手合わせ!
城の中庭は多くの兵士が鍛錬を行っていた。
「おいっあれ見ろっ!」
「あれはモーリス国王様じゃないか!」
「クロエ教皇様とシーナ女王様も一緒だぞ!」
兵士たちがザワザワしだしたところで、隊長クラスの兵士が号令をかける。
「教皇様、国王陛下、女王陛下に、敬礼っ!!」
ザザッ! ビシィィィッ!!
中庭に居る鍛錬中だった兵士たちの敬礼が揃った。
モーリス国王が片手を挙げて兵士たちに応える。
「みなご苦労、気にせず続けてくれ」
「「「「はいっ!国王様!」」」」
兵士たちは国王たちを気にしながらも鍛錬を再開した。
中庭の中央でレオナルドとジャックが対峙する。
ジャックはモンテラーゴで騎士団長や騎士たちに鍛えてもらうようになってから、現在の騎士の最高峰であるレオナルドに憧れるようになっていった。
ジャックとしては会うことすら無理だと思っていた存在だ。
それがいきなり手合わせをする事になったのだから、緊張しまくりだった。
「さあ、いつでもいいよジャックくん」
騎士のレオナルドは全身シルバーの鎧を着て大きめの盾。
片手剣は手合わせ用に刃を潰してある練習場の物を使用するようだ。
ジャックも片手剣と盾と言う騎士スタイルは同じだが、レオナルドにいつも使っている剣を使うように言われて、モンテラーゴの鍛冶師ミーナにもらったバトルマリン入りの愛剣を握っていた。
現7英雄レオナルドを見ようと兵士たちが周りに集まって来た。
ジャックの緊張は更に高まっていった。
「おっ、お願いします!」
「いつでもかかって来なさい」
お辞儀をして剣を構えるジャックに対し、レオナルドは構えずにただ自然体で立っているだけだった。
緊張をほぐす為の掛け声と共にジャックが一歩踏み出す。
「はあぁぁーーっ!」
ジャックは先ず、相手の態勢を崩そうと盾でシールドバッシュにいった。
立っていただけに見えたレオナルドは、ジャックのシールドバッシュを盾で受け止める。
ガキィィィィン!!
レオナルドは少し腰を落としただけてジャックのシールドバッシュは止まった。
まさか全く動かないとは思っていなかったジャックはシールドバッシュを跳ね返された衝撃に意識がいった瞬間に左脇腹の衝撃と共に吹っ飛んだ。
ドガッッ!!
吹っ飛んだ先で何とか踏んばったが、ジャックには何が起こったか分からなかった。
周りで観ている者には単純明快で、ジャックのシールドバッシュを受けた瞬間にレオナルドが1歩踏み込んで、ジャックの左脇腹を右の拳でぶん殴ったのだ。
レオナルドは模擬剣すら抜いていなかった。
剣を持たずに立っているレオナルドを見てその事に気づいたジャック。
(シールドバッシュでも動かないし、まさかただ殴られるなんて………とてつもなく強い)
緊張も取れ、ジャックは気を引き締め直した。
「もう一度お願いします!」
「ああ、何度でもかかって来なさい」
レオナルドは盾を持って自然体のまま立っていた。
その後ジャックは、剣や盾で攻撃を繰り出すが、全て受け止めるか去なされた後にぶん殴られていた。
息が切れているジャック。
「はあっ、はあっ、はあっ、」
(レオナルド様はやっぱり凄いや、剣じゃなく右拳で殴られてばかりじゃあなぁ、せめて一撃でも……………。そっか、殴ってくるのは右手だけだよな、良しっ、やってみるかっ!)
「行きますっ!」
ジャックは盾に隠れて自分に『ヘイスト』の魔法をかけて、走り出したタイミングでレオナルドに『スロー』をかけた。
「んっ何だ?!」
レオナルドは自分に魔法がかけられたのは気がついたが、すでにジャックは目の前に迫っていた。
ジャックは自分に動きを速くするヘイスト、レオナルドには動きが遅くなるスローがかかっているのを考慮して、少し遅めに動くように気をつけた。
レオナルドに何も変わってないと思わせる為に……
ジャックは今までと同じようにシールドバッシュに行った。
「はああぁぁぁっ!」
「防がれている攻撃を何度も出すのはいただけないな」
ガッキィィィィン!
シールドバッシュを受け止めたレオナルドは、今までと同じように1歩踏み込んで盾の後ろに居るジャックを殴りに行った。
しかしそこにジャックの姿は無く、盾だけがその場に落ちた。
「何っ?!!」
カチャリ………
「………………」
レオナルドの後ろから首筋にジャックの剣先が触れた。
「はあっ、はあっ、これで1本取った事になりますかね。はあっ、はあっ」
シールドバッシュが当たった瞬間に、ジャックは盾の死角を利用して全速力でレオナルドの背後に回っていたのだ。
「凄いな、1本取られたよ。そのつもりはなかったんだけど、私はまだまだ修行が足りないな」
「はあっ、はあっ、いえ、修行が足りないのは僕です。レオナルド様に剣を抜かせられなかったですし、何度死んでたか分かりません。ありがとうございました」
「こちらこそありがとう」
観ていたみんなが拍手する中、ジャックとレオナルドは互いに握手した。
その後、うずうずしていたジャンがレオナルドと手合わせを申し出た。
レオナルドは騎士スタイルの片手剣と盾、ジャンは大剣と片手剣の二刀流だ。
ジャンの猛攻をレオナルドは盾で必死に耐え、レオナルドの反撃はジャンが片手剣でしのぐと言う戦いが続いた。
両者決め手を欠いて時間だけが過ぎていった。
いい加減痺れを切らした国王が止めに入る。
「もうそれくらいでいいんじゃないか?ジャン」
「んっ?ああそうだな、すまなかったレオナルド殿、楽しくて時間を忘れてしまった」
ジャンは自分の攻撃を全て防がれて悔しそうだった。
「いえ、私もいい鍛錬になりましたよ」
レオナルドもまた、攻撃を当てられなかったのが悔しそうだった。
両者まだ息が切れていないとこをみると、まだまだやれそうだった。
「それにしても、ジャンの左は義手だよな?」
国王の発言を周りのみんなはあまり気にしていなかったが、咲良たち3人は青くなっていた。
慌ててジャンは言い訳をする。
「ああ、勿論義手だよ、当たり前じゃないか、はっはっはっーー戦いが楽しくてつい忘れてたよ。いやーーいい鍛冶師が居てさーーいい義手を作ってくれたんだよーー」
「ちょっと見せてくれるか?」
「いや、義手の細かい部分は秘密だから、それは出来ない相談だな」
「ふぅ~ん………そんなに腕のいい鍛冶師なら国としても大切にしなくてはいかん、紹介してくれるか?」
「あっ………もう死んじまったみたいなんだよ、うん、そうなんだよ、いやぁ残念残念」
「…………なんか変だぞジャン」
国王との会話なのだが、ジャンは言い訳を考えるのに必死でタメ口だった。
モーリス国王はジャンに悪気が無い事は分かるので、特に言葉遣いは気にしていないようだった。
ジャンとレオナルドの戦いを観てみんなは満足して、取り調べはお開きになった。
色々と危うい感じの時はあったが、無事咲良たちは解放された。
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本作を読んで頂き有難う御座います。
m(_ _)m
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