突然の首脳会談?☆1
魔族軍撤退から半日、クリストフィオーレ皇国からの援軍が到着した。
援軍の第1陣にはモーリス国王、カルロス国王、シーナ女王など主要メンバーが揃っていた。
通常、王都から山の麓まで馬車で1日、そこから山の中腹にある教会まで1日、つまり2日かかるのだ。
そこを第1陣は1日で到着したのだから、相当なハイペースだったのは間違いない。
それなのに到着した彼らが目にしたのは、瓦礫を片付ける者や教会の空いたスペースで治療を受ける者たちなどで、魔族は何処にも居なかった。
出迎えたレオナルド騎士団長は、かなりの強行軍で来てくれたのが分かったし何故か各国首脳陣が勢揃いしていたので、もう援軍の必要が無い状況なのがかなり気まずかった。
「モーリス国王様、カルロス国王様それにシーナ女王様………駆けつけて下さりありがとうございます」
「ああ……」
「ええ……」
「おぅ…………レオナルド、魔族軍は何処なんだ?」
モーリス国王の言葉にレオナルドは返答に詰まる。
「えっとですね…………撃退したと言うか撤退していったと言うか……………とりあえず魔族の脅威は去りました」
「おお!撃退出来たのなら良かったではないか!それほどの数では無かった様だな」
「えっと、そうですね、全体を数えた訳では無いのですが、千は超えていたかと思います………」
「なに?この教会に千も居たら占領されたのと変わらぬではないか。それを撃退した?千は言い過ぎだと思うぞ千は…………まあ良い、魔族が居ないのであれば落ち着いて話しをしようではないか。クロエ教皇様は無事なのであろう?」
「はい勿論でございます。今は負傷者の治療をされておりまして、もうじき来られると思います」
そして援軍の主要メンバーは応接室へと案内された。
* * * * *
応接室に居るのは、教会側としてはクロエ教皇と護衛のレオナルド騎士団長、援軍側はモーリス国王、カルロス国王、シーナ女王、それと剛腕のジャンである。
何故ジャンが居るのかと言うと、カルロス国王がジャンの同席を強く主張したのだ。
みんな疑問に思ったが、特に反対する理由もないのでジャンの出席が認められた。
「皆さん、これ程早く駆けつけてくれた事、感謝します」
それぞれ秘密を抱えて緊張している中、教皇の言葉から話し合いは始まった。
「魔族の脅威は去りましたが、犠牲者の弔いや教会の復旧など、やらなければならない事がたくさんあるので力を貸してもらえると助かります」
「勿論です教皇様。教会をお守りするのが我々の役目ですからすぐに取りかからせましょう。魔族軍が撤退したばかりですので我々は少しの期間滞在致します。今こちらに向かっている第2陣は引き返させ、復旧に熟達した者たちを王都から呼び寄せるように致しましょう」
「ありがとう、モーリス国王」
「……………それで教皇様、いったい何があったのでしょうか?」
クロエ教皇は少し悩んだ末に説明を始めた。
裏の山脈を越え多数の魔族が攻めてきた事。
細い山道を進軍してきたからか、一度に対処すべき数がそれ程多くは無かったのでなんとか撃退出来たであろう事。
目的は教皇の命だった事。
リーダー格の者を逃がしてしまった事などを淡々と話した。
「そうでしたか。教皇様がご無事で何よりでした」
「レオナルド騎士団長を始めとする駐在の騎士たちが頑張ってくれたお陰ね」
「魔族軍を撃退とは凄いじゃないかレオナルド!よくやってくれた!魔族は強かったであろう?」
扉の横に立っていたレオナルドは複雑な表情で教皇と視線を交わした。
レオナルドはこの話し合いの前にさくらの事は秘密にする旨を教皇から言われていたのだ。
事の重大さに慎重になるのはレオナルドも理解出来たので、慎重に言葉を選び多くを語らないようにした。
「私は任務を果たしたまでです」
カルロス国王はレオナルドの雰囲気に引っかかりを覚えた。
