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神の泉で神様と!

 出発式も終わると、ラダック村には雪で覆われる長い冬がやってくる。

 肌寒くなってきていつ雪が降ってもいいのだが、まだ今日はいい天気だった。


 エリスとアリーチェは朝食を食べながら話していた。

 アリーチェは魔法使いが神の泉で仄かに光を放っていた光景が忘れられなかった。


「エリスママ?」


 食事の手を止めてアリーチェの方を向くエリス。


「どうしたのアリーチェ」


「神の泉って神様がいるの?」


「そうねぇ~、どう話そうかしら。アリーチェの住んでいるこのラダック村は、ニマ山の半分より少し登った所にあるのね。そのニマ山の山頂に神様がいらっしゃるとみんな考えてるわ。それで神の泉は神様にすごく近いから特別力があるみたいなの。ラダック村に魔物が近づかないのも、神の泉のおかげなのよ。きっと神様が守ってくれてるのね」


「へぇ~、ラダック村には魔物が近づかないんだ。神様の事も、泉が大切な事も知らなかったわ」


(神の泉ってただの湧き水じゃなかったんだ……)


 神の泉は魔法使いにとって、特別な場所だとエリスが教えてくれた。


「夏になると魔法使いたちが神の泉まで来るのはね、魔法使いの人が泉の魔力に触れると、自分の魔力が浄化されて、質があがるらしいわ」


「出発式で魔法使いの人が、少し光ってたのがそうなの?」


「ええそうよ。あと泉の横に小屋があるでしょ、そこで神様にお祈りするの。来た魔法使いの人たちは何日も村に泊まって、浄化とお祈りを繰り返すのよ」


「へぇ~、神の泉って凄かったんだ」


「神様に近い泉だからみたいだけどね。この国の王都の近くにも神の泉があってね、そこの方がみんな行き易いんだけど、ロンバルディア教会が管理する敷地内にあって、とても高いお金を取られるのよ。旅費や護衛費を考えてもラダック村に来る方が安上がりなのよ。旅の危険を考えると多くの人は教会の泉に行くみたいね。だからここに来る魔法使いはみんなお金が無い人たちね。護衛の依頼を受けて来ればお金がかからないから、村でお願いする護衛PTは、魔法使いだけが毎年違う人なのよね。護衛パーティーに入れてもらうだけの腕はあるけどお金が無い魔法使いって事ね」


 神の泉が気になってしょうがないアリーチェ。


「エリスママ、アリーチェ神様にお礼を言いに行きたい。魔物から守ってくれてるって知らなかったから、ありがとうって言いに行きたいわ。今から行ってみてもいい?」


 急な話しで戸惑うエリス


「今から?…」


 エリスは窓の外を眺める。

 天気は良く、今日はまだ雪は降りそうに無かった。


「いいわ、今日はお天気もいいし、朝食を食べ終わったら散歩しながら行きましょう!」


 エリスに抱きつくアリーチェ。


「やった~!エリスママ大好き~」




  *  *  *  *  *




 神の泉の前にやって来たアリーチェとエリス。

 標高5,000㍍は少し肌寒いが、 見上げるとどこまでも澄んだ青空が広がっていた。


 エリスは用事があるようで、神の泉広場の横にある村長宅に行き、泉広場にはアリーチェだけになった。


 神の泉には太陽の光が降り注ぎ、キラキラと輝いていた。

 広場には風の音と鳥のさえずりだけが聞こえていた。

 アリーチェは神の泉を見つめながらこれまでの事を思う。


(あれから4年が過ぎたのね………この世界にはお爺ちゃんが悩むような自己中心的な人は居なかったわ。

 エリスママもルカパパも村のみんなもとっても優しかったわ。

 お爺ちゃんはきっと変な人ばかり見てたんだと思う。

 お願いは勘違いだったんだから元の世界に帰してもらいたいな。

 4年経ったけど、日本には家族が、お姉ちゃんがきっと待ってるから。

 でもエリスママにとっては、私が居なくなっちゃう事になるのか、どちらかを選ぶとしたら………

 日本には16年間一緒だった家族がいるしお友達もいる。

 こっちには………大好きなエリスママ……空気を読まずにすぐ人のこと笑うけどルカパパ……テパンさんもいるしカンツォ兄もいるか………

 大切さは一緒だ……

 お爺ちゃんと話せたら相談しよう………)



 アリーチェが透きとおった泉の水にそっと手を触れると、水面に波紋が広がっていった。


(何だか清々しくて気持ちいいわね)


 アリーチェは目を閉じて神様に語りかける。


「お爺ちゃん、この村とアリーチェを守ってくれてありがとう」


 泉の周りの風の音や、鳥たちの声が遠ざかっていき、とても静かになっていった。


「4年この村にいたけど、お爺ちゃんが悩んでたような事は無かった。

会った人達はみんないい人達だったよ。お爺ちゃんが変わった人だけを見てたか、きっとみんな大人になって解決したんだと思う。良かったねお爺ちゃん」


 俯いてアリーチェの表情が少し暗くなった


『咲良よ、今はアリーチェかな』


 神様の声がアリーチェに聞こえてきた。


『アリーチェよ、悲しそうじゃな』


 アリーチェはいつの間にか泣いていた。


「お爺ちゃん……やっと話せたね……なんか声を聞いたら少しホッとした」


 アリーチェは泣き笑いの表情になっていた。


『わしのせいで悲しませてしまったのか………すまんかった。元の世界に戻りたいのじゃな?』


「違うの、元の世界には戻りたいけど、この世界の家族も大切なの、だから………また私が居なくなって悲しむ人がいて欲しくないから、元の世界は諦めようかと思うの、もう過ぎてしまった事だから」


