ユズカ!
咲良と柚香は寝室のベッドに座っていた。
今度は柚香が今までの事を話し始める。
生まれたのは火山の麓にある街で、父は角一本、母は角無しだったわ。
基本魔族は最低限しか子育てをしないようで、最低限の食事を貰えるだけだったわ。それが魔族にとっては当たり前の子育てで、それで問題なく育つんだから魔族の身体って丈夫なのね。出生率は低いけと幼児の死亡率はほぼ0%らしいわ。
新しい世界には興味があったから、3才になって外を自由に歩けるようになると直ぐに街を見て回ったわ。
街は雪と氷に覆われていた。相当寒い筈なのに肌寒い程度にしか感じなかったのには戸惑ったけど、魔族の身体の凄さに改めて驚いたわ。
街は火山の麓にあって、火山の中が城っぽい造りになってたの。暖かいからなのかね。
色々見て回ったけど、自然環境や現象の理屈と構成する物質なんかは元の世界とそう変わらないんだと思ったわ。魔族って言う種族がなんなのかは分からないけどね。
街で他の種族が見られるかと期待したけど、魔族だけだったのは残念だったわ。
街は都会ほど賑わってる感じじゃなかったけど、それなりに食べ物や生活用品の店があって北国の街っぽかったわ。
北国の寒い土地なうえに火山の麓だから農業とかは厳しいみたいで、魔物の素材を使った店が殆どだったわ。だから魔物の狩猟が花形の仕事みたいね、母も狩猟の仕事をしてるみたいだったわ。
「歩けるようになったら仕事しな」って母に言われてて、狩猟は無理だろうから街で仕事を探したわ。子供が出来る仕事は店番くらいしか無さそうだったけど、よちよち歩きの幼児なんて雇うところは無いわよね。
将来魔物を狩れるようになる必要が有りそうだから非力な子供でも戦えるように、何か武器を作る事を考えたの。
その為に先ず計算が出来る事をアピールしてなんとか鉱山採掘の事務仕事に就いたの。子供だったから給料は安かったけど、私の目的は他にあったから気にしなかったわ。
この世界ではそれほど価値がないとされている硝石と硫黄と木炭を手に入れて火薬を作ったわ。魔法があるから火薬は考え出されて無かったみたいね。銃なんかは精密な鉄の加工が必要だったから諦めて、手榴弾を作ったわ。勿論こっそりね。
ある日狩猟先で母が亡くなったと聞かされた。優しくされた事も無いし常にほったらかしだったから、なんの感情も湧かなかったわ。
鉱山の事務で生きていくのは厳しかったから、魔物の狩猟のやり方を教えて欲しいと父にお願いしたわ。
父は角一本で国の兵士兵士だったの。兵士の仕事は国境警備で相手は主に他種族だからって断られそうになったけど食い下がったら、「仕方ない、道中邪魔な魔物を狩る事もあるからそれでも良ければ連れてってやる」って。自分の子供って認識があったからなのかな?食い下がった甲斐があったわ。
警備の仕事はチームで動くみたいでリーダーは角二本のグリーゼ様だった。何で様をつけるのかだって?そりゃあ会った瞬間恐ろしくて身体の震えが止まらなかったからよ。角二本のヤバさをもの凄く感じたわ。
同行している時に暇つぶしで魔物を狩る所を見たけど、グリーゼ様があっさり倒しちゃうもんだからぜんぜん参考にならなかったわ。狩りが目的じゃ無いから魔物の素材はほったらかしで「欲しけりゃ持って帰っていいぞ」って言われたけど、私一人じゃ無理な大きさだったから諦めたわ。その倒された魔物の大きさを見て、将来一人で狩れたとしても素材を持ち帰れない事を初めて理解したわ。
子供じゃ魔物狩猟PTに入れてもらえないだろうし、事務仕事を頑張らないとと思ったわ。
父に連れてってもらった数回目の時だった。いつもはグリーゼ様たちと他種族の戦いが終わった頃に追いつくんだけど、その日は違った。何故かゆっくり歩くグリーゼ様と一緒に行くと、剣を持った人族が怖い顔をして立っていて父サビクが倒されていたわ。初めて見た人族が父の敵なんだからイメージ最悪ね。直ぐにもう一人の魔族もやられたの。人族ってヤバい種族なんだと思ったわ、まあグリーゼ様もなんだけどね。
その後グリーゼ様が追い詰められちゃったから、隠していた手榴弾を使ってなんとか助けたわ。でなきゃ私もあの人族に殺されてたわね。
それから1年後に、魔王様の命令で侵攻を開始した。
私は戦闘力も無いし他種族と戦うの無理だったから後方支援部隊として参加したわ。不参加なんて言ったら魔王様に即殺されてたわよ、グリーゼ様もヤバかったけど、魔王様はもっとあり得なかったわ。目を合わせたら死んじゃうわね。
