荷物が増えた出発式と魔物討伐の準備☆1
夏の終わりの出発式の日。
綺麗な石畳になった神の泉広場には、いつもより多めの荷物を持った村の男達が集まっていた。
中央にはゴチェン村長と、雑貨屋テンチューおばあちゃんの娘でニッチェさんが居た。
娘と言っても40才でふくよかな頼りになるお母さんだ。
ニッチェさんは女たちが編んだ村の名産品を街の露店で売る為に、男たちと共に街に行くのだ。
村の女性たちはニッチェさんの周りに集まって、自分達が編んだ編み物のことをあれやこれやと賑やかに話していた。
「みんな大丈夫よ絶対売れるわよ、どの商品も良く出来ているし、今まで見たことない物ばかりだわ。セーターとかふわふわっとしてるし、小物は柄が細かいしね!みんなと相談した通り、高めの値段で攻めるからね」
女性たちは盛り上がっていた。
アリーチェは護衛PTの中にピエロを見つけて走っていった。
アリーチェに気が付いたピエロが、笑顔で声をかける。
「やあおはようアリーチェ、また会えたね」
「おはよ~ピエロさん!」
近くにきたアリーチェを見たピエロ。
「少し背が伸びて、前よりも更に可愛くなったね。将来はお母さんのように美人さん間違いなしだね」
アリーチェをサラッと褒めるピエロ。
アリーチェは赤くなる。
「あっありがとう。ピエロさんの彼女さんに、誕生日プレゼントのお礼を渡してほしいの」
「勿論いいよ、どんな物?」
アリーチェはプレゼント袋を渡す。
ピエロが中を見てみると、栗毛色の髪で髪型はサイドで束ねてカールがかっていて、赤いフリルのスカートを着た可愛い女の子の人形だった。
誕生日のお礼にと、手間暇かけてアリーチェが編んだ物だった。
ピエロは彼女が裁縫をやっているのである程度は見る目があるが、編み物の人形の出来に驚いた。
「これは凄い!編んだ人形なんて初めて見たよ!これは………嬉しいけど、こんな凄い物貰うわけにはいかないよ」
「いいのよ、彼女さんの為にアリーチェが編んだ人形だから貰って欲しいの」
「えっ!これをアリーチェちゃんが編んだの?………これ本当に凄いよ、貴族に高く売れると思う!」
少しジト眼のアリーチェ。
「彼女さん用だからね……」
人形をまじまじと見てたピエロ。
「あっうん、もちろんさ、凄く喜ぶよ、ありがとうアリーチェちゃん」
少し苦笑いのピエロだった。
出発式はいつもより賑やかな雰囲気に包まれていた。
村に残る女性たちの声援に見送られて、期待の名産品を背負った男たちとニッチェは出発していった。
* * * * *
家に戻ったアリーチェは、リビングのテーブルにエリスと共についていた。
周りには久しぶりに精霊達が勢揃いしていた。
私服姿をした水属性の精霊ウィンディーネがアリーチェに抱きついていた。
「あっちゃんどんだけ呼んでくれなかったのよ~、パパにも早く紹介して欲しいのに~!」
「ルカパパは以外と気が小さいから、ゴメンねディーネ」
「まぁいいわ、この冬はずっとあっちゃんの家に居るから」
「んっ?うんわかった、他の村人に見つからないようにね」
エリスは少し慣れていたとはいえ、久しぶりなのもあって、やっぱり放心状態だった。
(やっぱり信じられない光景だわ………)
アリーチェがみんなを見渡して言う。
「久しぶりにみんなに会えて嬉しいわ。それでこれからの事なんだけど、レベルアップの為の魔物討伐について、みんなに相談があるの」
エリスは魔物討伐は危ないから絶対反対だった、まあ当然である。
しかし、アリーチェが危なくないようにやるからと譲らなかったので、精霊達を交えて話し合う事になったのだ。
精霊達によると………
まあ話したのは全てウィスプだが。
アリーチェは絶対安全だそうだ。
精霊達全員いたらじゃまなので、アリーチェをリーダーにした4人PTを組むのがいいとの事。
ラダック村を半日ほど下山した辺りに魔物のいる森があるが、強くてもCランクなので精霊1人居れば余裕で魔物を倒せるし、残りの2人の精霊でアリーチェを守るようだ。
心配なら精霊を増やせばいいとの事だ。
移動手段はテレポートかフライの魔法で、安全に移動出来るそうだ。
フライは飛ぶ魔法。
テレポートの魔法は、ラダック村と魔物の森にそれぞれ魔法陣を設置して移動する魔法で、それぞれを安全かつ時間もかからずに移動できるそうだ。
アリーチェはエリスに聞いた。
「エリスママ、安全だって!どうかな?」
「エリス様、アリーチェ様の御身には指一本触れさせませんから大丈夫です。ご心配なら一度ご一緒して、視察されてはいかがでしょうか?」
いきなりされた魔法の話しに、また放心状態になりかけるエリス。
(フライの魔法は高名な魔法使いなの方が使っているのを見かけた事があるけど、テレポートって古代遺跡のあれよね……)
この世界にテレポートの魔法は存在するが、古代遺跡から発掘された魔法陣を使ってテレポートするのみだ。
なので発掘された魔法陣の側に城が建設され、厳重に管理利用される物なのだ。
自分で設置してテレポートする魔法だとは認識されていない。
また理解を超える話しを聞いて思考停止しそうになるエリスだったが、アリーチェへの心配が打ち勝って何とか話しを続ける。
「ありがとう、そうね、一度見せて頂くわ。どうしても心配なのゴメンねアリーチェ」
エリスはアリーチェを抱きしめた。
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