 神様と話しながらアリーチェの心は決まっていった。


『………元の世界を諦めるとか、悲しい思いをさせてすまんかった。じゃが大丈夫じゃぞ。元の時間に戻せるのじゃからの』


 神様はさらっと重要な事を言った。


 突然の事でよく理解できてないアリーチェ。


「ええ、元の時間に戻るのを諦めてこの世でエリスママたちと生きていこうと……………元の時間?」


『うむ、元の時間じゃ』


「えっ?えっ??」


 元の世界の元の時間。


 あの神楽の舞台に戻れるのならば家族を悲しませないで済むのだ。

 段々と理解が追いついてくるアリーチェ。


「元の時間に戻れるの?」


『わしのお願いで来てもらったのじゃから当然じゃな。この世界に残ってくれるなら助かるが、これほどアリーチェを悲しませているとは知らんかった。元の世界に戻りたかったら、お姉ちゃんと一緒に戻すが、どうする?』


 また神様は爆弾発言をした。


「お姉ちゃんと………一緒に戻す?」


『そうじゃよ?お姉ちゃんもこの世界に来ておるからな』


 神様とはいえ呆れてきたアリーチェ


「お姉ちゃんも来てるんだ……」


『もちろんじゃ、咲良の条件だったからの』


「…………」


『それで、やっぱり戻るのは諦めるかの?』


 色々と吹っ切れた感じのアリーチェ。


「もちろん戻るわ!」


『そうかぁ……、残念じゃが仕方がないのう。アリーチェを悲しませたく無いからの』


「異世界でエリスママたちと幸せに暮らしてから戻るわ!」


『んっ?つまり??………おお~そっかそっかあ、ありがと~!やはりわしの目に狂いは無かったのじゃ。良かったのじゃ~』


 いろいろと思う所があるアリーチェ。


「それでお爺ちゃん。言っておいた方がいいと思うことは全部言ってよね、ぜ!ん!ぶ!よ!」


『へっ?特にないぞ?』


 神様は聞かないと重要な事すら言わないタイプだと分かってきたので、アリーチェは気になってる事を聞く事にした。


「4年間この世界で過ごしたけど、お爺ちゃんが言う様な自己中心的な人は居なかったよ?」


『ふむ、それはあれじゃな、この村でアリーチェが出会った人達が特別なのじゃ。アリーチェの影響が少なからずある様なんじゃがな、外の世界はもっと殺伐としたもんじゃぞ?』


「ふ~ん……まぁそれよりもね、この世界には魔法があるみたいなんだけど、私は魔法を使えないのかしら?場合によってはもう口も聞いてあげないんだけど」


『ええっ?そんな!!わしはどうやって過ごしていけば良いのじゃ………魔法?おおっそうじゃったそうじゃった。勿論アリーチェは魔法を使えるのじゃ、お願いして来てもらったのじゃから当然じゃな。それも普通は1属性出来れば凄いのじゃが、全部じゃ、全部の属性じゃぞ?アリーチェは特別仕様なんじゃ!どうじゃどうじゃ?』


 声からは褒めて欲しそうな雰囲気が漂ってきた。

 でもアリーチェは神様を甘やかさないのだ。


「そう、なんかよく分からないけど魔法が使えるのならまぁいいわ、口を聞いてあげないってのは無しね」


『おお~良かった良かった』


「とりあえずありがとうお爺ちゃん。少しは疑問が解消されてホッとしたわ。また何か用事があったら話しかけるからもういいわ」


『えっとそれなんじゃが、実は神はあまり地上の者と話しをしてはいかんのじゃ。一生に一度話しをしたら良い方なんじゃ、多すぎると他の神たちに示しがつかなくての。じゃから1年に1回………はマズいか、数年に1回とかしか話しは出来んのじゃが……』


「お爺ちゃんも色々あるのね。数年に1回でも無理をさせてるみたいだし、分かったわあまり話しかけないようにするわ」


『すまんの、勿論、わしが話せないだけでいつでも見守っておるからの』


「うん、ありがとう」


『うむ、じゃあまたいつかの』


「うん、またいつかね」


 話しが終わると、辺りに風の音と鳥の声が戻ってきた。


 いきなりアリーチェが叫ぶ。


「ああっ!お姉ちゃんの居場所を聞けば良かった!」


 アリーチェはお姉ちゃんが異世界にいる事が嬉しい反面、自分のせいで一緒に来てしまった責任を感じていた。


「まぁしょうがない、頑張ってお姉ちゃんを見つけ出そう。異世界の事も頑張るからね、お爺ちゃん!」


 次こそは魔法が使えるんだろうか………

 どうか見守ってやって下さい。

m(_ _)m


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