ゼロの諜報活動!
僕の名前はセヴィーロ、みんなにはゼロと呼ばれている。
と言ってもゼロと呼んでくれているのは冒険者ギルド副本部長のキアラさんとプリムラ孤児院のレジーナ院長先生だけだ。
僕は物心ついた時からプリムラ孤児院で育ったから、レジーナ院長先生がお母さん代わりだ。
8才の教会の儀式で孤児には珍しく魔法の才能がある事がわかり、すぐに貴族の養子が決まった。
4年間魔法科に通わせてもらったが、魔法の発動は出来たものの威力が弱く何の役にも立たない事が分かった。
役立たずを養う貴族家など居らず、僕は学校卒業と同時に貴族家から廃嫡され路頭に迷った。
途方に暮れて路地裏でしゃがんでいたところ、キアラさんが陰の薄い僕に気づかずぶつかってしまった。
身体の丈夫なキアラさんにとっては躓いた程度だったようだが、僕は馬車にひかれたのかと思った。
瀕死の僕をキアラさんが介抱してくれた。
それをきっかけに、キアラさんが僕の面倒をみてくれるようになった。
それから10年間キアラさんは、根気強く僕に魔法を教えて鍛えてくれた。
その甲斐あって闇属性魔法と僕の陰の薄さにより、戦うのではなく誰にも気づかれずに情報収集が出来るようになった。
自分でいうのもなんだが、僕は影が薄くて普段から人に気づかれにくい。
キアラさんとの出会いも僕の影の薄さあっての事だ。
今僕は24才になった。
冒険者としてキアラさんから独り立ちして調査や情報収集などの依頼を受けて生活している。
たまにキアラさんから連絡が来ると最優先で駆けつける。
今の僕があるのはキアラさんのお陰だし、僕をゼロと呼んでくれる数少ない一人だ。
今回キアラさんのお願いは、さくらという子供の過去を調べる事だった。
子供だし本人に聞けばいいと思うのだが、子供が嫌いなのだろうか。
仕事としては子供の過去だからすぐに済むだろうと気楽に考えていた。
先ずは王都での諜報活動から始めた。
僕の影が薄いという個性は、諜報活動に向いていて、更に闇属性魔法で気づかれにくくするのだ。
王都のあっちこっちで聞き耳を立てて人の噂話しを盗み聞きするのが僕の得意な方法だ。
商人ギルドで話しを盗み聞きしたが、どうやらさくらはCランクの商人らしい。
10才でロッソの商人とか信じられないが、きっとかなり名の知れた貴族の子供で、賄賂でCランクになったのだろう。
神楽というのを王都のみんなの前で踊る計画をしているようだ。
ありがちな貴族の子供のわがままだ、子供の踊りを見せられる方の身にもなって欲しいものだ。
モンテラーゴから来たという情報が入ったので、さっそく行ってみる事にする。
乗合馬車でモンテラーゴに向かう途中、ゴテゴテと装飾されている高価な馬車とすれ違った。
あの趣味の悪さは悪徳貴族フトッツィオ・ムッツリーニの馬車だ。
悪い事ばっかりしていて関わり合いになりたくない貴族だ。
まあ僕が側に居ても気がつかないから、関わり合いにならないんだけどね。
モンテラーゴに着いて、一日中、商人ギルドの中で色々と盗み聞きをした。
すると金持ち貴族の子供が賄賂でロッソの商人になった訳ではないと思えてきた。
自分で編んだ人形をオークションで売っていたり、孤児院の人たちが串焼き屋台を運営出来るようにしたりしていた。
神楽という踊りも人気が高かったみたいで、未だに話題になっていた。
鉱山地区管理棟での盗み聞き調査では、神楽の素晴らしさと串焼きの美味しさから全ての鉱山労働者から神のように崇められていた。
管理棟内に孤児院で運営している串焼き屋があった。
孤児院の収入になり、孤児たちの生活が豊かになっているようだった。
孤児たちを助ける為のさくらのアイデアらしい。
ただのわがままな貴族の子供じゃなかった。
串焼きを食べてみたらとっても美味しかった。
孤児院へも盗み聞き調査をしに行った。
