが、神々と話しあって決めた事ですので、ゼウス神様の一存では難しいかと思います」
「むぐぅ………昔だったとしても治す魔法が存在したのなら聞いてみようかな、前に話してから数年ぶりだしそろそろいいわよね。うんよしっ!これからちょっと教会に行って話して来るわ。ありがとうねウィスプ」
「どう致しまして。ところでアリーチェ様、街中の護衛ですが私がご一緒してもよろしいでしょうか?」
「んっ?シドと交代って事?」
「いえっ、護衛は男性のシドが適任かと思います。ただ………正直に申しますと、私が街中を普通に歩いてみたいだけなのです………」
ウィスプは精霊の事情を説明してくれた。
精霊は魔法が必要な時だけ召喚されて終われば召喚解除されて精霊界に帰るので、この世界を散歩したりしたことはないそうだ。
「そうだったのね。うん分かった、街中でシドが精霊だとバレてないしいいんじゃない。アリーチェが周りの魔力を探って注意しとくから、一緒に行きましょう!」
「あっありがとうございます!」
ウィスプの嬉しそうな表情は、とても可愛いらしかった。
アリーチェはシドとウィスプと共に家を出た。
シドはいつもの執事の格好に剣を装備している。
ウィスプはアリーチェの魔力を使って服装を変えてもらった。
今までは肩のラインに沿って足元まで赤の縦ラインが入った聖職者の様なローブだったが、赤のラインを2本に増やし、上半身をパーカー風に下半身を膝丈のスカートに変えておしゃれにしたら可愛かった。
元々背中にある天使の羽は、残した方が可愛いが仕方なく隠してもらった。
* * * * *
塀沿いの道を通って、西門前の大通りに出る。
ウィスプは歩きながら、きょろきょろと周りの景色を観て楽しそうだった。
中央広場の教会の前まで来た。
「流石に教会の中は、精霊である事を見抜く者がいると思いますので、外で隠れてお待ちしております」
「ん~、確かに魔力の大きい人が居るわね。わかった、ちょっと行って来るわね」
そう言ってアリーチェは、教会に入っていった。
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