侵攻開始!
エントラータからガンドルフ帝国へ入国した咲良は、今後の許可取りを考え最初に帝国の王都で公演をしてしまおうと考えていたのでそのまま王都に向かった。
乗り合い馬車で王都に向かう途中に大小いくつか街はあったが、どの街も武器防具店が多く、食料関係の店が少ない事に咲良は驚いていた。
帝国に住んでいて武器防具に関わらない者は肩身が狭く生活し辛いのだ。
しかし咲良が一番驚いたのは、どの街に行っても広場に串焼きさくら亭の屋台があった事だ。
屋台を覗いてみると串焼きとカップスープが売っていて、買って食べてみると咲良の知っている味だった。
咲良が話しを聞いてみると、屋台は地元の孤児院の人がやっていた。
孤児院に突然商人ギルドの綺麗なお姉さんとぽっちゃりした料理人が訪ねて来て、串焼き屋をやらないかと言われたそうだ。
戸惑っていると店の準備を全てやってくれて串焼きの焼き方も教えてくれたのだとか。
そのうえ孤児たちに冒険者のいろはを教え鍛えてくれたそうだ。
最後にぽっちゃりした料理人が「いつ抜き打ちチェックに来てもいいように、毎日紳士に串焼きと向き合うように」と言い残して去って行ったそうだ。
綺麗なお姉さんはダニエラでぽっちゃりした料理人は間違いなくサンドロだ。
何処にいってもぽっちゃり認定されるサンドロに、咲良は同情した。
* * * * *
ベルトランド大陸最北端に位置するアッシャムス魔国。
一年中雪と氷に閉ざされた極寒の地だ。
そこにある活火山に魔族は住んでいた。
燃えるような溶岩溜まりを背にした玉座に魔王レグルスは座っていた。
漆黒の肌で筋骨隆々の身体、そして頭には立派な3本の角があった。
燃えさかる溶岩にも劣らぬ激しくも禍々しい魔力に満ち溢れていた。
魔王が見下ろす大広間には大勢の魔族軍が勢揃いして、静かに魔王レグルスの言葉を待っていた。
魔王軍の先頭には角2本を持つ軍団長4人、その後ろに角1本の魔族が並び、更に後ろに角無しの魔族が整列していた。
第1軍軍団長デネボラは屈強で頼もしい体躯をしている。
彼の率いる第1軍も鍛えられた肉体の者たちだ。
第2軍軍団長アルギエバは細身で背が高かった。
彼の率いる第2軍も細身で背の高い者が多く、槍などリーチの長い武器を装備していた。
第3軍軍団長ゾスマは、小柄でずんぐりむっくりな体型で鍛えられた非常にタフそうな身体をしていた。
彼の率いる第3軍も、小柄で鍛えられた身体の者が多く、斧やハンマーなど力の必要な武器を装備していた。
第4軍軍団長グリーゼは、ジャンとの戦いの怪我も治り、更に鍛えられた俊敏な体つきになっていた。
彼の率いる第4軍も、グリーゼと同じようなスピード重視の体つきだが、持っている武器は大剣、双剣、ハンマー、槍、弓と様々で、本人の好きにさせているようだ。
魔王レグルスは、グリーゼを一瞥してから全軍をゆっくりと見渡した。
「お前たち、準備は出来ているようだな。ついに我々魔族がこの世界を支配する時が来た。思い半ばで散っていった先人たちの無念を晴らすのだ!向かってくる者に容赦はするな!だが逆らわぬ者は奴隷として役に立つから生かしておけ!殺すのはいつでも出来るからな。魔族の未来の為に奮い立て!」
「「「うおおおおおおおぉ!!!」」」
地響きのような歓声があがった。
魔王レグルスは歓声を肌で感じて満足そうだった。
「うむ。では第1軍団はガンドルフ帝国、第2軍団はヴェスパジアーナ共和国、第3軍団は山脈を越えてロンバルディア教会を攻め落とせ。あと第4軍団だが…………どうするグリーゼ?我はこの城を離れられぬが共にこの城に残る必要はないぞ?」
「はっ!ガンドルフ帝国を希望します。そこに殺したい奴が居ますので」
「フッやる気があるのはいいことだ。では第4軍は第1軍と協力してガンドルフ帝国を攻め落とせ。そして最後に全軍でクリストフィオーレ皇国に攻め入るぞ。全軍の奮起を期待する」
魔王レグルスは立ち上がり、大きく息を吸いこむと、拳を強く握りしめ前進に力を込めた。
「はあぁぁぁぁああああああああっ!!」
雄叫びと共に魔王レグルスから禍々しい魔力が広がっていく。
その魔力に反応して、後ろの溶岩溜まりから黒く禍々しい魔力が空高くに登っていく。
天まで届いた魔力は暗黒雲となり、ベルトランド大陸全土に向けて広がり始めた。
魔王の魔力の影響で、広場に整列していた魔族たちの身体が変化し始めた。
「「「ぐおぉおおおおおおぉぉ!」」」
「「「ぬあぁぁああああああぁ!」」」
全員、血管が浮き出て筋肉が盛りあがり始め、徐々に身体が強化され一回り大きくなっていた。
魔王レグルスは力強くなった魔族軍を満足そうに見渡して言った。
「さあ暴れてこい!全軍侵攻開始だ!!」
「「「うおぉぉおおおおおおおおおおぉ!」」」
魔族軍の雄叫びに呼応するかのように、溶岩溜まりから立ち上る禍々しい魔力は勢いを増していった。
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