突然の首脳会談?☆3
ロンバルディア教会の応接室で咲良との仲良し自慢が一段落すると、クロエ教皇が真剣な表情になる。
「それで今後の事なんだけど、魔王討伐隊を編成してできるだけ早く出発しようと思うのだけどどうかしら?」
「賛成だな。魔王さえ倒せば魔族軍は弱体化するから王都を取り戻せる。俺は今すぐでもいいぜ!」
カルロス国王はガンドルフで戦っている者たちの事を想っているのだろう、直ぐにでも飛び出して行きそうだ。
「じゃあ明日出発とかどうかしら?」
クロエ教皇の言葉に慌てるモーリス国王。
「いや教皇様、流石に明日は性急すぎます」
「モーリス国王、遅れればそれだけ犠牲者が増えるのよ?」
「今もユリウスたちはガンドルフで戦っているのだぞ!」
「気持ちは分かりますが、必ず勝たなければいけないのですから慎重に計画を立ててからの方が良いのでないでしょうか。魔王の居場所も分かっておりませんし」
「居場所?前線の何処かで軍を指揮してるんじゃないの?」
「ガンドルフでは見かけなかったな」
「ヴェスパジアーナでも魔王を見たと言う話しは聞かなかったですわ」
「教会に攻めてきたのは軍団長だったわね」
「やはり前線で見た者はいないようですね」
「やはり?」
「はい、過去の文献によるとですね、魔王は魔族全体に力を及ぼす為に魔王城を離れられないようなのです。だからなのでしょう千年前に魔王と戦った場所も魔王城だったようです」
「だとするとアッシャムス魔国の城まで行く必要があるのか」
「断言は出来ませんが、おそらくそうです」
「う~む、魔王城まで魔族軍を突っ切るのはちと骨が折れるな」
「カルロス国王、流石にそれは無茶と言うものです。魔王との戦いに力を温存する為にも、出来るだけ戦わず隠密裏に魔王の所に辿り着かなければなりません」
「できるだけ戦わずにか………」
残念そうなすカルロス国王を見て、モーリス国王が苦笑いする。
「魔王を倒す為ですから我慢して下さい」
「まあ仕方がないか」
「アッシャムスまで海から回り込むのはいかがでしょう?ヴェスパジアーナには氷の海も進める丈夫な商業船が有りますわ」
シーナ女王の提案をカルロス国王が思案する。
「確かに海に魔族はいなさそうですね。ただ海がどの程度氷ってるかが心配になりますか。状況によっては進めなくなる可能性も考慮する必要があります」
「う~ん、それもそうですわねぇ」
「それじゃあ魔族軍がやったように山脈を越えるのはどうだ?」
「山脈越えですか…………ありかもしれないですね。最大の敵は過酷な環境になりますが、しっかり準備すれば乗り越えられるんじゃないでしょうか」
「なら決まりね。細かい準備はモーリス国王にお任せするわ。行くのはここに居るメンバーでいいのよね?」
「おうよ!ガンドルフで戦ってるユリウスは無理だが、ここには7英雄の血筋が5人も揃ってるんだ充分だろう」
「ジャンさんもいることですしね」
「えっ?教皇様、俺なんかじゃあSランクの皆さんの邪魔になっちまいますよ」
「そんなことないぞ!ガンドルフじゃあ、ジャンが単独で角2本を倒した話しは有名だぞ」
「あれは倒したんじゃ無く逃げられたんだが………」
「一緒に居たPTが酒を飲む度に誰彼かまわず話すもんだから帝国では誰もが知る凄い英雄伝になっておるぞ」
「そりゃまた困ったもんだ」
「角2本の魔族に勝ったのは事実なんだから問題ないだろう。次は魔王と戦ってみたいだろ」
魔王との戦いを嬉しそうに話すカルロス国王に、周りのみんなは呆れ顔だ。
「角2本の魔族ですらやっとだったんだ、流石に魔王は厳しいな。それにガンドルフに攻めて来た中にグリーゼがいたんだがかなり強くなってやがったんだ。また逃げられたんだが今じゃ相手にすらならんかもしれん」
何年も無茶な努力をしてやっと仇を討てそうな所まできたジャンはかなり悔しそうだ。
「そう落ち込むなよ。魔王の力で強くなただけだろ。魔王を倒せば元通りの強さだ。それに魔王討伐の途中で出くわしても1対1にこだわる必要は無いんだ。俺たちみんなが居るんだから勝てるさ。だから一緒に行こうぜ!」
「………………」
ジャンは迷った。
同行すれば仇を討つチャンスはありそうだが、咲良の秘密を知られてしまった今、咲良を独りにしておくのが心配だったのだ。
