魔族軍第3軍!☆1
魔族軍第3軍はロンバルディア教会の裏山をひとつ越えた山中で休憩をとっていた。
魔王との通信を終えたゾスマは、今後の動きを決める為地図を広げていた。
「教会以外で一番近い街は、このボスコってところか………」
山や森ばかりが書かれた端にボスコの名前が記されていた。
ゾスマの向かいではグリーゼの息子ジュニアが一緒に地図を見ている。
安全に経験を積ませる為に第3軍の後方支援部隊に配属されていたジュニアだったが、ゾスマの右腕だったスブラがやられた為に急遽側近として呼ばれたのだ。
「偵察任務の時、ボスコ出身の兵士が田舎者呼ばわりされていたので、かなりの田舎街なのだと思います」
ジュニアはクリストフィオーレ皇国の偵察任務に同行した事があり、多少なりともクリストフィオーレの事を知っていた。
ただその際に捕虜となり咲良に出会って助けられる事となったのだ。
「そうか。田舎じゃあ大した戦力は無いか」
「たぶん、ですが二日程の距離に大きな街があり、長引けばそこから援軍が駆けつるかと思われます」
「田舎街など二日もあれば充分、その後援軍が来ても返り討ちだ」
「ところで軍団長、先ほど部下から気になる話しを聞いたのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ、言ってみろ」
「はい!奇襲の為に教会へ向かっている途中の山に幾つかの灯りを見たそうです」
「灯りだと?」
「はい、ボスコよりも田舎に住んでるなんて聞いた事がありませんので見間違いだと思うのですが、一応お伝えしておこうかと思いまして」
「それはどの辺りだ」
「えっと進軍のルートからすると………この辺りかと思います」
ジュニアの指し示したところには山しか記されていなかった。
「一番高い山か………」
「………ですね」
「こんな山の上に住む奴なんて居るとは思えんな」
「やはりなにかの見間違いですね」
「いや、そうじゃない。住む奴はいないが警備兵なら話しは別だ」
「警備兵?」
「そう、警備兵だ」
「!!ってことはそいつらのせいで奇襲が失敗したってことですか?」
「そう考えるとつじつまが合うだろ。よし直ぐに向かって確認だ。本隊を休ませる為、後方支援部隊で行くからジュニアが指揮を執れ!」
「はいっ!敵が居たらどうしましょう?」
「居たら殲滅しろ!」
ゾスマはジュニアの経験不足を考慮して、弱そうな相手と戦わせる事にした。
「えっ、捕らえるとかじゃなく殲滅ですか?」
咲良に助けられてから他種族をそれ程悪く思わなくなっていたジュニアは、殲滅と聞いて動揺した。
「奇襲失敗がそいつらのせいかもしれないんだから当然殲滅だ!」
「そうですか…………分かりました」
ジュニアは咲良と出会ってから他種族への悪感情が薄れてきていたので、殲滅命令に戸惑ったが、軍団長の命令だから従うしかなかった。
* * * * *
ジュニア率いる後方支援部隊は、角無しで構成された輸送部隊である。
荷物運びが主な仕事で、その他に食料調達や負傷者の保護など戦闘以外なら何でもやる部隊だ。
他の部隊ならば角無しも戦闘に参加しているのだが、後方支援部隊は身体が小さかったり力が弱かったりして戦闘に向かない者が所属する部隊なので、全員初めての戦闘となる。
ジュニアは緊張している後方支援部隊員たちに装備を整えさせ、目的地目指して進軍させた。
ジュニアたちは一日かかって山をひとつ越え、灯りが見えた場所まで来た。
ゾスマ軍団長とジュニアが見上げる先には、幾つもの灯りがあった。
「本当にありましたね」
「ああ………灯りの数からして見張りの村かもしれんな。俺は口出ししないから思う存分暴れて来い!」
「………はい」
殲滅しなきゃいけないのでジュニアは憂鬱だった。
* * * * *
後方支援部隊の先頭でゆっくり山を登るジュニア。
そのすぐ後ろを後方支援部隊のまとめ役のユズカが歩いていた。
「後方支援部隊のちぐはぐな装備はなんなんだ?あんなんで戦えるのか?」
元々後方支援部隊員たちに装備は支給されていなかったので、今回は自分たちが運んでいた予備の武器や防具を装備した。一式揃っている者など誰もいなかった。
「装備の無い部隊で戦うなんて言い出すからでしょ。なんで後方支援部隊が戦わなきゃいけないのよ」
ユズカは角無しだが、角二本のジュニアに遠慮がなかった。
格が違うので普通だったら殺されてもおかしくないのだが、ジュニアは気にしてないようだった。
「本隊を休ませる為って言ってたし軍団長の命令なんだから仕方ないよ。それに今度の相手は弱いからきっと大丈夫なんだよ」
「相手が弱くっても後方支援部隊じゃあ負けちゃうかもしれないでしょ!」
「あまり大きい声を出すなよユズカ、軍団長に聞こえちゃうぞ?」
「聞こえてもいいじゃない!むしろ言いに行こうかしら」
「きっと後方支援部隊に敵を殲滅させて自信を付けさせたいんだよ」
「えっ?なに殲滅って?魔王様は抵抗しない者は殺すなって仰ってたから殲滅はマズいんじゃない?」
「ユズカは気にせず命令に従ってればいいんだよ」
「魔王様の命令を無視してるんだから気になるでしょ!」
「軍団長の命令だからいいんだよ!」
「魔王様の命令はどうするのよ!」
「もううるさいな!親父に言われたから俺の補佐にしてやってるのに、言うこと聞かないと首にするぞ!」
ユズカが就職先に困ってグリーゼに相談しに行った時、たまたま側にジュニアが居て補佐にする事になったのだ。
「雇ってくれた事は感謝してるけど、間違ってると思ったら軍団長でも言った方がいいに決まってるじゃない。言えないんだったらユズカお姉ちゃんが言ってきてあげよっか?」
「誰がお姉ちゃんだ!俺よりぜんぜん子供じゃないか!それに角無しのユズカが軍団長に意見しに行ったら殺されるぞ!」
角の本数による強さの違いは圧倒的だ。格上の者の機嫌を損ねたら先ず命はないのだ。
「あらっ?ユズカお姉ちゃんを心配してくれてるの?優しいじゃない!」
「誰が心配なんかするか!俺が怒られるんだから絶対言いに行くなよ」
前の世界で大学4年生だったユズカは異世界も合わせれば30才を超えている。10代のジュニアなど子供なのだ。
「はいはい分かった分かった。軍団長に言うのはやめといてあげるからちゃんと前向いて歩きなさい。転んで怪我しちゃうわよ」
「いちいちうるさいなぁ!」
怒りながらもちゃんと前を向いて歩くジュニアを見てユズカは微笑んでいた。
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