取り調べ?☆1
立派な内装に豪華な調度品が置かれた広い応接間。
頭飾りを外し羽織っていた千早も脱いで、いつものシンプルな白衣と緋袴姿の咲良と、ジャンとジャックがこじんまりとソファーに並んで座っていた。
部屋の扉の前には護衛のレオナルド・プラチドが立ち、咲良たちの向かいにはそれぞれ1人がけのソファーにクロエ・フォンターナ=ロンバルディア教皇とモーリス・エウゼビオ国王とシーナ・フローラ女王がゆったりと座っていた。
(7英雄に囲まれたあげくに出口にも立ってるとか、逃がさないって感じね………いったい何がバレたのかしら)
咲良たちの緊張とは裏腹に、クロエ教皇が優しく話し始めた。
「さくらさんジャンさんジャックさん、素晴らしい神楽でしたよ」
置かれた状況とはかけ離れた雰囲気に咲良は戸惑った。
「えっと…………もったいないお言葉、痛み入ります」
「神楽ってどういった踊りなのかしら?」
咲良はどう答えようか悩んだ。
神楽は神社の儀式だ。
相手はロンバルディア教の教皇なので普通に考えれば異教徒だ。
教皇が神楽を異端と判断すれば、今後神楽は禁止となるだろう。
それだけじゃなく、もしかしたら咲良は神への冒涜だとか、民衆を惑わしただとか、ロンバルディア教会への敵対行為だとかで処刑なんて事になるかもしれない。
答え方によっては3人の命に関わってくるので、咲良は更に緊張した。
(さて、どう話したらいいのかしら)
悩み続ける咲良に、教皇は心配そうな表情をする。
「どうしたの?さくらさん」
「あっ、すいません。何から話そうか考えていたものですから」
「そう、ゆっくりでいいからね」
「ありがとうございます」
咲良は緊張をほぐす為に深く一呼吸してから話し始めた。
「神楽は………そうですね、神様へのお祈りなんです。舞いと共に神様に祈りを捧げているのです」
「神様への祈り?」
「はい、お祈りだけじゃなく神様に舞いを見てもらって楽しんでもらったり、舞いにも意味がありまして、平和を願いなから舞ったり、悪いことが起きませんようにとか色々あります」
(まあ、実際にお爺ちゃんは観てくれてると思うし)
「神様に楽しんでもらう?お願い?」
「勿論、お願いするだけで叶う事は難しいですけどね、神様に聞いてもらうだけでも何だか安心するし、頑張ろうって思うからですかね」
「そう、面白い考え方ね、いったい誰から教わったの?」
(おっと、犯人捜しか?誰とか言ったら処刑されちゃったりして………まぁこの世界では誰にも教わってないけどね)
「はい、咲良が考えました。お祈りをしてる時に思ったんです、神様に何かして差し上げられないかなと………全ては神様の為なんです」
「………考えた?…………神様の為?」
部屋は静まり返っていた。
教皇と咲良の話しに、誰も割って入る事はしなかった。
「2番目の剣を使った踊りはどんな意味があるの?」
「はい、あれも咲良が考えたのですが、剣の舞と申しまして、魔除けの意味をもっています。悪い何かを追い払う舞いです」
「悪い何かを追い払う…………そう、確かに神楽を見終わった後はなんだかスッキリした気がしたわね」
(スッキリしたってのは神楽を肯定してるのか?気がしたってのは気のせいよって事で神楽を否定してるのか?どっちだ?……………とりあえずお礼を言っとくか)
「神楽を最後まで観て頂きありがとうございますクロエ教皇様。これからも多くの方に神楽を観てもらえるように努力して参ります」
「……………………」
(おっと無視か?神楽はダメって事ですか教皇様)
「さくらさんは何処の出身なの?」
(スルーされたわ)
「…………はい、ラダック村です」
「ラダック村?ああ、神の泉がある山奥の…………そうなの」
(うわぁ~しまったぁ!村人全員の連帯責任にするつもりか?!………転移魔法でこちらが早くラダック村に着くから村人は助けられるから、でも何処に避難しよう、ラダック村以上に山奥はあり得ないし、北に行っても魔族の国があるし……)
静まりかえった応接室で、咲良は今後の展開を悩んで緊張していると、クロエ教皇が声を発した。
「………………まあ、いいでしょう。さくらさん頑張りなさい」
(えっ、OKもらった?なんか知らないけど処刑されずに済んだわ!何で?…………まあいっか)
「あっ、ありがとうございます!」
咲良はホッとしていた。
クロエ教皇の話しが終わるのを待っていたのか、モーリス国王がジャンに話しかける。
「ジャンよ、ガンドルフ帝国への依頼ご苦労だった」
「えっ?ああ、魔族と戦えるなら何処へでもいくぜ………?あっ、すいません」
教皇による咲良への追求で緊張していたジャンは油断して普通に話してしまった。
「…………そうか、さっそく魔族と1戦交えて2人倒したんだったな、よくやってくれた」
「はい、ですが2人逃がしてしまいました、申し訳ありません」
「無事に戻って来られたのだ。今後もこの依頼は続くから宜しく頼むぞ」
「はっ!モーリス国王様」
「ところで横の若者は息子のジャックなのか?」
「はい。ジャックご挨拶を」
「ジャック・ヴァレンティーノです。17になりました」
「そうか、前に会ってから10年近く経つか、頼もしくなったな」
「ありがとうございます。父に鍛えてもらいました」
「そうか、レベルが普通よりは高そうだがいくつになった?」
ジャックは自分のレベルが高い事をいい辛く感じていたが、すでに冒険者ギルドは知っているし、国王に隠す必要もない。
「はい、現在はレベル36です」
「「「「36!!!」」」」
この部屋に居た教皇、国王、女王陛下だけじゃなく、入口に立つ護衛のレオナルドも驚いていた。
「いやはや、その年で35とは、相当苦労したであろう………どうだ、すぐにでも皇国軍に入らぬか?」
「失礼ながらモーリス国王様、将来の為にも我々教皇様の護衛見ならいに加えて頂きたいのですが」
「ジャックさん、ヴェスパジアーナに来てみない?賑やかで楽しいところよ?」
それぞれの誘いに恐縮するジャック。
「お誘いありがとうございます。ですが、僕にはすでにやるべき事が決まっておりますので辞退させていただきます。申し訳ありません」
みんな残念な表情をしていた。
「なりたくてなれない者が大勢いるのに、これだけの誘いをあっさり断るとは、いったい何をやりたいのだ?」
ジャックは咲良を見てから真剣な表情をした。
「はい、さくらを守る事です」
「「「「えっ??」」」」
この部屋に居る全員が思った……
(このタイミングでお惚気かよっ!!)
咲良ははずかしそうに俯いていた。
ジャックの真剣さが、よりこの部屋の空気をおかしくしていた。
誰も何も言わない事にジャックは伝わらなかったと思い、更に言葉を続ける。
「さくらの護衛として守り続けて行きたいと考えて居ります」
部屋に居る女性たちは思う。
(いやいや、護衛としてだけじゃだめでしょ!)
部屋のみんながポカンとする中、モーリス国王が話し始める。
「ふむ、そうか、護衛としてか、なら尚更皇国軍に入って鍛えた方が良いのではないか?学ぶ事が多いと思うぞ?」
「申し訳ありませんモーリス国王様。今まで通り父と共に鍛えて行こうと思います」
「う~んそうか………残念だがそこまで決意しているのならば仕方が無い。だが国に何か困った事が起きた時は助けてくれるか?」
「勿論です、モーリス国王様」
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本作を読んで頂き有難う御座います。
m(_ _)m
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