「有り難い話しなんだが、俺じゃなくても騎士団員に強い奴は居るんじゃないか?」
「ジャンほどの奴はいないぞ?ジャンは騎士団長クラスだからな」
クリストフィオーレの騎士団長レオナルドはLV58で教皇の護衛も務めていて、ガンドルフの騎士団長ユリウスはLV60で現在魔族との最前線で戦っているのだ。
そんな者たちと同じクラスだと言われたジャンは、柄にもなく照れていた。
「流石にそんな事はないだろう、俺はまだLV52のAランクだぞ?」
「レベルだけが強さじゃないさ」
「そうね、ヴェスパジアーナに来て下さるなら騎士団長としてお迎え致しますわよ?」
「いやシーナ女王様、冗談がきついですよ。俺に騎士団長が務まる訳ない」
「ふふっ、私は本気ですわよ」
「ほら、みんなジャンの強さを認めてるって事だ。魔王討伐に行こうぜ!」
「しかし独りにする訳には………」
「独りって息子のジャックか?あの年でかなりのレベルだったよな。なんなら一緒に連れて行ってもいいぞ?」
「いや、ジャックの心配じゃなくてだな、お嬢ちゃんの方だ」
「お嬢ちゃん?ってさくらって子の事か?確かジャンに娘はいなかったよな…………まさかその子が好きで離れたくないのか?」
「なんですって!ジャンさんはもう大人でしょう!私の孫に手出しはさせないわよ!」
急に立ち上がった教皇により部屋が変な空気になり、みんながジャンを冷たい目でみた。
「そっそんなんじゃないっ!まだ子供だしお嬢ちゃんを独りにしとくのが心配なだけだ!変な貴族とか王族とかから守る為にな」
「「「「あぁ」」」」
ある程度咲良の秘密を知ったみんなは、ジャンがみんなを警戒している事に納得した。
「そうだったのね、勘違いして申し訳なかったわ。さくらさんは大切な孫だから私も協力するわ。何かあったらなんでも相談してちょうだいね」
「俺も協力するぞ。さくらと話しはしてないがガンドルフで助けてもらった事を忘れたりしないし、恩を仇で返すような事もしないぞ」
「私もよ。さくらさんに嫌われるようなことをすると、ヴェスパジアーナの国民に怒られちゃうから」
「う~む、回復魔法だけでも魅的なのにそのうえ強い精霊を召喚できるんだよな。凄い戦力なんだがな」
「「戦力ですって?」」
「「戦力だと?!」」
うっかり凄い戦力発言をしてしまったモーリス国王はみんなから睨まれた。
「あっいや、今のは違くて、あれですあれ、えっとですね………」
つい本音を言ってしまって慌てるモーリス国王。
「私の孫を戦場に連れて行くつもりなのかしら?」
「女の子に対して凄い戦力だなんて失礼だわ!」
「モーリス国王、魔王討伐に子供を連れて行くのはまずいぞ!」
国民を守る王として出来るだけ戦力が欲しいのは事実だし、もう誤魔化せないと悟ったモーリス国王は、素直に思っている事を話す事にした。
「みなさんの仰るとおりかもしれませんが聞いて下さい。私たちは国民の為にも絶対勝たなければいけないですから戦力が多いに越した事はない筈です」
「そりゃそうなんだが………」
「みなさん冷静に思い返して下さい。さくらって子は魔力がある事を感じさせないのに魔法を使え、あの年でもうすでに精霊と契約して召喚まで出来る。これは凄いを通り越して信じられないことです!」
「………まだ本人に聞いてないから本当かどうか分からないけどね」
「教皇様は神級魔法を確認なさったんですよね?つまりあの年で神の加護を与えられていると言う事です!これまた信じられない!」
「「「「…………」」」」
みんな心の中で思っていただけに何も言い返せなかった。
「更には精霊を複数召喚出来るとかもはや理解出来ません!」
クロエ教皇が言葉を絞り出す。
「…………まだ子供なのよ?」
「…………確かに私も思いました。しかし国民の命がかかっているんです。魔王に負ける訳にはいかないんです。強力な戦力があるのならそれも準備しておきたいのは国王として当然ではないでしょうか」
国民の為、ここに居る王族は同じ思いだろう。
勿論、子供を戦わせたくない思いも同じだ。
誰も結論を出せず沈黙が続いた。
「なあ…………俺たちじゃあ魔王に勝てないと思っているのか?」
沈黙を破ったのはカルロス国王。
「…………そんな事は思ってません。負けるつもりで魔王に挑んだりしませんから」
伏し目がちだったみんなが視線を上げる。