魔王様がどんなに恐ろしくても、侵攻によって他種族の子供たちが犠牲になるのが耐えられなくて魔族軍の侵攻を邪魔したわ。同じ種族だから死ぬような攻撃はしなかったけどね。
私は魔族ってばれる前に逃げるつもりだったんだけど上手くいかなくてね、そしたらさっちゃんに会っちゃったもんだからそのままここに居るってわけ。魔族第3軍は全滅しちゃったみたいだけど、まあ戦争なんだから仕方が無いんじゃない。
「………お姉ちゃん凄く大変だったんだね。大切なお友達をいっぱいやっつげぢゃっでごべんだざいぃぃぃ!」
泣き出してしまった咲良を柚香が抱きしめて頭を撫でる。
「気にしない気にしない。親しい訳じゃないし見たことないのもいるし、なにより子供に暴力を振るうような奴らなんだから自業自得よ」
「うえぇぇ~~ん」
「よしよし」
柚香は咲良が落ち着くまで抱きしめて頭を撫でていた。
「もう大丈夫、ありがとうお姉ちゃん」
「ふむ、魔王様が命令するまではみんなあんな事するようには見えなかったんだけどなぁ」
「そうなの?みんな凄く交戦的だったのに」
「元々はあんなんじゃなかったわ。魔王様の出す黒いオーラがみんなを包むとムキムキって感じでみんなの身体が強くなって、そしたらみんなの目が普通じゃなくなってっていつの間にかあんなんなってたのよ。なぜか私は大丈夫だったのよね、あっ、角二本の魔族も大丈夫みたいだったわ。って言っても角二本は元々戦闘好きだったわね」
話しを聞いて悩む咲良。
「………魔王の命令だったんだ」
「そそっ、だから戦争終わらせたかったら魔王様倒すのが手っ取り早いんじゃない?」
「それなら今偉い人たちが魔王討伐に向かってるの!」
「あら流石。でも魔王城までって結構遠いいし、途中には魔族軍がいっぱい居て大変なんじゃない?」
「なんか魔族軍に会わない為に山の上を通って行くって言ってた」
「山の上?ああ私たちも通って来たルートの事ね。確かに誰も居なかったけど相当寒いわよ?まあ上手くいくといいわね」
「うん………」
柚香たちが通って来たと聞いて、咲良はジュニアたちを見送った事を思い出した。
「あっ!」
「どした?」
「お姉ちゃんと会う前に、生き残った魔族の人たちを見送ったの」
「魔族を見送った?全滅したんじゃなかったの?えっ?誰を?」
攻めてきた魔族を見送るとか、疑問しか湧かない柚香。
「顔見知りの男の子だったの、名前は確かグリーゼだった。みんなをを連れてアッシャムスへ帰るって言ってた」
「グリーゼって男の子?みんな?」
「前にモンテラーゴで捕まってる時に助けたの。その時グリーゼって名乗ってたわ」
「ははぁ~ん、それ多分ジュニアね。角二本だったでしょ?」
「うん、角二本だった」
「みんなって言うのは後方支援部隊の事ね。なるほど、つまりジュニアたちと魔王討伐に向かった偉い人たちが鉢合わせするかもしれないのね?」
「うん、そう」
「偉い人たちって魔王討伐に向かうんだからきっと強いんだろうから、流石にジュニアや後方支援部隊ては無事じゃあ済まないたろうなぁ………でも生き残って欲しいなぁ」
「咲良も」
「どうするかな」
咲良の話しを聞いた柚香は、色々と考えられる事柄を話しておく事にした。
「私の推論を話すね。まずさっちゃんが神様にお願いされたって事だけど、少しずつこの世界は改善されていると思うのよ」
「えっ?咲良はまだ何もやってないけど」
「さっちゃんが神楽を舞ったりこの世界の人たちと接する事で良い方に変化してるみたいね」
「神楽をやるだけでいいの?」
「そうなるのかもね。私の見た限りじゃあこの世界の人たちは自己中心的だったしそれが当たり前だった。話しを聞いた限りだとさっちゃんが接した人たちはみんな変わっていってる感じがするわね」
「そうなの?今まで咲良は自己中心的な世界だとは感じなかったけど」
「だからなの。私の周りは自己中心的だったしさっちゃんの周りの人も自己中心的な世界だって言ってたんでしょ?でもさっちゃんと接した人、ラダック村の人たちもそうだけど自己中心的ではなくなってきてるわね。私がこの世界で抱きしめられたのってさっちゃんのママが初めてよ」
柚香は少し照れていた。
「………そうだったんだ。神楽はお姉ちゃんを探す為だったけど、これからも続けた方がいいって事ね」
「そそ。先ずは戦争を終わらす為に魔王を倒す事かしらね。角二本は戦いが好きそうだったけど、それ以外の魔族は戦いたいなんて考えなくなるんじゃない」
「そっかぁ………なんか色々な事が整理されてスッキリしたわ。やっぱりお姉ちゃんが一緒で良かった!」
「さっちゃんに喜んで貰えてよかったわ」




