王城で神楽!☆2
天井が高く開放感のある大広間に急遽作られた神楽用の舞台と客席。
ロンバルディア教会クロエ教皇を始めクリストフィオーレ皇国モーリス国王やヴェスパジアーナ共和国シーナ女王、そしてクリストフィオーレ皇国の王族の者たちはすでに席に座って静かに待っていた。
クロエ教皇は、両隣に座っているモーリス国王とシーナ女王に声をかける。
「本当に私たちが気になっている女の子なの?」
「ええ、息子のクリスティアーノ王子に聞いた限りではそうだろうと思われます」
「それは良い情報ですわね、私も教皇様も折角滞在を延ばしたのですから、どうせなら神楽と言う踊りも楽しみましょうよ」
「滞在を延ばしたのはみなさんと色々な情報交換をする為よ。その過程でたまたま気になる女の子の情報が入っただけよ。王都で話題といっても子供のやる事だからたかがしれてるでしょう。気になっている事が気のせいだったら、踊りの途中でも退出しますから後の事はみなさんに任せるわ」
教皇はとても忙しく、今も色々なスケジュールをキャンセルしてここにいるのだ。
大広間の中央には、いつも咲良が神楽公演をする時の四角い舞台が設置されていた。
そしていつもとは違い、咲良の希望で篝火が舞台の四隅に設置されていた。
咲良は久しぶりに夜神楽の様に篝火を灯して舞って見たかったのだ。
観客や会場の準備が整ったのを見て、クリスティアーノ王子が開始の合図を送る。
大広間が暗くなり、舞台の左右にある篝火が灯される。
篝火の揺れる炎が神秘的に燃え始めた。
「へぇ~」
「ほぉ~」
「まあ、」
変わった趣向に教皇たちは感嘆の声をあげた。
徐々に篝火が明るくなり舞台が照らされ始めると、豪華な彫刻が施された大広間の大きな扉が開く。
観客が注目する中、巫女装束の咲良が姿を現した。
咲良を先頭にジャンとジャックがゆっくりと舞台まで歩いていった。
突然、ジャンが小声で話し始める。
「なあお嬢ちゃん、モーリス国王様の他にクロエ教皇様とシーナ女王陛下もいるんだけど、どうなってるんだ?」
「えっ?聞いてないけど。その人たちも現7英雄だったわよね、どうしましょう」
咲良は学校で習って現7英雄は何となくは知っていた。
クロエ教皇もモーリス国王も現7英雄の1人でSランクだ。
シーナ女王だってSランクに限りなく近いAランクなのだ。
「でももう引き返せないわよね…………もうやるしかないわ」
3人は仕方なく覚悟を決めた。
ゆっくりと舞台への階段を登る巫女装束の咲良。
篝火に照らされた緋袴の緋色がとても印象的で美しかった。
無垢な白さの白衣に透き通る程薄い千早を羽織り、鮮やかな緋色が印象的な緋袴を履き、金色に輝く頭飾りを付けた咲良の美しさに、観客全員が見惚れていた。
舞台に上がったジャンとジャックは端の方で静かに演奏の準備をする。
モーリス国王はジャンの存在に気づき、クロエ教皇とシーナ女王に小声で伝える。
「あれは剛腕のジャンじゃないですかな?」
「そのようね、何故ジャンが舞台に上がっているのかしら」
「演奏に合わせて踊ると聞きましたので、ジャンとあの若者の2人で演奏するのかもしれないですわね。それにしても、あの若者、中々強そうですわね」
「あれはたぶんジャンの息子のジャックだと思うぞ。暫く会わないうちに強くなってそうだな。まだ20才にもなって無かった筈だ」
「まあそれは若い、いつでも歓迎するからヴェスパジアーナ共和国に来てくれないかしら」
ひそひそ話しの間、クロエ教皇はずっと咲良を見つめていた。
「あの女の子、魔力は感じないけどやはり何か気になるわね」
「様子見で神楽とやらを観てみますか」
教皇たちのひそひそ話が終わった頃に、ジャンとジャックの準備も出来ていた。
咲良が舞台中央に立ちお辞儀をした。
真っ直ぐ前を見据えながら、スッと両手を前に伸ばしてそのまま静止する。
右手には神楽鈴、左手には扇を持ち、巫女装束の袖が微かに揺れていた。
咲良の微動だにしない美しい姿とその場の厳かな雰囲気に、観客たちは静まり返っていた。
