宿敵!☆1
ガンドルフ帝国の王都で1日休み、また6日間の警戒任務に行くという日々が続いたある日。
ジャンたちはいつもの様にマッテオを先頭に森の中を警戒しながら進んでいた。
突然ジャンが叫ぶ。
「止まれマッテオ!」
「ん?どうした………なっ!何だこの魔力は!」
返事をしようとしたマッテオは、すぐに禍々しい魔力を感じてジャンが叫んだ意味を理解した。
よく分からないイザベラがジャンに聞く。
「ジャン、どうしたの?」
ジャンは緊張気味に答える。
「ああ、魔族が数人居るな。気がつかれて無いといいんだが、すぐに引き返そう」
「ええっ魔族が数人っ?!分かったわ、急いで戻りましょう」
ジャンたちは魔族から離れるように来た道を急いで戻り始めた。
少し進んだところでジャンが言う。
「マズいな、俺たちより速いスピードでどんどん近づいてくる」
すでに全員が魔族の魔力を感知出来る距離まで近づいて来ていた。
焦るイザベラ。
「戦うしかないのかしら……」
「いや、俺が魔族を引きつけておくから、みんなはイザベラ司祭様を守りながら全力で逃げてくれ。魔族も深追いはしないと思う」
「それじゃあジャンが無事じゃ済まないじゃない!」
「はは、イザベラ司祭様が無事な方がみんなの為になるからな。それにまだ負けると決まった訳じゃないぞ」
「でもジャンを置いては行けないわ」
「魔族は数人だけど、強そうなのは1人だから、みんなを守りながらじゃなければ何とかなるかもしれないんだ」
「「「「…………」」」」
森の中を走って逃げながらイザベラたちは何も言えなかった。
渋々といった表情でイザベラが言う。
「分かった、国王陛下には報告しておくけど、無事に帰ってきて詳細を報告しなさいよ」
「ああ、分かった」
その時、1体の魔力が高速で近づいてきた。
「「「「「!!」」」」」
全員が身構えた。
次の瞬間、空を飛んで近づいてきた魔族が、イザベラたちを飛び越えて行く手を阻むように道の真ん中に降り立った。
「へへっ人間が5人か、俺が全員殺してもいいが、先ずはグリーゼ様を待つか、全員大人しくしてな」
現れた魔族には1本の角と、背中には羽があった。
魔族の放つ魔力の恐ろしさでイザベラたちは動けなかった。
そんな中ジャンは自然に足を進めて魔族に近づく。
(魔族は数人だが強いのは1人、こいつは大したことない方だな。今グリーゼと言ったか?まさかな…………先ずはこいつを倒しておくか)
ジャンは魔族との距離を詰める為に話しかける。
「魔族がガンドルフ帝国内に何か用か?」
「止まれ人間、俺がお前を殺しちまうとグリーゼ様の楽しみが減っちまうからな。大人しく待ってろ」
「なあ、用事があるんなら手伝ってやるからさ?」
足を止めずに魔族に近づくジャン。
「止まれと言っている!」
魔族が閉じてた背中の羽を広げて飛び立とうとした瞬間に、ジャンが一気に間合いを詰めた。
「なにっ!!」
ズザンッ!!
飛び立つ事も避ける事も出来なかった魔族は、ジャンの一撃で両断されていた。
「人間如き……が……」
魔族は悔しそうな表情で息絶えていった。
その時、みんなの後ろから声がした。
「ほう、サビクをあっさりと倒す奴がいるとはな」
後ろには魔族が2人立っていた。
一人は角1本の魔族でもう一人は角2本だった。
角2本の魔族を見てジャンは驚きのあまり叫んでいた。
「お前グリーゼ!!」
グリーゼの隣に居た魔族が剣に手をかけながら1歩前に出た。
「人間如きがグリーゼ様をお前呼ばわりとは、殺してくれるわ」
「まあ待てマルフィク、私を知ってるとは面白い。話しを聞いてみようではないか」
「はっ、グリーゼ様」
マルフィクと呼ばれた魔族は引き下がった。
「何故、人間のお前が私の事を知っているのだ?」
ジャンは全身に怒りをみなぎらせながら、魔族たちの前に出た。
「10数年前だ、お前は1人で国境を越えてガンドルフの人たちを殺しに来ていただろう。その時に俺の目の前で妻を殺されたんだ。お前は俺を殺さずに名前だけ名のって引き上げていったよ。あの時俺は弱かったが、妻の仇をとる為に強くなってずっとお前を探していたんだ!グリーゼ!」
「10数年前?勝てないのに必死に向かってくる奴らを殺すのが面白かった頃か。そうか、思い出した、特に必死な奴が居たな、そうかあの時の………おやっ?腕を斬り落としたと思ったが、記憶違いか………」
グリーゼはジャンを値踏みするようにじっくりと観察していた。
「グリーゼ様!こんな人間如きグリーゼ様が手を下すまでも無く、私1人で充分です。私にやらせて下さい」
「そうか、じゃあマルフィクやってみなさい」
「はいっ!」
ジャンはすぐにでもグリーゼに斬りかかりたかったが、魔族が2体居てはイザベラたちがやられてしまう。
ジャンにとっても1対1で戦ってくれるのなら都合が良かった。
マルフィクは片手剣よりも長めの剣を構えて1歩前に出た。
「人間如きが生意気な口を聞いた事を後悔させてやるっ!」
そう言ってマルフィクは斬りかかった。
剣速は素早かったが、ジャンは片手剣で難なく受け止めた。
キンッ!!
「フンッ、我が剣を受け止めるとは生意気っ!」
マルフィクは力任せに連続で斬りかかる。
キンッ!キンッ!ガキンッ!
キンッ!キンッ!ガキンッ!
ジャンは全てを受け止めていた。
ジャンは大剣では無く片手剣を使ってマルフィクの相手をしていた。
「クソッ人間如きが!背中の大剣を使わないのは余裕のつもりか!」
ジャンは大剣での戦いをグリーゼに見せたく無かっただけだが、それが功を奏した。
侮られていると感じたマルフィクの攻撃は、怒りにまかせ単調になっていた。
ジャンはあえて全ての攻撃を受け止め、ここぞという時に去なした。
「なっ!!」
バランスを崩して無防備になったマルフィクの角を狙って剣を振り抜いた。
魔族の角はかなり堅いのだが、ジャックの剣は1本しかないマルフィクの角を斬り飛ばした。
「はっ??うあぁあぁぁああぁあああぁぁっ!」
叫びと共に、マルフィクの身体は弱体化し、皮膚も魔族としての強さを失っていった。
魔族にとって角は強さの源でもあり弱点でもあった。
魔族は生まれながらに持つ角の本数で将来の強さが決まるのだ。
角を持たずに生まれる魔族は、それ程強くは無く虐げられて生きる事になる。
角が1本あれば魔法も使え、兵士として生きていく事が出来る。
角2本で生まれる者の数極端に少なく、幹部候補として育てられていく。
角3本持って生まれるのは千年に1人で、その者は魔王と呼ばれ圧倒的な強さの存在となるのだ。
ジャンは弱体化したマルフィクに、トドメを刺した。
結果的には余裕に見えるが、気を抜けばどうなるか分からない戦いだった。
ジャンは肩で呼吸をしながら額の汗を拭っていた。
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m(_ _)m
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