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魔族軍第3軍!☆7


 避難する村人たちの為に戦うユズカ。もう爆弾は底をつきハンマーで戦っていた。

 年寄りや子供たちが犠牲になるのは堪えられないのだが、同族が死なないようにも手加減していた。

 魔王から名を与えられた事により角無しでも角一本(シングル)より強くなっていたユズカだったが、この数相手ではどうしようも無かった。


「はぁ、はぁ、はぁ、時間も稼いだだろうしもういいわよねって!うわっ!!」


 ドガッ!


 少し油断して攻撃を避け損なってしまう。


 ズザァァァァ!!


 「いったぁぁ……」


 倒れているユズカに、数体の魔族が襲いかかって来る。



「フンガァァァーー!」

「オラァーー!」

「ヒャッハアーー!」


「わぁぁ~~!待って待って!」


 突然上空から、ユズカと魔族の間に影が落ちて来た。


 ザンッ!シュパッ!ズザンッ!


 一瞬にして魔族たちが斬り捨てられる。


「へっ?」


 何が起きたか分からないユズカ。


 目の前の影が振り向く。


「大丈夫かい?」


 ユズカはその人物の顔を知っていた。妹、咲良の部屋にポスターがいっぱい貼ってあったからだ。


「おおおおっ!如月拓也(きさらぎたくや)!!」


 ビクッ!!


 急な叫び声にジャックはビビる。


「そんな訳ないか。しかし似てるなぁ」


 びくびくしながらもう一度話しかけるジャック。


「えっと、僕はジャック。村人たちを助ける為に来ました」


 魔物に襲われていた小麦色の肌の少女を村の人だと思っているジャック。


「あっ、大きな声を出してごめんなさいね」


「いえ大丈夫です。それよりみんなのところまで歩けます?」


「わたしは村人じゃ……」


 ガクッ!


 ユズカは村人じゃないからと断ろうとしたら、突然ジャックが膝をついた。


「くっ!」


「大丈夫?!って危ない!」


 ドカッ!


 ジャックに襲いかかろうとしていた魔族をユズカがハンマーで弾き飛ばした。


 少女の強さを見てポカンとするジャック。


「…………ありがとう」


「おあいこかしらね。大丈夫?」


「もう大丈夫。二人でなら村人たちのところまで行そうだね」


 一緒に行く流れにユズカは悩むが、村人と合流するどさくさで逃げればいいやと考え、とりあえず一緒に行く事にする。


「分かったわ拓っ!じゃなくてジャック。私はユズカよ」


「宜しくユズカ」


 何度か違う名前で呼ばれるが咲良もそうだったし、女の子はそう言うものなのかなとジャックは気にしない事にした。


 二人は追ってくる魔族を交代で退けながら、村人たちの元を目指した。

 暫くすると、ユズカが魔族を戦闘不能にするだけなのにジャックは疑問を感じる。


「トドメは刺さないの?」


 自分が魔族だとは言えず悩むユズカ。


「トドメねぇ…………みんな命令されてるだけだろうからかわいそうかなぁと思って」


「かわいそう?生き残った奴に誰かが殺されちゃうかもしれないんだよ?」


「そうかもだけど………」


「「!!」」


 真剣に話し込んでいる二人に魔族が襲いかかる。


 ドンッ!ドカッ!


 二人は魔族の攻撃を避け損ねるがすぐさま反撃、ジャックは斬り捨てるがユズカは死なない程度に弾き飛ばした。


「痛かったぁ~」

「やっばりとどめは刺さないんだね」


「……………やっぱり私には出来ないわ」


「………」


 戦闘で怪我をした二人に、ふわちゃんに乗っているウィスプからヒールがかけられる。


「えっ?なにこれ!もしかしてヒール?」


 身体が淡い光に包まれた事に驚くユズカ。


「ああ、仲間の召喚した精霊が一緒なんだ」


 ジャックが上空を指すと、精霊と聞いたユズカはもの凄い勢いで見上げる。


「おおおっ!えっ?あれが精霊??普通のお姉さんなんだけど」


「………」


 そう、ウィスプは白のパーカーにスカートと言ういつもの普段着姿だったのだ。精霊に見えないのはジャックも理解出来た。


 なぜか止まっていた二人は、また魔族たちに囲まれた。


「またか!」

「ゆっくり精霊さんも見てられないわね!」


 二人が身構えると、後ろから地鳴りと共に10人ほどの騎士がなだれ込んできた。


「「「「うおおおおおおぉぉ!!」」」」


「なんなの!?」


 騎士たちは二人を守る様に周りの魔族と戦い始めた。


「領主軍だ!さくらの言ってた援軍ってこの事だったのか」


「領主軍ですって?!!」


(逃げられなくなるじゃない!)


