国境警戒
宿屋フレンドの部屋でジャンは、咲良とジャックにこれまであった事を話していた。
ガンドルフ帝国に着いたAランクPTドラゴンの咆哮とBランクの1PTとジャンは、帝国国王からそれぞれ違うエリアの国境警戒を頼まれた。
砦や街道から離れていて、帝国兵がカバーしきれないエリアだ。
魔族と遭遇したら戦って討伐してもいいが戦うのがメインでは無く、何かあればその情報を持ち帰るのが優先だっだ。
ジャンはソロのAランク冒険者なので、今回はBランクPTに加わって参加していた。
PT名は守護の光。
リーダーはイザベラ司祭でLV36のCランク。
騎士オルランドは氷属性LV41でPT内で唯一のBランク。
狩人のマッテオは風属性LV35でCランク。
攻撃魔法使いのミーアは火属性Lv30でCランク。
ほとんどのメンバーがCランクだが、司祭が居る事でBランクのPTとして認められていた。
司祭は教会内の仕事がとても忙しいので、魔物討伐や社会的救済の為に派遣されるのは珍しかった。
今回守護の光は、教会の命を受けて派遣されていた。
* * * * *
守護の光にジャンを加えたPTは、狩人のマッテオを先頭に割り当てられたエリアの森の中を警戒しながら歩いていた。
守護の光のリーダーであるイザベラがジャンに話しかける。
「噂でジャンさんは大剣と盾を使われると聞いていたのですが、装備されているのは大剣と片手剣の様ですね」
「イザベラ司祭様、俺の名は呼び捨てでかまいませんよ。それと敬語も必要ないです。ざっくばらんにお願いします。俺も敬語は得意ではないんで大目にみて貰えると助かります」
「Aランク冒険者は貴族と同じですが分かりました。ではその様にしましょう。それでジャンは盾は使わないの?」
「少し前までは盾を使ってたんだが辞めてね、二刀流にしてみたんだよ、その分攻撃出来るからな」
「大剣と片手剣の二刀流なんて聞いたことないわね」
「中々この二刀流も悪くないんだぜ。チャンスがあったらみせるよ」
「ええ、Aランクだものね、楽しみにしているわ」
先頭を歩く狩人のマッテオから声がかかる。
「司祭様、少し進んだ所に魔物が数体居ます」
「そう、どうするジャン?」
「リーダーはイザベラ司祭様だよ。判断に迷ったら相談してくれ」
「分かったわ。マッテオ、何の魔物か分かる?」
「はい、たぶんですが、ワイバーンが2体かと……」
「Bランクのワイバーン2体か、危険ね………私たちの依頼は魔族の警戒だから避けて通りましょう」
「イザベラ司祭様、ワイバーンとの戦闘は経験しておいた方がいいと思う、危なくなっても俺がなんとかするから倒しちまおう。放っておいて後で危険な思いをするのも面倒だしな」
「ジャンがそう言うのなら戦ってみましょうか」
「よしっ、1体は俺が狩るから、もう1体を頼むぜ」
「だそうよ、みんなよろしくね」
「「「はい、司祭様!」」」
メンバーは緊張した声で返事をした。
守護の光はCランクメンバーの多いBランクPTだ。
ワイバーンは空を飛ぶのでBランクでも上位の強さだからなるべく戦いたくない相手なのだ。
戦いを回避しようとしたイザベラ司祭の判断はみんなの気持ちと一緒だった。
ジャンはボスコでワイバーンと戦って死にそうになった事のリベンジだと思っていた。
前回は数の多さと稀少種が居た為に負けたが、通常のワイバーンならジャンにとっては格下の相手なのだ。
ジャンとPTメンバーは、ワイバーンに気づかれないように近くまで近づいた。
そしてジャンとマッテオが視線でタイミングを合わせてワイバーンに向かって走り出しそれが合図となって他のメンバーも戦闘を開始した。
走るマッテオの剣がワイバーンに届く寸前に飛んで逃げられそうになるが、ミーアのファイアアローが着弾し飛び立つのを阻止した。
地に墜ちたワイバーンにマッテオが斬りかかり、続けて騎士のオルランドも斬りかかった。
だがワイバーンは、一廻りしてオルランドとマッテオを尻尾でなぎ払った。
ワイバーンは倒れたマッテオに噛みつこうとした。
イザベラのシールド魔法が間に合い、ワイバーンの噛みつき攻撃を阻む。
そこにまたミーアのファイアアローが突き刺さる。
苦しそうなワイバーンは標的を後衛のイザベラとミーアに移し素早く跳びかかった。
イザベラもミーアも魔法を使ったばかりで詠唱が間に合わない。
「危ない司祭様!」
ミーアはイザベラの身代わりになろうとワイバーンの前に出た。
イザベラが叫ぶ。
「ミーア!」
ワイバーンの牙がミーアに迫る。
ミーアが目を瞑った瞬間に、ワイバーンの首が斬り跳ばされた。
ミーアは何も衝撃が無かったので、恐る恐る瞑っていた目を開けた。
すると目の前には切断されたワイバーンの首と剛腕のジャンが立っていた。
死を覚悟したミーアは勿論のこと、最後の瞬間動くことが出来なかった3人も唖然としていた。
突然横から現れたジャンが、ワイバーンを一太刀で倒したのだ。
みんなが目だけでもう1体のワイバーンを確認すると、最初に居た位置から動いた様子もなく、綺麗に首を切断されていた。
ジャンは申し訳なさそうに言う。
「すぐに加勢出来たんだが、みんなの経験になると思って様子をみてたんだ………すまなかった」
かなり怖い思いをしたイザベラは怒り気味だ。
「たっ、助けてもらったんだから文句は言わないけど、お礼も言わないわよ!」
「あぁ…………すまん」
落ち込むジャンだった。
その後なるべく魔物との戦いは避けて、戦う時は騎士のオルランドが常にイザベラの側で守る事になった。
* * * * *
ジャンたちは予定通り6日間の警戒任務を終えて、国王に現状を報告する為に一度帝国に戻った。
そしてガンドルフ帝国城の謁見の間。
玉座に座るガンドルフ帝国国王、カルロス・ロウ。
1,000年前に魔王を討伐した7英雄の子孫の一人。
ライオンの獣人でLV60のSランクだ。
すでに60近い年齢だが肉体の衰えを感じさせない立派な体躯の持ち主だ。
ジャンは謁見の間で跪きながら、国王の強さをひしひしと感じていた。
玉座に座っているだけなのに隙が無く、ジャンは何をしても勝てる気がしなかった。
ジャンが緊張している間に、イザベラが報告を終えると、カルロス国王は口を開いた。
「うむ、援軍として一緒に来てくれたPTドラゴンの咆哮は、魔族の2人組と遭遇したそうだ、逃げられてしまったようだがな。ジャンたちも気をつけて今後の警戒にあたってくれ。ご苦労だった」
「「「「「はっ!」」」」」
緊張のカルロス国王への報告は、謁見の間に響き渡るジャンたちの声と共に終了した。
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