ガンドルフ帝国での戦い!☆5
魔族を吹き飛ばしながら城に向かうカルロス国王を先頭に、ユリウス騎士団長、ジャン、ジャック、それと小脇に抱えられている咲良。
咲良は片腕で盾を持ち魔族を吹き飛ばしながら進むカルロス国王にドン引きしながらも、疲れ果てた身体で必死に走るユリウスを回復するかどうかで悩んでいた。
(先頭のたてがみが焦げてるライオンさんは国王様って呼ばれてたから腕を治しちゃったらきっと問題だわ。まぁ元気そうだし片腕でも大丈夫でしょ。あと後ろで遅れ始めているおおかみさんはヒールをかけてあげないとダメっぽいのよね。まあ周りに魔族がいっぱい居るしみんな必死に走ってるからきっとバレないでしょ。良し!回復してしまおう)
少し遅れ気味のユリウスにジャンが声をかける。
「ユリウス殿大丈夫か?」
「はぁ、はぁ、はぁ。すまん、私の事は気にせず先に行っ…………なっ!?」
咲良がこっそりかけた『ヒール』でユリウスの傷と体力が回復した。
Sランクのユリウスは魔力の流れから誰の魔法であるかは分かるので、すぐにジャンが抱えている少女を見た。
咲良はいきなりユリウスと目が合いビックリして、すぐにそっぽを向いた。
(えっ?あれっ?バレないように少なく『ヒール』をかけたのにいきなり咲良を見たわよね?………あっ違うか!ジャンが話しかけたからジャンを見たんだわ。なんだ、目が合ったとか思っちゃった。うん、『ヒール』はバレてないわ)
あきらかに目が合っているのに、咲良は自分に都合のいいように勘違いした。
遅れず走ってついて行けるようになったユリウスは、そっぽを向かれた少女の事を考えていた。
(傷も治ったし体力もかなり回復している。ただの『ヒール』では無かったな。一度の魔法でSランクの私をここまで回復する少女が居るなんて知らなかったな。人攫いにしか見えんがジャン殿が抱えてまで連れている訳だ。って言うかさっき思いっきりそっぽを向かれたよな?いつの間にか嫌われてたのか?御礼を言いたいんだが話しかけてまたそっぽを向かれたら立ち直れんしな。女の子だしこれ以上機嫌を損ねたら回復してくれなくなるかも。そっと見守っていくのがいいかもしれん)
ユリウスは真剣に悩んでいた。
* * * * *
カルロス国王たちが王城に到着すると、門の前では兵士たちが必死に戦っていた。
「国王様ご無事でしたか!」
「国王様!」
「国王様がいらしたぞっ!」
「みんな!すまんがもう少し踏ん張ってくれ!」
「「「はい国王様!!」」」
国王の姿を見た兵士たちの士気は上がっていった。
城内に入ったカルロス国王は、残っていた指揮官を集め会議室に向かった。
一緒に走ってきたジャンやジャックそして咲良も流れで会議室に入っていった。
咲良たちは途中で止められそうになったのだが、ユリウス騎士団長が「みんな一緒だから」と、止めようとする兵士を下がらせていた。
会議室では国王を中心に指揮官たち主要人物が机を囲んで席に着いた。
その1つの席にちょこんと座っている咲良はかなり浮いていた。
指揮官たちから現状の報告が成される。
「魔族軍の侵攻は王都の中心であるこの城まで達しており、王都の半分は占領されたと考えるのが妥当かと思います」
「魔族軍と戦いながら城まで下がってきた者たちと城に居た兵士たちで、城の正門と裏門を守って居ります」
「早めに避難していた住民は王都を脱出して無事ですが、遅れて避難を始めた住民たちが魔族に襲われ被害が出て居ります」
深刻な状況に会議室の雰囲気は重くなっていった。
「そうか魔族は住民をも襲うのか。分かった。それじゃあ私の方から1つ。魔族軍の指揮官は2人居たようだが、一人は私が討ち取った」
「「「おお、流石は国王様」」」
指揮官たちは喜びつつもカルロス国王の右腕が気になって複雑な表情をしていた。
「んっ?ああ説明が遅れたな。この右腕と引き換えにその指揮官を討てたのだ…………皆、そんな顔をするな」
カルロス国王は魔族の指揮官を討った事でみんなを元気づけようとしたのだが逆効果になってしまった。
ユリウスが助け船を出す。
「もう一人の指揮官はジャン殿により瀕死の状態だ。だから魔族軍は統率されていない筈だ」
「「おお!」」
「流石はジャン殿だ!!」
「俺だけの成果じゃ無いぞ。着いた時にはユリウス殿によってかなり弱っていたから出来た事だ」
「謙遜されなくてもいい。私がやられそうだった所をジャン殿に助けられたのだから」
「まあまあ2人の成果で良いではないか。そうすると2人の指揮官の内1人は討ち取り1人は瀕死状態って事だな。魔族軍の指揮が乱れているこの隙に全員王都から避難する事にしよう。直ちに戦っている兵士や冒険者たちの避難を進めてくれ」
「国王様!この国を明け渡すのですか!」
「国王様!私はまだまだ戦えます!」
悔しそうに訴える指揮官たち。
「勘違いするな。今はこの地を渡す事になるだろうが、いつか取り戻す!それとな、私にとってガンドルフ帝国とはこの地の事ではなく、お前たち国民こそが国なのだ。何処にいってもお前たちさえ居てくれればそこがガンドルフ帝国なのだ!」
「「国王様………」」
「すいません国王様!」
