宿敵☆2
グリーゼはただ見ているだけで、マルフィクを助けようとはしなかった。
「ほう、いつもは魔族1人に対してPTとかいう大勢で向かってくる卑怯な人間にしてはまあまあだな」
ジャンにヒールをかけようとしていたイザベラの詠唱が止まる。
グリーゼは笑う。
「フッ、回復してやっていいぞ。このまま戦えば魔族が2人がかりで人間1人を殺した事になるからな。魔族は人間のように卑怯じゃないんだよ。なんなら全員で掛かってきてもいいんだぞ?卑怯者の人間さんよ」
グリーゼに警戒しながらもイザベラはジャンにヒールをかけた。
「ありがとうイザベラ、みんなにはすまないがここは俺1人でやらせてくれないか?」
さっきの戦いすら目で追えなかったPTメンバーは、悔しいが邪魔にしかならない事を理解していた。
「こちらこそごめんなさい、私たちはジャンに頼るしかないわ」
「ごめんなさいなんて言う司祭様がいるんだな」
「昔の私はこんなじゃなかったわ、司祭になってラダック村で儀式をやって帰ってきてからかしら、変わったって言われる様になったのは……」
グリーゼは言う。
「お別れの挨拶はその辺にしてそろそろ戦わないか、私も忙しいのでね」
ジャンは咲良から貰った御守りをいつも肌身離さず首に掛けていた。
ジャンは御守りのある位置に、装備の上からそっと手をあてた。
「グリーゼ1つ頼みがある、俺がやられても後ろの4人は見逃してくれないか?」
「どうするか………そうだな、お前との戦いが楽しければそれでいいぞ」
グリーゼはあっさりとOKした。
「ふぅ、………これで思い残す事が無くなって思いっきりいけるぜ」
グリーゼは自分の2本の角を指して言う。
「俺はダブルだからさっきのシングルとは桁が違うぜ」
「ああ、そのつもりだ」
そして身構えていた2人は同時に動き出し、お互い剣で斬り掛かる。
ガキンッ!
魔族が好んで使う片手剣よりも少し長い漆黒の剣で受け止めたグリーゼ。
「そっちの大剣は使わないのかい?」
ジャンは話しなどには付き合わず、片手剣を連続で斬りつけた。
「はあっ!はっ!ふんっ!」
キンッ!キンッ!キンッ!
キンッ!キンッ!キンッ!
「まあまあだな、だがっ、フンッ!」
ギンッ!シュバッ!
グリーゼはジャンの剣をはじき返しながら、胸元を素早く斬りつけた。
剣撃を受けたジャンは、後ろに飛ばされただけで体勢は崩れていなかったし、何より斬りつけられた胸元が少し傷ついているだけだった。
「ほうっ、私の剣でその程度の傷か、中々いい装備だな」
ジャンはわざと片手剣を一度背中の鞘に収め、ダッシュしてグリーゼに抜刀と共に斬り掛かった。
ジャンは連続で斬りつけながら、たまに左の拳でグリーゼの右脇腹を殴りつけた。
キンッ!キンッ!キンッ!
ドガッ!
キンッ!キンッ!
ドガッ!
戦いを楽しんでいるグリーゼも殴り返す。
ドガンッ!!
堪らず後ずさりして距離をとるジャン。
「くっ!くそっ!」
「中々だが、俺にダメージを与えられてないんじゃないか?」
ジャンは話しに付き合わず、片手剣を背中の鞘に仕舞う振りをして左手に持ち、またダッシュして斬り掛かる。
「無駄な事を」
グリーゼは今までと同じ様に剣で受けたが、ジャンの一撃は重かった。
グリーゼは反射的に両手で剣を持って支えた。
グリーゼが剣を見上げるとそれは大剣だった。
「重い一撃だが、魔族は力もあるから残念だったな!」
ズザンッ!!
グリーゼの右脇腹にジャンの片手剣が突き刺さった。
久しぶりに感じる痛みに唸るグリーゼ。
「グハッ!!」
グリーゼを上に集中させて、左手に隠し持っていた片手剣で下から右脇腹を力一杯刺したのだ。
更にジャンは片手剣を放し身体を1回転させて、両手で持った大剣での追撃を片手剣が刺さっている右脇腹に繰り出した。
「はあああぁぁあああっ!」
ブゥワッ! ドゴッ!!
グリーゼは剣では間に合わないとみて、右腕に力を込めて盾にした。
大剣の一撃を喰らって吹き飛ばされるグリーゼ。
舞い上がった砂埃の中から立ち上がったグリーゼ。
右腕はだらんと垂れ下がって使いものにならなそうだった。
「クックックッ、お前いいじゃねえか楽しくなってきたぞ。本気で殺したくなってきたぜ」
そう言いながらグリーゼは、右脇腹に刺さっている片手剣を抜いてジャンに投げて寄こした。
「……………」
ジャンは無言で片手剣を拾う。
(手応えはあったんだが頑丈な身体だな。やっぱ角を狙うしかないのか…………避けられるだろうな。いや、突きは脇腹に刺さったな)
漆黒の剣を左手に持って佇んでいるグリーゼ。
「これから殺す奴の名前を聞いておこうか。なんて名だ」
「…………ジャン、ジャンヴァレンティーノだ。お前を倒す奴の名だ」
「フンッ、威勢だけはいいな。今すぐお前の妻とやらに会わせてやるから感謝しなっ!」
ジャンとグリーゼは同時に動き出した。
ジャンの大剣とグリーゼの漆黒の剣が火花を散らす。
両者互角の打ち合いをした後に、一旦距離をとる。
ジャンは少し息が切れていた。
「大剣をこのスピードで扱うとは中々だが、疲れるだろ」
「お前を倒すまでは大丈夫なんだよ」
「まだ勝てるつもりなんだな。スピードを合わせてやっているのに気づかんか」
「…………分かってるさ」
「じゃあ殺されるのも分かってるよな」
「そいつはやってみなけりゃ分からん」
「じゃあその身体に分からせてやるよっ!」
再び両者の打ち合いが始まるが、スピードを上げたグリーゼの剣は速く、致命傷にはならないがジャンの身体にはどんどん傷が増えていった。
スピードについていく為にジャンは、大剣から片手剣に代えたが、更にスピードを上げたグリーゼにはついていけなかった。
傷だらけになり肩で息をしているジャン。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「人間にしては中々の防御力だ魔族に近いかもな、よく頑張ったじゃねえか。楽しかったから後ろの4人は見逃してやるよ」
ふらふらな状態のジャンは頭だけ動かして4人を見た。
その目を見たイザベラたちは、ジャンがまだ諦めて居ないのを知った。
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