「そうよ、私たちが勝てばいいんですわ」
「魔王討伐は俺たち大人の仕事だからな」
「その為の7英雄だものね。モーリス国王、負けるつもりがないじゃなくて勝ちに行きましょう」
みんなが覚悟を決めるように顔を見合わした。
「………ふっ、仕方ないですね。皆さんとなら勝てる気しかしないですね。さくらさんの事は諦めますよ」
モーリス国王の言葉にみんなが微笑む。
「でどうだジャン。ここに居るみんなはジャンが心配する程さくらって子を悪くは思ってないようだぜ。教皇様に至っては孫だって言い張ってるくらいだ。誰も変な事はしないさ」
「ちょっと、言い張ってるんじゃなくて本当の孫なのよ!誤解のないようにね」
「あっすんません教皇様。だそうだジャン。安心したか?」
ジャンが周りを見ると、みんなの視線は優しかった。
咲良を守ろうとするジャンを好ましく思っているようだ。
「分かりました。お嬢ちゃんが教皇様の孫かどうかは別として、何処まで役に立てるか分からないが同行させて下さい」
ジャンは覚悟を決め、深々と頭を下げた。
「おう!魔王をぶん殴ってやろうぜ!」
カルロス国王とジャンが力強く握手をした。
みんなの心が一つになったところでモーリス国王がジャンに質問を投げかける。
「ところでその腕、義手ではないですよね、神級魔法ですか?」
モーリス国王はもう一つ思っていて聞けなかった事をジャンに聞いたのだ。
ジャンは異国の義手だと言っていたのだが、どう見ても生身の腕にしか見えない。
咲良の力がここまであきらかになった今なら魔法である事は明白だった。
諦めたかのようにジャンが答える。
「「………ああ神級だと思う」」
ジャンとカルロス国王の言葉が重なった。
「「「「えっ??」」」」
言った本人も含めみんなが戸惑った。
次の瞬間、カルロス国王は自分の失った腕を魔法で治してもらったと伝えてない事に気が付いた。
「あっ、ジャンの事だよな…………実は俺も失った腕を治してもらってるんだよ」
「「「「はあぁああっ??!」」」」
「あっいや、話すタイミングがなくてな」
カルロス国王は魔族との戦いで腕を失い、女神様を通すかたちで魔法で治してもらっている事を包み隠さず話した。
「なるほど、女神様に治してもらってる事になっているのですね」
「ああ、それがさくらのやり方だな。精霊が扮してる筈なんだが、回復魔法だと思うんだが聖属性のウィスプじゃ無く知らない精霊だったんだ。後で思い出してみるとはっきりさくら様に感謝しろって言ってたんだよな」
「なぜ隠さなかったのでしょう」
「さあな。まあ俺もその時は気がつかなかったけどな」
「なんにしても困っている者たちの助けにもなるまさに奇跡としか言いようの無い魔法ですよこれは」
「その魔法での事なんだが、お嬢ちゃんは王都で知り合いになった女性の腕と足を治してるんだよ」
「「「「ええっ?!」」」」
「危険じゃないですか!」
「いや、その人は何をされても言わなそうだったな。俺と同じくらいお嬢ちゃんへの恩を感じていたようだったぞ」
「それならまぁ…………、しかしすでにさくらさんは自分の身を危険に晒してまでも、困っている者を助けていたのですね。落ち着いて話しをしたいものです」
ジャンは微妙な表情をしていた。
「どうしたジャン、まだモーリス国王が信用できないか?」
カルロス国王の問いかけに、悩みつつも口を開くジャン。
「いや、お嬢ちゃんは誰にもばれてないと思ってるんだが、ここに居るみんなが知っている事を話しといた方がいいのかなあと思ってな」
「「「「……………」」」」
部屋に居るみんなが考え込んでしまった。
暫くの沈黙の後、結論を出したのはやはり教皇だった。
「さくらちゃんから話す気になるまでこのままでいいんじゃない?孫の隠し事に付き合うのもおばあちゃんの努めだわ。皆さんも付き合ってくれるわよね?」
「勿論ですわ」
「俺に異論はないな」
「まあ、教皇様がそう仰るのなら」
こうしてみんなは、咲良の秘密を知りながらも知らないふりをする事となった。
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読んで頂き有難う御座います。
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