ガンドルフ帝国での戦い!☆2
正門付近は避難する住民たちでごった返していた。
帝国軍が魔族なんかに負ける筈がないと避難しようとしない者も居たが、魔族軍が北門の外まで来ていると説明されるとすぐに避難していった。
そんな避難する人混みの中に、逆走するかたちで北門に向かう咲良たちの姿があった。
ドッドッドッドッドッ!
ダッダッダッダッダッ!
タッタッタッタッ!
ジャン、ジャック、咲良の順に誰も息切れせずに走っているのだが、咲良が徐々に遅れ始めた。
(やっぱ咲良の歩幅じゃ着いていけないわね。こんなに人が居る所『フライ』で飛ぶ訳にもいかないし……)
「ジャン、タッくん!咲良は後から追いつくから先に行ってて!」
咲良をチラッと見たジャンが、スピードを落とし咲良に手を伸ばした。
「すまんお嬢ちゃん、気が焦っていた」
「咲良の事はいいから先に行っ………」
ジャンは咲良をひょいと小脇に抱えると、走るスピードを上げた。
咲良はそれを見て気づく。
「………ゴメン。スピードを落としてくれてたのね」
ジャンは咲良に微笑んでいるが、すれ違う者たちには少女を攫って逃げているようにしか見えなかった。
* * * * *
戦場と化した北門広場。
真っ先に帝国軍に突っ込んだグリーゼの前に、Sランクのユリウス騎士団長が立ちはだかった。
魔族軍が北門を攻める前から、カルロス国王とユリウスは防壁の上から魔族軍の様子を観察して指揮官を注視していた。
そして2人の指揮官をカルロス国王とユリウスが手分けして相手をする事にしたのだ。
「私はガンドルフ帝国騎士団長ユリウス。ここから先へは行かせん」
「ユリウス?俺はグリーゼ。お前中々強そうだが、俺は探してる奴が居るんだよな」
ユリウスが剣と盾を構えるが、グリーゼは背中の大剣を抜かずただゆらゆらと立っているだけだった。
「どうした、剣を抜かないのか?」
「探すのはコイツと戦ってからでもいいか。いいからいつでもかかって来いよ」
「…………そうか」
グリーゼの発する魔力は今まで感じたことが無い程禍々しく、ただ立っているだけなのに身震いする程だった。
ユリウスはグリーゼと言う名に聞き覚えがあった。
(ジャン殿が殺し損ねた魔族が確かグリーゼって名だったよな………マジかこんな奴に勝ったのかよ)
ユリウスは渋い表情をしながらも気を引き締めグリーゼに集中した。
ユリウスが一歩踏み出したかと思うと一気に間合いを詰めグリーゼに剣を振り下ろしていた。
「ほう」
グリーゼは感心しつつも、身体をひねって躱し蹴りを放った。
ドゴッ!!
グリーゼの蹴りを咄嗟に盾で受け止め、ユリウスはその衝撃を利用して距離をとった。
「………油断してくれてる内に終わらせるつもりだったが反撃してくるとはな」
「俺の蹴りを防いだ奴は久しぶりだな。くっくっくっ楽しくなってきたぜ」
グリーゼは嬉しそうに背中の大剣を握った。
ユリウスは身構える。
なんの前触れもなく目の前にはグリーゼの大剣が振り下ろされる所だった。
ユリウスは無意識に盾で受け止め剣で反撃していた。
だが剣の先にグリーゼの姿は無く、次の瞬間背中へ強い衝撃が奔った。
「んぐっ!!」
体勢を崩しながらもユリウスが振り返って構えると、グリーゼがニヤニヤして立っていた。
「あんたの名を思い出したよユリウス騎士団長様」
「………先ほど名乗ったからな」
「そうだっけか?まあ思い出したのはユリウス騎士団長様は双剣使いだって話しをだよ。その腰に差してるもう1本の剣…………本気出した方がいいんじゃねぇの?」
狼獣人のユリウスは、盾でどっしり構えるのではなく、素早い動きでの連続攻撃が得意な戦い方だ。
このままでは厳しいと考えていたユリウスは、グリーゼの要望通り盾を置きもう1本の剣を抜いて構えた。
「二刀流の私に大剣ではついてこれないぞ?」
「いいから来な」
ユリウスとグリーゼの姿が消え、剣のぶつかる音だけが響いていた。
キンッ!キンッキンッ!
