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ヤコポ村!


 日が沈む前にヤコポ村に到着したラダック村の一行は、みんな自分たちの村であるかの様にどんどん村に入っていき、一軒だけある宿屋に着いた。



 宿屋に入ると受付からしわがれた声がかかる。


「ありゃま~、よう来なすったな。今年ももうそんな時期かのぅ」


 ヤコポ村のソムサック村長だ。頭も顎ひげも白髪の小肥こぶとりのおじいちゃんだ。


 ニッチェが代表して答える。


「はい、またお世話になります」


「おや?久しぶりじゃな、ニッチェちゃんも街に降りるのかい?」


「はい、村の商品を街に売りに行く事になったんです」


「ほう、それは上手くいくといいの。他に客は居らんからみんな好きに使ったよいぞ」


「有難う御座います。では男たちはいつもの大部屋で、護衛の方は女性も居るので2部屋と、私たち村の女子用に1部屋使わせて頂きます」


「村の女子たちじゃと?お~~っアリーチェちゃんじゃないか!可愛くなって、エリスさんに似てきたのぉ~。生まれたばかりの頃に会ったが覚えておらんじゃろ」


 アリーチェは赤ちゃんの時からすでに頭脳は女子高生だったから、覚えているのだ。


(抱っこはへたっぴだったし、エリスママの胸ばっかり見てたのをよ~く覚えてますよ、ソムサック村長!)


「えっと、おじいちゃんは?」


「うむ、ソムサックじゃ、この村の村長をやっておる、よろしゅうな。もうすぐ8才で儀式の年か、早いのぉ~、まぁゆっくり休みなさい」


「「「はい、お世話になります」」」


 挨拶が終わるとニッチェたち村の女性たちは、部屋に荷物を置いて夕食の準備を手伝った。




  *  *  *  *  *




 みんな食堂に集まって、賑やかな夕食が始まっていた。


 アリーチェは護衛たちと同じテーブルで夕食をしていた。


「今日のアントニオさんかっこ良かった~、魔物を1撃だったもんね!」


 子供とは言え褒められ慣れていないのか、照れるアントニオ。


「へっ?おおっ!そっかかっこ良かったか。まぁあれはみんなとの連携があったから出来たんだけどな」


「みんなとの連携?」


「あぁ、リエトとニコルが相手の目を狙って、ジョバンニが動きを止め、俺がトドメを刺す。大雑把だが予定通りだったんだよ。連携しないと時間もかかるし被害も出たかもしれないから、上手くいってホッとしてるよ」


「そうなんだ、あっさり倒したように見えたけど難しいのね。解毒薬使ってたけど、相手は毒を持ってるの?」


「アリーチェちゃんよく見てるね~、そうなんだ、フタコブラは猛毒を持ってるから、直ぐに解毒しないと命が危ないんだよ。自分たちが行く所の魔物の情報を調べて、自分達の力も考えて備えをするんだ。気合いで頑張ればなんとかなるじゃダメなんだ………ゴチェンさんに教わった事だけどね」


「へぇ~、教えてもらった事を実践してるアントニオさんは凄いと思う」


「大人みたいな事言うね、でもありがとう、これからも頑張るよ」


 アリーチェは、戦闘が終わってから草木の火を消してまわってたニコルさんに話しかけた。


「えっと……ニコルさんは火俗世属性魔法が得意なの?」


「そうよ、もうファイアーアローが2本も撃てるのよ!」


 ニコルはドヤ顔で自慢げに答えた。

 魔法の才能と努力によってファイアーアローの本数は変わり、若い頃は1本が普通なのだ。


「2本は凄かったもんね……」


 矢の本数が5本のアリーチェは微妙な表情をしていた。


(だからファイアーアローばっかり使うのか………森だと危ないのに)


「火を消して回ってたけど、水の魔法も出来るの?」


「水?まぁ初級なら勿論出来るわよ」


 ニコルは見せる為に詠唱を始めた。


「大いなる者にたまわりし清きひとしずく、我意思わがいしに準じて、今ここに具現ぐげんせよ、『ウォーター』!」


 テーブルに置いてあるコップが、水でいっぱいになった。


「凄~い!戦闘中にウォーターアローを使えば木に燃え移らないんじゃないかな」


「アリーチェちゃんはこれから学校で勉強するから知らないと思うけど、初級魔法は魔法の才能があればどの属性も使えるけどアローとか中級以上はその属性の才能が無いと使えないのよ」


「あっ、そうだったのね………」


(じゃあ、『ファイアーアロー』を使って戦闘後に火を消して回るのが普通なのか……)


 アリーチェは精霊たちから全属性を教えてもらっていたから、普通は一つの属性しか使えない事を忘れていた。




  *  *  *  *  *




 次の朝。

 みんなはソムサック村長にお礼を言って、ヤコポ村を出発した。



 標高3000mにあるヤコポ村からボスコまでは、とにかく下り坂。

 足場の悪い森の中や、崖の様な岩場の斜面を降りて、みんなの膝はガクガクになっていく。

 標高が下がると気温も上がり、初夏とはいえみんな汗だくになっていった。

 アリーチェは村人たちにバレない様に、体力回復の『ヒール』や、ストレス解消の『キュア』、涼しくする為の『クール』をほんの少しずつ村人たちにかけてあげていた。

 護衛のメンバーはバレる可能性が高いので、申し訳なく思いつつもかけていなかった。


 山下りの道中は魔物除けの魔道具のおかげで、弱い魔物に出会う事は無かった。


 護衛PTはDランクの魔物には勝っていたが、Cランクの魔物が来たら大丈夫なのかアリーチェは心配だった。


 山下りもほぼ終わりあと少しで平地にたどり着きそうなところで、アリーチェは離れた所にCランクの魔物の魔力を感じた。


 幸いこちらに向かってきている訳ではなくフラフラしているだけの様だったので、シドの背中の背負子しょいこに座りながら、こっちに来ないでよ~と祈るアリーチェだった。


 アリーチェの祈りは神様には届かず、Cランクの魔物との遭遇が現実となりつつある。

 こちらに気づいた様子はないが、Cランクの魔力がゆっくりとこの先の街道に向かっていたのだ。

 このままのペースで進めば遭遇する事になる。


(物事は心配していると悪い方へいくものなのね………。幸い魔物は私たちを目指してる訳ではないみたいだから、会わなければそのまま通り過ぎてくれるわよね。さて、みんなに止まってもらう方法は………昼食は食べ終わったばかりだし、休憩もまだよね………むむぅ~、あっ!そもそも1体だし護衛PTでなんとかなるんじゃないかしら。護衛依頼を受けるくらいだから勝てるわよね、何ならバレない様に手伝うし。よし!彼らを信じましょ!)



 そして咲良たち一行がしばらく進むと、街道の先に立ち止まってる魔物がいた。護衛PTは前に4人集まって、村人たちを下がらせた。


 護衛リーダーのジョバンニが真剣な表情で呟く。


「あれは………もしかしてオーガか?」


「あぁ………」


「この辺りには居ない筈なのになんで………」


 戦士アントニオと狩人のリエトの表情も堅かった。


「Cランク最強って本で読んだ事がありますけど…………私たち逃げられるのかしら」


 初めてオーガを見たニコルは諦めかけていた。


「あちらさんはやる気だ。好戦的だからな逃がしてはくれないだろうな………」


「良しなんとしても村人を守るんだ、気を引き締めていくぞ!」


 ジョバンニの掛け声にメンバーズは気を引き締めた。

 その様子を見ていたオーガは、ゆっくりとこちらに向かって歩き始めた。


 読んで頂いて嬉しいです。


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