「私が浅はかでした!」
「うむ。全ての者の避難を進めてくれるな?」
「はい!直ちに残った者全てを避難させてみせます!」
指揮官たちはやる気に満ちた表情で会議室を出て行った。
静かになった会議室には、城まで一緒に走ってきたメンバー、ジャン、ジャック、咲、ユリウス騎士団長と、その部下数名が残っていた。
「ユリウスよ話がある」
静かな部屋にカルロス国王の声が響く。
「はい、何でしょう国王様」
「兵士や国民が避難し終わるまで、私は城の正門で魔族を引きつけておこうと思う」
「分かりました!私たち騎士団も共に戦います!」
「ああ、騎士団員は一緒で良いのだが、ユリウスは避難させる者たちのしんがりを務め戦いながら王都を脱出して欲しいのだ」
「えっ?それでしたら城には私が残り魔族を惹きつけますから、カルロス国王様が王都を脱出して下さい!」
カルロス国王は悩んだ末に重い口を開いた。
「………私は右腕を失った。もうユリウスの方が強いのだ。これからの国王はユリウスが務めてくれ。私はその礎となろう」
「何を仰います!私は国王様をお守します!」
「私もです!」
「「私も!」
「「国王様!!」」
ユリウスも騎士団員たちも目が潤んでいた。
ちょこんと椅子に座っている咲良は場違い感が半端なかった。
空気が読める咲良なのだが、流石に居たたたまれなくて声をかけた。
「あのぅ………急いだ方がいいのでは」
「んっ?おおそうだな。すまんすまん。ジャンの家族じゃったか?」
「………まぁそんな感じです」
「うむ、では国王として指示を出す。ジャン殿にはすまんがユリウスと共に避難する者たちのしんがりを努めてもらいたい。勿論子供たちも一緒に避難してくれ」
ユリウスはまだ自分がしんがりメンバーである事に不満だった。
「国王様!私は城に残りますから、国王様はジャン殿と避難して下さい!」
カルロス国王がどう言ったらいいか悩んでいると、先ほど会議室から出て行った指揮官が部屋にかけ込んで来た。
「国王様!裏門にも魔族が増えてきました!早く避難を!」
「城内の避難の状況はどうだ?」
「はっ!もう少しかかるかと思われます」
「分かった。正門の魔族は私が押さえ込む。その間に城内の者たちを避難させよ!ユリウスとジャン殿は裏門で戦い避難者と共に避難しろ」
「しかし国王様!」
「ユリウス!これは命令である」
「………国王様」
悔しそうなユリウス。
「ユリウスよ、私は大丈夫だ。先ほども魔族たちの中を通り抜けて城まで辿り着いたであろう。まだ死ぬと決まった訳ではない」
「…………」
咲良とヒソヒソ相談をしていたジャンが顔を上げる。
「その命令に従う義務のない俺たち家族は、カルロス国王様と一緒に戦う」
「ジャン殿なにを言い出すのだ」
カルロスはやっとユリウスを説得出来たのにと渋い表情をする。
「俺はここの国民じゃないから好きにさせてもらう。家族とも相談済みだ」
「家族の為を思うのなら子供を連れて避難するべきだ!」
咲良がおずおずと発言する。
「えっと、家族会議で決まりました。ライオンさんと一緒に戦います」
(放っておくとライオンさん片腕が無いだけで死のうとしそうだし、ジャンに聞いた通りだと助けられそうだしね)
「ほら、家族もこう言ってる。ユリウス殿は安心して避難者のしんがりを務めてくれ」
困り果てて頭を抱えるカルロスとは対照的に、ポカンとした表情のユリウスはジャンの言葉の真意を考えていた。
(ジャン殿は私を生かす為に国王様と共に死ぬつもりなのか?でも死ぬ気なら子供たちを私に預ける筈だ。少女も同意していた様だがいったい何を考えている。まだ未来ある子供が戦地に赴くなど…………分からん。分からんがしかし、ジャンたちの眼は死にに行く者の眼ではない。賭けてみるか)
「ジャン殿。国王様を任せてもいいだろうか?」
思い詰めた表情のユリウスに、ジャンは軽く応える。
「んっ?ああいいぜ。うちのお嬢ちゃんが決めた事だしな。また後で会おうぜ」
(フッ、また後で会おうぜとか気軽だな………お嬢ちゃんが決めた?少女には何か策があるのか?本当にまた会えそうな気がするな)
ユリウスは咲良に向き直り頭を下げた。
「お嬢さん。国王様をよろしく頼む」
「??」
突然の事に焦る咲良。
(あれっ?なんかバレてる感じ?そう言えばこのおおかみさん結構強いわ………回復しちゃマズかったかしら)
「………えっと、咲良は一緒に行くだけで、頑張るのは他のみんなだから、みんなにお願いしたらいいんじゃないかな」
柔らかく笑うユリウス。
「フッそうだな」
(良かった………嫌われてないみたいだ。それに国王様の事、断らなかったな)
ユリウスは何か吹っ切れた感じの清々しい表情になり、国王に向き直る。
「分かりました国王様!避難する者たちのしんがりを務めさせて頂きます!」
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本作を読んで頂き有難う御座います。
m(¬ ¬)m m(¬ ¬)m <(_ _)>
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