魔族軍の動向!
大陸最北端にあるアッシャムス魔国は、常に雪と氷に覆われた極寒の地だ。
にもかかわらず活火山の内部に造られた玉座の間は異様な熱さだった。
時おり吹き上がる真っ赤な溶岩を背景に、玉座に座る魔王レグルス。
目の前にある水晶玉の形をした通信用魔道具からは、第4軍軍団長グリーゼの声がしていた。
ーーー《俺が行った時にはすでに黒焦げでした》ーーー
「デネボラがか?!」
ーーー《ええ、黒焦げでしたが間違いなくデネボラでした。見てた奴に聞いたんですが相手はライオン獣人だったみたいです》ーーー
「ライオン獣人?ガンドルフの国王か。かろうじてSランクになったような奴に我が力を授けたデネボラが殺られたのか」
ーーー《ただ殺られた訳じゃなく、相手の片腕を斬り捨てたらしいですよ》ーーー
「そうか、敵の主戦力と言えど片腕じゃあ役立たずだろうな。デネボラが一矢報いたって事か」
ーーー《死ぬ程の戦い楽しかったんだろうなぁ》ーーー
魔王レグルスはグリーゼのもらした言葉に呆れていた。
「戦いは遊びじゃないんだぞ」
ーーー《はは、でも俺としては強い奴と戦うのは楽しくて仕方がないです。もちろん勝つのが前提ですがね》ーーー
「まあ負けなけりゃ楽しむのもいいだろう。ところで今、第1軍の指揮は誰が執っている?」
ーーー《えっと、副騎士団長のシェルタンとか言う奴だったと思います》ーーー
「角一本か。もう残ってる角二本はゾスマの元で経験を積ませてるグリーゼの息子だけだからな。仕方が無い第1軍もグリーゼが指揮を執れ!」
ーーー《ええ~っ俺がぁ~っ?第1軍の奴ら苦手なんだよなぁ~。いつも盾で守ってばっかで突っ込めって言っても遅そうだしなぁ~》ーーー
グリーゼ率いる第1軍は各自が自由に戦うフリースタイルで、第4軍は盾で守りながらみんなで戦う堅実なスタイルなのだが
「苦手だったらシェルタンを上手く使えばいいだろう。戦場ではより格上の存在が指揮した方が士気があがるのだ」
グリーゼは自分の暴れる時間が減りそうで不満だったが、魔王の指示は絶対だ。
ーーー《へいへい分かりました》ーーー
グリーゼのぞんざいな言い方はかなり無礼なのだが、やる気をなくされても困るので魔王レグルスは大目に見た。
「まあ頑張れ…………次、第2軍軍団長アルギエバはどうだ」
ヴェスパジアーナとクリストフィオーレとの国境にある前線基地で通信をする第2軍軍団長アルギエバ。
ーーー《はいっ!現在ヴェスパジアーナ共和国占領を終え、クリストフィオーレとの国境に居ります!兵の士気は高く魔王様のご命令があればいつでも攻め込めます!》ーーー
「もう占領を終えたのか?早かったじゃないか」
ーーー《はっ!魔王様に授かりました力のお陰です!》ーーー
「うむ、よくやった」
ーーー《勿体ないお言葉、ありがとうございます!》ーーー
「他軍の皇国攻め連係準備が整うまでゆっくり休んでろ」
ーーー《了解しました魔王様!》ーーー
魔王レグルスの言葉を聞いてグリーゼは不機嫌になっていた。
ーーー《連係の準備って、俺の占領待ちかよ》ーーー
通信用魔道具からグリーゼの愚痴が聞こえ魔王レグルスの口元が引きつるが、大切な侵攻作戦の最中に機嫌を損ねられても困るので、これも大目に見た。
「…………では次、第3軍軍団長ゾスマはどうだ」
第3軍軍団長ゾスマはロンバルディア教会から山を一つ越えた森の中に居た。
ーーー《申し訳ございません!教皇討伐に失敗してしまいました!》ーーー
声だけで土下座しているのが分かった。
「失敗?戦力としては充分だと思ったが」
ーーー《えっとその…………》ーーー
「早く話せ」
魔王を更に怒らる事になるのだが報告しない訳にはいかないので、ゾスマは覚悟を決めた。
ーーー《はい…………あと一歩で教皇を討つところまでいったのですが、強力な援軍が現れ撤退せざるを得ませんでした》ーーー
ゾスマは魔王レグルスに怒鳴られる覚悟をしていた。
「援軍?奇襲だったのにやけに早いじゃないか」
ーーー《はい、教皇は奇襲に驚いておりましたので上手くいったと思ったのですが、援軍が現れまして………申し訳ございません》ーーー
「そうか……………タイミング的に援軍じゃなく奇襲に備えていたのかもしれんぞ。教皇も意外とやるもんだな」
ーーー《奇襲がバレていたって事でしょうか?》ーーー
「そいつは分からんが、まあ気にするなゾスマ。どうせ教皇は我を討ちに来るのだろうから、我が葬ってやる」
ーーー《それでは魔王様を危険にさらす事になってしまいます!》ーーー
「その程度の奴など大丈夫だ。デネボラが一人潰してくれたしな。それよりよく無事だったな。準備されていたのなら全滅もありえたのだから撤退の判断は良かったぞ!」
ーーー《えっ、失敗した私を褒めて下さるのですか?》ーーー
「失敗だとは思っておらんから気にするな」
ーーー《あっ有難う御座います!!》ーーー
「それで次の動きだが、教皇は放っておいて、皇国内の街を片っ端から占領していけ。そうすれば敵の戦力を分散させる事になって王都を落としやすくなるだろうからな」
ーーー《はぅはい!了解しました!》ーーー
「良し以上だ!皆の奮闘を期待する!」
ーーー《《《はい!!!》》》ーーー
静かになった後も魔王レグルスは、物思いにふけるように何かかんがえごとをしていた。
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