アッシャムス魔国!
大陸の最北端にあるアッシャムス魔国。
極寒の地だが、強い身体を持つ魔族にはそれ程苦にはならなかった。
アッシャムス魔国に街はひとつしかなく、その街は火山に洞窟を巡らせて作られていた。
溶岩の側の大広間に魔王の玉座はあった。
燃えたぎる溶岩を背にした玉座には、魔王レグルスが不機嫌そうに座っていた。
魔王レグルスに見下ろされながら、2本の角を持つ4名の魔王軍幹部たちが跪いていた。
「お前たち準備は出来ているか?」
「はい、第1軍いつでも出撃出来ます」
黒色の肌をした屈強で頼もしい体躯の魔王軍第1軍団長デネボラが応えると、細身で背の高い第2軍団長アルギエバが続いて応える。
「第2軍いつでも出撃出来ます」
「第3軍いつでも出撃出来ます」
小柄でずんぐりむっくりだが非常にタフそうな第3軍団長ゾスマも応えた。
最後に身体中に包帯を巻いた痛々しい姿の第4軍団長が応える。
「まだ私に第4軍を預けて頂けるのですか?」
「この前の事でどうしようかと思ったんだが、他に候補が居なくて仕方なくな」
「申し訳ございません魔王レグルス様。では第4軍いつでも出撃出来ます」
魔王レグルスの不機嫌さが増した。
「なあグリーゼ、部下は出撃出来てもお前は無理じゃないか」
グリーゼはまだジャンと戦った時の傷が僅かしか治って居らず、身体中に包帯が巻かれているのだ。
「この程度の怪我、大したことありません」
「死にそうな姿してよく言う」
「……………」
「ふんっ、まったく、魔族は怪我の回復に時間がかかると言うのに。仕方がないグリーゼの身体が万全になるのを待つとするか。どれくらいかかりそうだ?」
悔しそうなグリーゼ。
「……1年程もあれば………」
「1年か………我々魔族にとっては大した時間ではないな、よし皆の者、それまで軍を更に鍛えておけよ。1年後に全軍で侵攻を開始する!」
「「「はい!魔王様」」」
魔王レグルスはグリーゼを見下ろす。
「グリーゼ、1年後には好きなだけ暴れさせてやるから、それまではまた部下を失ったりせず大人しく怪我を治せ」
「………はい、魔王様」
その様子を広間の片隅で、グリーゼの息子ジュニアが見ていた。
モンテラーゴの牢獄から咲良が助けた2本の角を持つ少年だ。
(1年後…………さくらは大丈夫かな)
* * * * *
魔族は男女問わず15才から徴兵され3年間の兵役をこなす義務があり、兵役が終わる18才で一人前とされるのだ。
18才と成った角有りは全員軍人となり、角無しは街で一般的な生活を送る。
勿論、緊急時には角無しも戦闘要員となる
魔王レグルスに名前を与えられたユズカは、魔族の街で働き口を探していた。
街での仕事は食料品店、飲食店、服飾店、雑貨店など、この世界にある街とそう変わらなかった。
ユズカは店を片っ端から回ったが、まだ兵役もこなしてない10才のユズカを雇うところは何処も無かった。
ユズカは最後の望みをかけて、街外れの雑貨屋の主人と交渉していた。
「絶対に損はさせないから私を雇ってよ!」
「生意気言って、半人前の子供なんか雇うかよ」
「確かに子供だけど私はもうすぐ11才よ。計算も出来るし可愛くて愛想もいい、売り上げアップ間違いなしだからね」
ユズカは黒髪にぱっちりした眼で、他から見ても可愛らしい容姿だった。
「可愛くてもガキじゃあしょうがねえな。それにうちの商品はどれも銅貨1枚だから計算の必要なんてないし俺1人で充分だ。商売の邪魔だあっちいけ!」
「なによっ!後で後悔しても遅いんだからね!」
最後の店もダメだったユズカ。
(やっぱ子供が雇ってもらうのは無理だったかぁ~。自分で商売すればいいんたけど元手がないのよね~。自分の事しか頭にない両親は何も残してくれないで死んじゃったし)
ユズカの母は数年前に亡くなっていて、今回父がジャンにやられた事で、天涯孤独の身となった。
(元手も無く身体一つで出来る商売を考えないと)
魔族の国に冒険者ギルドは無いが、魔物の素材を買い取ってくれる素材センターと言うのがある。
角無しの中でも戦い好きの者たちが魔物を狩ってきて素材を卸すのだ。
(魔物を狩れれば仕事として成立するけど、子供の私じゃあ狩りをするPTには入れてもらえないだろうし。私だけじゃあ魔物に勝てそうもないしなぁ~。グリーゼなら楽勝なんだろうけど…………。魔王様に名前をつけてもらった私にグリーゼは「独りで生きていけるだろう」って言ってたけど、どう言う事?すでに生きていけなくなりそうなんだけど。名前をもらった時に力が湧いてくる感じがしたけど、強くなったって事なのかな?グリーゼに聞いておくんだったわ。おっ今から聞きにいってみるか)
ユズカはグリーゼに会う為に城に向かって歩いていった。
* * * * *
クリストフィオーレ皇国。
咲良は王都レオーネを出て最初の街グイドに居た。
ブラックシープから助けた羊飼いペーターの住む街だ。
羊飼いペーターの話しを咲良から聞いたダニエラは、チーズの生産場をこの街に作る為にペーターを雇いましょうと提案してきた。
咲良は全ての判断をダニエラに丸投げした。
さっそくダニエラは牧場を買い取り羊飼いのペーターとその家族や友人を雇い入れた。
そして王都のさくらカフェから主人のニコデモと娘のリディアを呼び寄せてグイドの街にもさくらカフェを開店させた。
1週間でさくら牧場は形になり、チーズの生産量が格段にアップした。
咲良とジャックはダニエラがさくら牧場にかかりっきりになっている間に、神楽公演の話しを進めながら、街外れの孤児院で串焼きさくら亭をオープンさせていた。
孤児たちを鍛えてFランクの魔物と戦えるように育てる事も忘れない。
咲良とジャックは孤児たちを鍛えながらも、魔物討伐依頼をこなして経験値と金稼ぎも行っていた。
神楽公演の許可はすぐに降りて、グイドの子供たちに神楽を観てもらう事が出来た。
1ヶ月ほどでグイドでの全ての用事を終え、咲良たちを乗せた馬車は次の街へと旅立って行った。
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本作を読んで頂きありがとうございます。第3章の終了となります。
第5章では魔族との戦争に入ってまいります。
今後もよろしくお願いします。
m(¬ ¬)m m(_ _)m
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