シュパッ!
キキンッ!キンッ!
シュパッ!シュパパッ!
キンッ!キンッ!キキンッ!
シュババッ!
二人が一旦間合いをとると、グリーゼは傷だらけになっていた。
「いやぁ~、楽しいねぇ~」
「傷だらけで楽しむ余裕なんてないだろ?」
「余裕で楽しいぜ?」
「次で終わらせてもらう!」
「かすり傷しかつけられないし無理でしょ」
かすり傷と言われてユリウスは歯を食いしばる。
常に決定打を狙って攻撃しているのだが、全て躱されてかすり傷しか与えられていないのだ。
「まあ十分楽しんだから、こっちも終わらせてもらうよ」
そう言ってグリーゼは大剣を地面に突き刺して放した。
同時にグリーゼとユリウスの姿が消える。
ドスッ!ガッ!ドカッ!
ボゴッ!ガンッ!ボスッ!
ボスッ!ドンッ!ドゴッ!
ガンッ!ガンッ!ガンッ!
打撃音がやみ、現れたユリウスの姿は殴られまくってボロボロだった。
グリーゼは格闘が得意だったようで、スピードの上がった攻撃をユリウスは剣で受けきる事が出来なかったのだ。
2本の剣で身体を支えるユリウス。
「はぁ、はぁ、はぁ………素手が得意だったとはな」
「ああ、喜んでいいぜ。俺が素手で戦ったのは魔王様以外はお前が初めてだ」
「そうか、じゃあ私も素手で戦うかな」
「はあっ?」
ユリウスが杖代わりにしていた2本の剣だけが残り、ユリウスの姿が消えた。
「!!」
一瞬遅れてグリーゼが動きだす。
ガッ!ドカッ!ドガガッ!
ドドッ!ガンッ!ガンッ!
ドカッドカッドカッ!
再び姿を現した2人はお互い睨み合っていた。
グリーゼは信じられなかった。
「素手で俺と互角とか、マジかよ」
「私も驚いているよ。狼獣人の最大の武器は牙と爪だ。剣を使うよりも得意な戦い方なのだ。魔族といえど獣人以外が互角に戦うとは思わなかったよ」
「魔王様のお力により強くなった俺と互角とか凄えぜ。だから冥土の土産に見せてやろう」
グリーゼは全身に力を込め集中する。
「はあぁぁぁあぁあぁああああああああああ!!!」
気合いと共に魔力の禍々しさが増し、グリーゼの身体がが更に強靱になっていった。
「ふしゅぅ~~ふしゅぅ~。くっくっくっははははははっ!見ろこのみなぎる力を!!」
「………」
更に強さを増したグリーゼを、ユリウスは睨みつけていた。
グリーゼがニヤッと笑うと二人の姿は消え、打撃音が響き始めた。
ドンッ!ガンッ!ドガッ!
ドスッ!ボコッ!ガンッ!
ドカッドカッドカッ!
再び現れた2人の姿は対照的で、グリーゼは満足そうに腕を組み、ユリウスは両腕が力無く垂れ下がり立っているのがやっとの状態だった。
「まだ立っているとはそのタフさに感心する、よくやった!褒美として次に全力で終わらせてやる」
「はぁ、はぁ、はぁ」
ユリウスの目には悔しさが溢れていた。
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本作を読んで頂き有難う御座います。
m(¬ ¬)m m(_ _)m
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