宿敵☆3
ジャンとグリーゼの戦いは、あきらかにグリーゼの方が強く、ジャンに勝ち目はないに等しかった。
ふらふらな状態のジャンは頭だけ動かして、背後の守るべきイザベラたちを見る。
何も出来ずにいるイザベラたちは、ジャンの目がまだ諦めて居ないのを知った。
ジャンは左手に片手剣、右手に大剣を握って再びグリーゼに向き直る。
「死ぬのはお前だグリーゼ!」
「終わりだジャン!」
両者同時に動き出す。
スピードはあきらかにグリーゼの方が速かった。
ジャンは遅いながらもグリーゼのスピードに合わせる為に早めに大剣を振り下ろす。
グリーゼは最後まで足掻くジャンの大剣を面倒くさそうにはじき返して、そのままジャンに剣を振り下ろす。
大剣を後ろ側に弾かれたジャンは、左手に持っていた片手剣でグリーゼの剣をいなしにいった。
ガギィンッ!! バキィィィィッ!!
ジャンの片手剣が折れる。
ジャンの頭を狙ったグリーゼの剣筋はズレ、ジャンの剣もろとも左腕を切断して地面に刺さった。
「チイッ!腕だけか」
ジャンは左腕の痛みにも構わず、腰を中心に上半身を回して弾かれていた大剣で強引に突きを放つ。
グリーゼはジャンの次の攻撃は無いと油断していたので、ジャンの突きへ反応出来なかった。
グリーゼの心臓を狙った大剣の突きは、肋骨で逸れたが心臓の僅か下に突き刺さった。
「はぐあうっ!きっきさまぁああぁぁ!!」
ジャンは失った左腕の傷みに耐えながらも、更に大剣を突き刺してグリーゼにトドメを刺しにいった。
「死ねぇグリ~ゼェェェェ~~~~!!」
いつの間にかジャンとグリーゼの横に魔族の子供が居た。
魔力が小さいからなのか、戦いに集中していたからなのかは分からないが、そこに来るまで誰も気づかなかった。
魔族の子供は握りこぶしくらいの黒い石の様な物を2人の間にすでに投げていた。
特に魔力が感じられい黒い石など気にせずジャンは大剣に力を込めた。
だがその黒い石が2人の真ん中に来た瞬間、もの凄い勢いで爆発した。
爆風により吹き飛ばされ、ジャンとグリーゼは引き離された。
お互いに離れた所で倒れているジャンとグリーゼ。
左腕を失い傷だらけのジャンは、もはや立つ事さえ出来ず瀕死の状態だった。
かなりのダメージを負っているが何とか立ち上がったグリーゼは、倒れているジャンを見下ろした。
「はぁはぁはぁ、お前………はぁはぁ、ジャンだったな、良くやった、今までで1番楽しかったぞ!我が剣に魂を刻み込んでやろう」
トドメを刺す為にグリーゼが剣を握り直す。
「そんな事させないわ!」
今まで見てる事しか出来なかったイザベラたちだが、ジャンを守る様に、グリーゼに向かっていった。
グリーゼはイザベラたちを気にもとめなかった。
「こんな身体でもお前ら4人くらいじゃあ相手にならないぜ。ジャンとの約束だから邪魔しなけりゃ見逃してやるよ」
禍々しい魔力もグリーゼの強さも、イザベラたちは充分に分かっていた。
だがそれでもイザベラたちは向かっていく。
「みんな!気合い入れて行くわよっ!」
「まったく、見逃してやるって言ってんのに人間ってのは何処までバカなんだか………ん?」
突然、ジャンの身体が輝きだした。
「「「「なんだ??」」」」
イザベラたちもグリーゼも戦っている事を忘れ、胸元を中心に輝きだしたジャンに目を奪われた。
ジャンの輝きが薄れて消えていくまで誰も動き出す事はなかった。
全員がシンと静まり返っている中、左腕も身体中の傷も治っていたジャンは、ゆっくりと立ち上がった。
「ふぅ~~、みんな、心配かけてすまなかった。もう大丈夫だから後ろで見ててくれ」
「「「「「えええっ!??」」」」」
グリーゼも含めてここに居る全員の疑問の声が揃った。
ジャンはそんなみんなを気にせずに大剣を肩に担いでグリーゼの前に出る。
「さてと、続きをやろうかグリーゼ!」
信じられない出来事に怯えの表情を浮かべグリーゼは、少しづつ後ずさっていた。
グリーゼは不死身で得体の知れないジャンに、恐怖を感じ始めていた。
「何故だっ?………いったい何をした」
ジャンは不敵な笑いを浮かべる。
「さあ、どうだろうな。ここで死ぬお前が知る必要はないだろう」
グリーゼは自分が怯えている事に気づき、怒りを覚えた。
「くっそおぉ~~っ!人間如きがぁぁ~~!!」
「おおそうだ、グリーゼは4人を見逃す約束を守ろうとしてくれたんだろう?……………見逃してやるよ」
「なんだとおぉぉ~~!このオレ様を見逃すだとぉ~~!!」
怒りに震えるグリーゼだが、一度芽生えた恐怖は拭えなかった。
ジャンは御守りのお陰で回復してから、全員が助かる道を模索していた。
咲良の御守りのお陰で見た目は元通りになったが、片手剣は失ったし疲労は残っていて、すぐに全開で動ける訳では無かったのだ。
正直、大剣担いで立ってるのがやっとだった。
そして何よりも咲良の御守りの欠損再生魔法が発動した事により御守りは失われ、防御力+20の効果も無くなってしまったのだ。
今の防御力+20の無い状態では、弱ったグリーゼの剣ですら致命傷に成りかねない、戦う事は死を意味するのだ。
ジャンはグリーゼと激戦を繰り広げた結果、鍛え直せば勝てる未来が見えてきていた。
今は生き残る事が最優先なのだ。
その為にはグリーゼに引いて貰うしかなかった。
「ああ、見逃してやるよ、ここで戦ってもグリーゼは死ぬだけだろ?だったら次にまた戦った方が……………楽しいと思ってな。俺も一度見逃して貰ってるからよ、これでおあいこだろ」
「フンッ、戦いが楽しいとか、ふざけた人間だ。いいだろうジャン。だが次は最初から手加減無しで行くからな。その時に後悔すんなよ」
「ああ、望むところだ」
不満げなグリーゼは子供の魔族と一緒に森の中に消えていった。
グリーゼが去って行った森を見つめながらジャンは肩の力を抜く。
「ふぃ~~助かったぁ~~!」
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