表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

222/232

魔王討伐隊出発!


 山の上のロンバルディア教会での話し合いを終えた教皇たちは、魔王討伐準備の為クリストフィオーレ皇国王都に移動した。


 教皇たちは、王都に着いて直ぐにガンドルフ帝国で戦っているユリウス騎士団長と連絡を取った。


 カルロス国王の呼びかけにユリウス騎士団長の声が弾む。

 

ーーー《おおっ!カルロス国王様ご無事だったのですね!でも何故クリストフィオーレ皇国に??》ーーー


 自分たちを逃がす為に犠牲になったと思っていたカルロス国王の声を聞き、ユリウスは喜びつつも疑問を口した。


「色々あってな、連絡が遅くなってすまなかった…………それよりそちらはどういう状況だ」


 カルロス国王は秘密が多いし説明が難しいうえに長くなりそうなのでユリウスの質問をスルーした。


 何かを察したユリウス騎士団長は咲良の事を思い出していた。


(あのさくらと言う不思議な少女、本当に国王様を助けてくれたのだな)


 ユリウスの報告は次のような内容だった。


 現在はガンドルフ王都と港街エントラータの中間にある鍛冶の聖地ヴォルカーノを守りながら魔族軍と戦っていた。

 避難してきた者とヴォルカーノの住民を港街エントラータまで避難させたのだが、ヴォルカーノの鍛冶師たちが残り共に戦ってくれたようだ。

 自分たちが造った自慢の装備を身につけた鍛冶師たちはかなりの戦力になり、そのお陰で街を守りながら魔族軍と互角に戦えているとの事だった。



 報告を聞いた教皇たちは、ヴォルカーノから山脈越えをする計画にし、その旨をユリウスに伝えた。


 ーーー《分かりました!みなさんが到着するまで必ずやヴォルカーノを守りきって見せます!》ーーー


 王都レオーネから港街エントラータまでは船で一週間、そこからヴォルカーノは馬車で数日かかってしまうが、ユリウス騎士団長の声は力強く頼もしかった。




  *  *  *  *  *




 その日の夜。


 いつもの宿屋フレンドに戻ったジャンは、魔王討伐隊に参加する事とおおまかな計画を咲良とジャックに説明しておくことにした。


 国王から借りてきた貴重な地図を机の上に広げるジャン。


「うわぁ~大陸ってこうなってるだ~。小さな村もけっこうあるのね」


「学校にあったのとは全然違うだろ」


「うん、もっと大雑把だったわ。山と森と大都市の名前が書いてあるだけなんだもの。ラダック村なんて載ってなかったしね」


「まあ地形や街の情報は知らない奴らからしたら充分な情報になるからな」


「ふぅ~ん。この地図ラダック村が載ってて認められたって感じがして嬉しいわね。でも分かっては居たけどラダック村ってこんな山奥だったのかぁ」


「国王様から借りてきたやつだから全ての街も村も載ってるんだ。普通は貸してくれないんだがお嬢ちゃんに色々と説明しておきたいって言ったら貸してくれたんだよ」


「ふぅ~ん…………なんで咲良だといいの?」


「さっ、さあな、勉強の為だからじゃねえのか?」


 咲良の秘密を知ってるから貸してくれたなんて言えず、ジャンは適当に誤魔化した。


 ジャンも咲良の戦闘力は凄いと思っているが、まだ経験の少ない咲良を戦場に連れて行く気にはなれないのだが、もし自分たちが負けてしまった場合、残された者の中で魔王を倒せる可能性があるのは咲良だけだろうと考えていた。

 その為にも教えられる情報は出来るだけ教えておきたかったのだ。


「でな、ここが王都レオーネで、こっちが王都に来る途中に通った農業の街グイドだ。そしてモンテラーゴにボスコ、でもってここがセノフォンテ国境都市だ。今も魔族軍との睨み合いが続いてるそうだぞ」


「ラダック村って教会から山を二つ越えた所だったんだ~、直線距離だとそんなに遠くないのね」


 咲良はジャンの説明をまったく聞いていなかった。


「でな、ガンドルフのヴォルカーノって街がここにあって、俺たちはここから山に入って魔王城を目指してだな…………」


 咲良は地図を見つめて難しい表情をしていた。


「魔族の国ってこの辺なんだ………なんだろう、何か忘れてるような」


「で魔王城に着いた後、魔王のところまでは激しい戦闘になるだろうが、最初は俺が先頭に立って進むつもりだ………」


 急に真面目な表情になったジャン。


「んっ?どうしたのジャン」


「お父さん?」


「まあ………その、あれだ。少数で魔王城に突っ込むんだから犠牲者を出さずに済むとは思えないだろ?寧ろ俺の犠牲くらいで魔王の前まで辿り着けたらラッキーだよなって………」