孤児院の建物は僕が育った王都のプリムラ孤児院に似て質素だったのでとても懐かしく感じた。
でも住んでる人たちの雰囲気は違った、先生も孤児たちもみんな生き生きとしていた。
孤児たちは毎日串焼きを食べて元気で楽しそうに暮らしていた。
僕もこんな孤児院がよかった…………さくらってなかなかやるな。
街中での聞き耳調査の結果、モンテラーゴの領主がさくらを投獄した事が分かった。
その事を住民たちは未だに根に持っているようだった。
特に鉱山労働者たちはみんな、領主がさくらを投獄した事への文句を言っていた。
領主代理のバカのせいで、さくらちゃんがモンテラーゴを嫌いになって出て行ってしまったと言っていた。
領主をバカ呼ばわりとか、不敬罪になりかねないのに大声で言っていた。
念の為に領主の館も盗み聞き調査をしてみたら、領主の妹とお友だちのようだった。
領主は一人で酒を飲みながら「妹に嫌われちゃったかな……」と寂しそうに呟いていた。
さくらちゃんを投獄したことではなく、妹の機嫌だけを気にしていた。
さくらちゃんを気にしてないとかふざけた領主だ、妹に嫌われて当然だな。
盗み聞き調査で、さくらちゃんの護衛を剛腕のジャンと息子のジャックがしていた事も分かった。
Aランクのジャンが強いのはともかく、息子のジャックも相当強いようだ。
鉱山内のDランクの魔物200体とCランク1体をたった一人で倒してしまったとか。
さくらちゃんの護衛としては頼もしい限りだ。
調べていくうちに、何だか僕はさくらちゃんを好意的に感じ始めていた。
観たことも会ったことも無いけれど、みんなの心に残る神楽を踊り、孤児たちにも優しいさくらちゃん、すぐにでも会ってみたいな。
もう調査を辞めて、さくらちゃんに会いに王都に戻ろっかな………いやっ、僕はさくらちゃんをもっと知りたい。知るべきだ。
さくらちゃんはモンテラーゴの出身ではなく、ボスコから来たらしい事が分かった。
よしっ行こう!さくらちゃんの育った街に!
2日かかってボスコに着いた。
さっそく商人ギルドや冒険者ギルドや街角などで盗み聞き調査をしたが、さくらちゃんが神楽を踊った事と編んだ人形をオークションに出していた情報しかなかった。
何故だっ!?
そこで僕は気がついた。
学校だ!
ボスコで育ったのなら学校に行っていた筈だと。
さっそく学校で盗み聞き調査を開始した。
しかし、学校にこのはなさくらという生徒はいなかった。
何故だっ!
危険だが僕は校長室でも盗み聞き調査を行った。
そして分かった事があった。
他人の事なんて誰も気にしないこの世界で同級生みんなの面倒を見たアリーチェという生徒がいた事。
アリーチェが生徒みんなの前で神楽を踊った事。
魔法科を2年というあり得ないペースで卒業したアリーチェは、みんなに惜しまれながら旅立ったそうだ。
イメージが僕のさくらちゃんと重なる。
旅立った時期が、モンテラーゴにさくらちゃんが現れた時期とも合う。
アリーチェは僕のさくらちゃんと同一人物なのかもしれない。
こうなると出身地を調べる
のは簡単だった。
アリーチェの出身地は、標高の高い山奥のラダック村、神の泉のある事で有名な村だ。
陰の薄さが売りの僕でも、何日も魔物の森の中を一人で歩いてラダック村に行くのはリスキー過ぎる。
僕にとってはさくらちゃんの名前がアリーチェだと分かった事で充分だ。
王都でさくらちゃんと会って、二人の秘密を話すのが楽しみだ。
王都に戻ってキアラさんにはなんて話そう…………キアラさんに話すとさくらちゃんと二人の秘密じゃなくなっちゃうな。
「まぁいいや、まずはさくらちゃんに会いに戻ろう」
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m(_ _)m
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