大広間には篝火のパチパチと燃える音だけが鳴っていた。
ジャックの笛の音が響き始める。
ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪
シャン♪
笛の音に合わせて咲良が神楽鈴を一振り鳴らした。
ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪
シャン♪
大広間の空間全てが清められる様な凛とした神楽鈴の響きが、部屋全体に広がっていく。
前に伸ばしていた両腕をゆっくりと左右にいっぱいに広げる。
ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ ラ~~♪
トン トトン トン♪
シャン♪
ジャンの太鼓の演奏も加わった。
少し上に掲げた右手の神楽鈴を見つめながら、咲良はゆっくりと回り始めた。
ヒュ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ラ~~♪
トン トトン トントン♪
シャン♪
咲良は笛と太鼓の演奏に合わせて神楽鈴を奏でながら回り続ける。
咲良の舞う姿は、篝火の揺れる炎に照らされてこの世の者とは思えない美しさがあった。
金色の頭飾りはキラキラと輝き、白ののし紙でまとめられた長い黒髪は艶やかに光り、白衣により際立つ緋袴の眩しい緋色。
咲良が優雅に舞う幻想的な世界に、観客全て瞬きすら忘れて魅入っていた。
いつの間にか神降ろしの舞いが終わり演奏もやんでいた。
篝火が燃える音だけの雰囲気の中、神楽鈴と扇を剣に持ち替える咲良。
神楽鈴と剣を持ち替える所作すらも美しく、観客たちは拍手をする事も忘れていた。
再び咲良は中央に歩み寄り、鞘に収まった剣を横向きにかざした。
巫女装束の袖が揺れ、大広間に神楽笛と太鼓の演奏が流れ始める。
ピィ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ラ~~♪
トン トトン♪トントン トトン♪
先ほどより少し早いテンポの演奏に合わせて、咲良の舞いも始まった。
咲良は伸ばした両腕を広げるようにゆっくりと鞘から剣を抜き、鞘を持った左手を隠すように背中に回す。
右手を円を描くように回して剣を高々と掲げた。
ピィ~~ ヒャラ~~ ヒャラ~~ラ~~♪
トン トトン♪トントン トトン♪
そして咲良は笛と太鼓の音に合わせて、舞うようにゆっくりと剣の型を行った。
その剣筋は優雅で、隙が無く、洗練されていて、とても美しかった。
剣の舞が終わり咲良が剣を収めてお辞儀をすると、終わった事に気づいた観客から拍手が鳴り始め、観客全員の惜しみない拍手へと広がっていった。
咲良は拍手が鳴り響く中、ゆっくりと舞台を降りた。
拍手が治まると、クロエ教皇が立ち上がって笑顔で咲良たちに声をかける。
「とても素晴らしかったわ。このはなさくらさんでよろしいかしら?」
急いで大広間を出たかった咲良たちだが無視する訳にもいかず、クロエ教皇の前に跪いた。
「お初にお目にかかりますクロエ教皇様、モーリス国王様、シーナ女王陛下。小花咲良と申します」
「まあ、しっかりしたご挨拶ね。さくらさんと呼ばせてもらってもいい?」
「はい、クロエ教皇様」
クロエ教皇はまじまじと咲良を見つめた後に口を開いた。
「この後、別室でお話しをしたいのだけれど、さくらさんは来てもらえるかしら?」
咲良がチラッと横を見ると、跪いているジャンは苦笑いをしていた。
(別室呼び出しってなんなの?)
教皇の申し出を断れる筈も無く、咲良は心の中で泣きながらも丁寧に返答した。
「はい喜んで参ります、クロエ教皇様」
咲良たち3人はかなり焦っていた。
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本作を読んで頂き有難う御座います。
m(_ _)m
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