 喜ぶジャックとは裏腹に焦るユズカ。


 先頭で戦っていた一番強そうな騎士が気合いと共に魔族を一刀両断にする。


 ズザンッ!!


「君たちは下がって。全員気合いを入れろ!」


「「「はい騎士団長!!」」」


 騎士と魔族の力は拮抗していたが、騎士団長の存在感により領主軍は優勢に戦えていた。


 ユズカは少しずつ道の端に近づき森の中に逃げ込むチャンスを覗う。

 騎士たちは魔族との戦いに集中し、ジャックは領主軍の戦いに夢中になっていた。


 (今だわ!)


 ユズカが走りだそうとした瞬間、不意に後ろから抱きしめられた。


 (うわっ!なにっ?)


 振りほどく為にユズカは、ハンマーを握りしめて振り向いた。


「えっ?!」


 そこには息を切らしながらも嬉しそうに笑うエリスの顔があった。


「ユズカちゃん無事で良かったぁ~~」


 抱きしめられた温もりにハンマーを握るユズカの手が緩む。


 ユズカを抱きしめているエリスが叫ぶ。


「オリンド騎士団長!ユズカちゃんは見つけたわ!」


 先頭で戦っていたオリンド騎士団長が振り向く。


「分かった!全員聞こえたな!魔族を牽制しつつ撤退するぞ!!」


「「「「了解!!」」」」


「さあユズカちゃん避難するわよって、あなた誰?」


 ユズカの近くにジャックが居た。


 エリスはユズカを守るように背中に隠す。


「村人を助けに来たつもりなんですが………ジャックと言います。」


「助けに来てくれた騎士様たちの中には居なかったわよね?…………魔族なんじゃないの?」


 疑われて落ち込むが、信じてもらう為にジャックは空を指差しながら言う。


「えっと空から来ました………益々無理か」


 これじゃあ信じてもらえないなと、自分の説明に更に落ち込むジャック。 


「空から?」


 エリスはジャックを警戒しながら見上げると、ふわちゃんに乗った精霊ウィスプが手を振っていた。


「あらウィナ」


 ウィスプには子育ても手伝ってもらったし、一緒に生活もした。名前も相性のウィナで呼んでいる。エリスは服装でアリーチェが召喚した精霊だと気づいた。

 そしてアリーチェ関連ならと納得するエリス。


「分かったわ。一緒に避難するわよ」


 「えっ?信じてもらえた?」


 信じてもらえた事がジャックには信じられなかった。


 避難しようとしてジャックは、まだ奥で咲良たちが戦っている事を言おうかどうか迷った。


 精霊たちに守られているから大丈夫だとは思うが、他の人を守りながらだと何があるか分からない。咲良は心配だがこの人数で魔族軍に突っ込めば犠牲者が出てもおかしくない。それは咲良も望まないだろう。


 ジャックはどうしようかと上空のふわちゃんを見る。


 ウィスプを乗せたふわちゃんが優雅に飛んでいた。


(さくらが危なかったらあんなゆっくりしてないか)


 ジャックは自分を納得させ、みんなと共に避難を開始した。



 暫くすると追ってくる魔族があきらかに減ってくる。


「騎士団長!後ろの様子が変ではないでしょうか」


 「確かに少なすぎるな。追ってくるのを辞めたか、もしくは何かの作戦か?」


 オリンド騎士団長たちが後方を訝しげに見つめていると、森の中から疲労困憊したゴチェン村長たちが現れた。


「おおっ!ゴチェン村長殿!!」


「これはオリンド騎士団長!救援に来てくれたのか!」


「後ろの魔国軍は大丈夫だったのですか?」


「あぁ、まあ何とかじゃな」


 ゴチェン村長はアリーチェの事を話す事はしなかった。


「助けに来てくれてありがとう」


「いえ、無事で何よりです」


 ゴチェン村長とオリンド騎士団長は握手を交わた。




 *  *  *  *  *




 ゴチェン村長たちから少し離れた森の中では、咲良とジュニアが別れの挨拶をしていた。


 ゾスマ軍団長が倒された後ジュニアはすぐ全軍に戦闘中止命令を出したが、後方支援部隊以外は命令に従わず戦うのを辞めなかった。


「俺が弱かったからみんな従ってくれず死なせてしまった………」


 嬉々として暴力を振るう魔族たちを咲良とてどうする事も出来なかった。


「戦うのを辞めろって命令を出すなんて素晴らしい事だわ」


 寂しそうに笑うジュニア。


「残った仲間と共にアッシャムスに帰るよ」


「うん…………元気でね」


 ジュニアは森の中へと消えて行った。


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