(魔族軍を撃退し教皇様を守ったのにテンションが低いな。説明は筋が通っているように思えるが魔王によって強化された魔族の強さを知る私には納得出来ない内容だな。王都に残ったにもかかわらずさくらと言う少女が何かやったのではと期待してしまう…………ふむ、私が隠し事をしていてはなにも進まんな)
「ちょっといいですかな?」
みんながカルロス国王に注目する。
クロエ教皇もレオナルドもカルロス国王がここに居る事を疑問に思っていた。
「ええ、ガンドルフで戦っている筈のカルロス国王が助けに駆けつけてくれたんですから、何でもどうぞ」
「おお、そうでした、それから話した方が早いですな」
カルロス国王は自分がここに居る経緯の説明を始めた。
一万の魔族軍に敗北し、王都を明け渡した事。
現在住民は王都を出て避難途中である事。
自分は王都に最後まで残って戦い、クリストフィオーレ皇国まで転移した事などを話した。
「クリストフィオーレ皇国に転移した所で教皇様の危機を知り、馳せ参じたと言う訳です」
帝国軍が敗北した事に驚きを隠せないクロエ教皇。
「帝国軍の強さを持ってしても魔族軍を止められなかったと?」
「悔しいですが魔王の力により強化された魔族軍は強かったです。指揮官などはSランクの私と互角な程で、魔王の力がこれ程とは思いませんでした」
クロエ教皇はゾスマを思い出しながら頷いていた。
「確かにそうね…………あっ!帝国には転移魔法を使える者が居ると言う事なの?」
思い出した様にモーリス国王も話しに加わる。
「私も一度聞いたのですが半信半疑なんですよ!だって全部女神様のお陰だなんて言うんですよ?教皇様の救援に向かうのが慌ただしかった為詳しく聞き直す事も出来ずにいたのです」
苦笑いのカルロス国王。
「皆さん揃ったところで話したかったのでタイミングを待ってたのです。そうですね今話しましょうか。そうすれば教皇様とレオナルド殿が隠している事も話しやすくなるでしょうから………」
クロエ教皇とレオナルドの表情が曇る。
カルロス国王はみんなからの警戒する視線を浴びた。
「みんなが腹を割って話せる様に、先ずは私から話します」
そう言ってカルロス国王はガンドルフ帝国であった事を話し始めた。
魔族軍1万の中には指揮官が2人居てその強さはSランクに相当し、他の魔族たちはAランクからCランクの強さであった事。
「雑魚でもCランクがあの数居るからかなり厳しい戦いになる。なんとか早めに魔王討伐を果たしたいところだ。でここから話すのが最も重要な事だから聞いてくれ」
カルロス国王は前置きをしてから、咲良が関係した出来事を話し出した。
少女は召喚した精霊ウィスプに女神を名乗らせて、その女神がやってるように見せかけて最前線で戦う騎士たちを長時間『ヒール』で回復し続けた事。
ウィスプの他にも見たことの無い精霊を2人召喚した事。
戦闘で失った右腕を魔法で元通りにしてくれた事。
そして少女の転移魔法で、ガンドルフ帝国からクリストフィオーレ皇国まで転移した事などを話し終えた。
呆然としている者、驚いている者、警戒を強める者などそれぞれ違う表情をしていたが、誰も言葉を発しなかった。
みんなを見渡しながら、カルロス国王は続けた。
「信じられないと思っている方も居るでしょう。そんな者が居たら自分の価値が失われてしまうと思っている方も居るでしょう。秘密がバレてしまったと思っている方も居るでしょう。ここでの皆さんの判断によって世界が助かるかどうかが決まります」
応接室はそれぞれが思い悩んで重苦しい雰囲気に包まれた。
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本作を読んで頂き有難う御座います。
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