魔物討伐の準備!☆2
出発式も終わり、ラダック村には冬の足音が近づいてくる。
そんな季節の事などお構いなしに、朝からアリーチェの家は賑やかだった。
エリスとアリーチェが食べている朝食を、ウィンディーネが食べてみたいと言いだし、それなら俺も私もとなって、精霊達みんなと朝食を食べていた。
エリスは精霊が食事をするなど聞いた事が無かったので、ウィスプに聞いてみた、
「私たち精霊は魔力やその元となる魔素で成り立っておりますので、食事は必要ございません。その空間に魔素がない場所でも、アリーチェ様に魔力を少し頂くだけで存在する事が出来ます。ですがご覧の通り食事が出来ない訳ではありませんし、食事に興味もあります。体内で分解して魔力を吸収できますので、より魔力を多く含んだ食物の方がエネルギーになります」
「へぇ~そうなのね、知らなかったわ。じゃあ魔力を含んでそうな材料を使って料理すればいいって事ね。どんな材料が魔力をふくんでいるのか分かる?」
「魔素の濃い地域で育った食材なら大丈夫です。ラダック村も魔素が濃い地域ですので、村の作物などは好ましいです」
「村で採れた作物でいいのなら特に気をつかう必要はないわね。これからはできるだけ一緒に食事をしましょう」
「はい、ありがとうございます」
「みんなアリーチェの為に来てくれてるのだから、こちらこそありがとうね」
クッキーを食べながらご機嫌なウィンディーネ。
「お友だちの家に遊びに来て、おやつも食事も食べられるなんて最高だわ。それに初めて食べたけど凄く美味しい」
「あら、お口にあって良かったわ、ありがとうね」
他の精霊たちも美味しそうに食べていた。
* * * * *
ラダック村の魔法陣の設置場所として、物置小屋を使っていい事になった。
みんなで荷物を片付けてお掃除をしたが、精霊9人もいるとあっという間だった。
少し休憩してから、魔法陣の設置を始める。
空間魔法なので、ランパスが先生だ。
片づけられて広くなった小屋の中には、アリーチェとランパスと何故かワクワク感満載のエリスがいた。
エリスはアリーチェが心配だからと言いつつ、ただ見てみたいだけのようだった。
「これからするのは魔法陣を設置する為の魔法でテレポートする訳ではないわ。失敗しても魔法が発動しないだけだから安心してね」
「はいっランパス先生!」
アリーチェはやる気満々だった。
「それじゃあ、私がアリーチェちゃんの肩に手を置いて魔法陣の模様と大きさのイメージを補助するから、現れる魔法陣を見て模様を覚えてね。最初は詠唱を頑張って覚えてもらったけど、馴れれば詠唱は必要ないからね」
「うん、今はまだ覚えてるから大丈夫!」
アリーチェはつい先ほどランパスに教わって詠唱を頑張って覚えたばかりだった。
「じゃあやってみましょう」
「はいっランパス先生!」
ランパスがアリーチェの肩に手を置く。
やる気満々のアリーチェは部屋の中央に向けて両手をかざし、はやる気持ちを落ちつかせて詠唱に集中する。
静寂に包まれた物置小屋の中に、アリーチェの声が響き始める。
「偉大なるヘカテー神に賜りし冥府の影法師達、我は神と共にあり、其方達と共にある。我意思に準じて、今、精霊と共にその力を、転位の魔法陣として顕現せよ」
詠唱とランパスのサポートにより、アリーチェの頭の中には魔法陣がイメージされていた。
部屋の床が仄かに光り出し、アリーチェの頭の中にあった魔法陣が徐々に浮かび上がってきた。
神秘的な魔法陣の光に、アリーチェとエリスは目を奪われていた。
初めてみる光景にエリスが呟く。
「王城にあると聞いたことはあるけど……神秘的ね………。詠唱に神様の名前があった気がしたけど、もしかして………」
ランパスは当然の事のように答えてくれた。
「ええ、神級魔法ですから神様の加護が無いと出来ないわ。私も補助は出来るけどアリーチェちゃんが居ないと魔法は成立しないのよ」
いろいろ慣れたはずのエリスが固まってしまっていた。
「えっと………つまり………アリーチェが使えると言うことは……」
ランパスはまたまた当然という感じで言う。
「アリーチェちゃんには全ての神様の加護があるわ。だから全ての属性の精霊たちがアリーチェちゃんの所に来てるのよ。まあアリーチェちゃんなら加護がなくてもみんな来たと思うけどね」
あり得なさすぎて困り果てるエリス。
「そう………アリーチェ、ママはちょっとベッドで休んでくるわね」
エリスは覚束ない足取りで部屋を出ていった。
本来ならば、精霊と契約するのも大変な事だし、神様の加護は一生かかってもほとんど与えられる事がないのだ。
現在、神様の加護を与えられているのはロンバルディア教会の教皇だけである。
ロンバルディア教会信徒全ての信仰があるので、教皇という立場になった者には神様の加護が与えられるのである。
加護の事などまったく分かってないので、のんきなアリーチェ。
「エリスママ調子悪そうね、大丈夫かな………あれっ?魔法陣、消えちゃった!」
魔法陣の光が徐々に弱まって消えてしまっていた。
「魔法陣の光は少し経つと消えるけど、魔法陣はその場所に存在してるから大丈夫よ。少し魔力を流すと現れるわ」
それを聞いたアリーチェは、魔法陣があった所を足で踏んで魔力を流してみる。
「本当だ。使う時だけ光るのね、便利だわ」
魔法陣は神秘的な光りを放っていた。
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