「「……………」」


「だからだな、その…………覚悟はしておいてくれや」


「…………咲良も一緒に行こうか?」


「お嬢ちゃんを危険なめに合わせる訳にはいかんよ。俺だって生きて帰ってくるつもりだからそんな顔するな」


「無理しないでねって訳にはいかなそうね」


 ばつが悪そうなジャン。


「しんみりしちまって済まなかった。ジャック!お嬢ちゃんの事は頼んだぞ!」


 俯いてしまっていたジャックが顔を上げる。


「うん、分かったよお父さん。無事に帰ってきてよね」


 ジャンは泣きそうな二人を左右の腕で抱きしめた。


「作り治してあげたお守り持ってるみたいね」


 咲良はジャンの首に掛かっている白い御守りを見て言った。


「ああ、Aランク以上の働きが出来るのはこいつのお陰だからな。ありがとうな」


「ふふっ、また御守り割って帰って来ないでよね」


 不安を隠すように三人は微笑んでいた。





  *  *  *  *  *




 早朝の港。


 朝日が差す時間帯にもかかわらず薄暗い港には魔道具の街灯が点いていた。

 その灯りの下、ガンドルフ帝国へ向かう船に救援物資を積み込む作業員たちで港は活気に満ちていた。


 その片隅に魔王討伐隊の姿があった。



 魔王討伐隊のメンバーは全員で20名。

 クロエ教皇 LV60 聖属性。

 モーリス国王 LV60 土属性。

 カルロス国王 LV60 火属性。

 シーナ女王 LV56 風属性。

 レオナルド騎士団長LV58 氷属性。

 ジャン LV52 闇属性。

 騎士団員14名 LV35~40。



 昨日ユリウスから情報を得た教皇たちは、朝一番にガンドルフへ向かう商業船に乗せてもらって出発する事にしたのだ。

 急遽決まったにもかかわらず、みんなの表情はやる気に満ちていた。


 国のトップが勢揃いした魔王討伐隊の出発にもかかわらず、見送りは皇国王妃、第1王子、騎士団副団長など、ごく少数だった。

 少しでも目立たない為にと、派手な見送りはしない事になったのだ。


 クリストフィオーレ皇国王妃ベラドンナ・エウゼビオが言葉をかける。


 「皆様方のご武運をお祈りしております」


 不安を表情に出さないようにしているが、笑顔はどことなく堅かった。


「ベラドンナ、これだけのメンバーが居るんだ大丈夫だよ。安心して待っていなさい」


「モーリス…………無事に帰ってきてくださいね」


「お父さん!後のことはこの僕に任せて下さい!」


 第1王子クリスティアーノ・エウゼビオだ。

 セリフのわりに不安と緊張で強張った表情をしていた。


 モーリス国王としては心配なのだが任せるしかないのだ。


「ああ、頼んだぞクリスティアーノ。オリンドと連絡をとりあって協力してだな、副騎士団長ジラルドやラリアの言葉も聞くのだぞ」


 オリンドの名を聞いてクリスティアーノの表情は更に堅くなった。


 オリンドとはクリスティアーノの弟で、第2王子オリンド・エウゼビオの事だ。

 第1王子よりも第2王子の方が優秀なのは誰もが知るところだ。

 魔族軍が攻めてきた時、防衛の為に国王が真っ先にセノフォンテ国境都市に派遣したのは第2王子オリンドなのだ。


「大丈夫ですよ!お父さんが帰ってくるまで僕が国を守ってみせます!」


 モーリス国王は第1王子クリスティアーノの後ろに控えてる副騎士団長と側仕えのラリアに頼んだぞの意味を込めて目配せをした。


 副騎士団長ジラルドと側仕えラリアは目礼した。


 副騎士団長はもちろんだが、おっとりした雰囲気で王子をからかうラリアは知識が豊富で魔法も使える優秀な側仕えなのだ。


 モーリス国王と王子の話しが一段落したところで、王妃たちの後ろに控えていた咲良に教皇が話しかける。

 見送りを控えめにする事情の中でも、咲良の見送りは許可されていたのだ。


「さくらちゃん見送られるなんて応援されてるみたいで嬉しいわ。頑張っちゃおうかしら」


「もちろん応援しています。でも教会では危なかったんですから無理をなさらないで下さいね教皇様」


「あらっ?私が教会で危なかったのをなぜ知ってるのかしら~?」


 クロエ教皇は楽しそうに言った。


「あっ!えっと、その、ジャンに聞きました!」


「うんうん、そうだったのね。あまり人には話してなかったからあの場に居たのかと思ったわ。あの時はね、いろんな方たちが戦ってくれたお陰で助かったのよ。有難うね」


 クロエ教皇は咲良に向かって嬉しそうにお礼を言った。


「えっ、咲良はその場には居ませんでしたのでお礼を言われましても………」


「ふふ、私はあまりお礼を言った事が無いから練習よ練習。そうだわ、さくらちゃんが練習に付き合ってくれると嬉しいんだけど」


「えっと、教皇様がよろしければ咲良はかまいませんが」


「もちろんよ。じゃあいくわよ。さくらちゃん、助けてくれて有難うね」


「…………いえ、どう致しまして」


 咲良は名指しでお礼を言われて戸惑ったが、練習だからと気にしないことにした。


 クロエ教皇は満足そうに微笑んでいたが、まだ咲良と血が繫がっていると話せていない事が心残りのようだった。

 一個人としてなら話しただろうが、教皇の立場上、話す訳にはいかなかったのだ。


 自分の娘に魔法の才能が無かったら捨て、孫に魔法の才能があるから引き取るとか、節操がなさ過ぎて教皇の威厳が保てないし、信者たちの信仰を失いかねないからだ。

 自業自得とは言え、クロエ教皇は寂しさを感じていた。


「じゃあさくらちゃん、頑張ってくるわね」


「はい、ご無事を祈ってます」


 これ以上の親しい関係は望めないクロエ教皇だが、充分幸せそうだった。




「じゃあジャック、お嬢ちゃんを頼んだぞ!」


 ジャンはジャックに右手を差し出した。


「えっ?!」


 ジャックは父と握手などしたこと無かったので戸惑った。


 ジャンは真っ直ぐジャックを見つめた。


 一人前の男として認められたと感じたのだろう、ジャックは心が熱くなっていった。


「はい!命に代えてもさくらを守ってみせます!」


 がっしりと握手をしたジャンは、ジャックを引き寄せて小声で言う。


「えっとな、前に咲良を守ってる精霊に言われたんだが、死ぬのは勝手だが守る者が居なくなるから死んだらただじゃおかないってさ…………死んでも何されるか分からないんだ。怖いだろ?だから命に代えてもは無しだ」


「ははっ、出来るだけ頑張るよお父さん」


 二人は固い握手をしながら笑っていた。





  *  *  *  *  *





 出航する船に手を振りながら見送る咲良とジャック。


「本当はタッくんも一緒に行きたかったんじゃないの?」


「今の僕じゃあ邪魔なだけだよ。それより僕にとっては咲良と一緒にいて守る方が大事なんだ。その為にももっと強くならなきゃいけない。あっ!もちろんさくらが嫌じゃなかったらの話しだけど……」


「べっ、別に嫌なんかじゃ………」


 咲良は恥ずかしそうにそっぽを向きながら、今回の争いの事を考えていた。


 どうして魔族は戦争をするのか。

 攻められた側にとっては突然だったが、魔族側からしたらたくさんの準備をして過酷な山脈を越えて来たのだ。

 そこまでする思いが咲良には分からなかった。


「山脈まで越えてどうして………ああっ!教会に来た魔族軍か!」


「えっ魔族軍?!何処に?!」


 ジャックは突然の事に驚きつつも、咲良を背に庇いながら周りを警戒した。


 ジャックに守られながら、照れたように咲良は謝った。


「ごめんタッくん、違うの」


 咲良は昨日地図を見てから気になっていた事をジャックに説明した。


 教会を襲ってきた魔族軍が山脈のどのルートを通ったのかや、教会から撤退して今どの辺りに居るのかが頭のどこかで気になっていたのだ。

 地図を見た限りラダック村はルートから逸れてそうだったがそれほど遠くはないし、村が見つかれば魔族軍が襲ってもおかしくない距離だった。


 「タッくん!ラダック村の様子を見に行こうと思うの!」


「うん、行こうさくら!」


 咲良はなんだか胸騒ぎがしていた。


 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆



 読んで頂き有難う御座います。


              m(_ _)m


 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