リディアとナディア!
フトッツィオと交渉をなんとか終えた次の日、咲良は奴隷商の館を訪ねた。
東地区の裏通りの奥まった突きあたり、薄暗い雰囲気の建物だった。
一緒に来たダニエラが閉まっている館の扉ドアをノックすると、少ししてドアの小窓から執事の様な男が覗く。
「どちら様でしょうか?」
「私は商人ギルドのダニエラで、こちらは奴隷を買いに来られた小花咲良様で、後ろは護衛のジャックです」
男は3人をじろじろ見て納得したのか、ガチャガチャと鍵を外す音がしてドアが開いた。
「どうぞ中へ」
男に案内されるまま通路を抜けると、薄暗い雰囲気のリビングに出た。
奥の机で書類仕事をしていたペッピーノが顔を上げた。
「おやおやこのはなさくら様、お早いお越しですね。どうぞこちらへお座り下さい」
ペッピーノは高価そうなソファーに席を変えて、話しを始めた。
「フトッツィオ様からさくら様へ譲るとのお話しは伺っております。先ずは娘2人をご覧に入れましょう」
そう言ってペッピーノが先ほどの男に指示を出すと、リディアとナディアを連れて戻ってきた。
二人が奴隷になってから約3週間、すでに無条件の永久奴隷としてフトッツィオ・ムッツリーニに買われる事は聞かされている。
二人は女の無条件奴隷が何の為に買われるのかも、受け入れる事はまだ出来ていないが理解はしていた。
心は沈み、表情もなく、ここ数日は言葉を発する事もなかった。
咲良は二人に微笑みかけるように挨拶をした。
「私は咲良です。お二人を買うために来ました」
買い手はフトッツィオだと聞かされていた二人は、目の前にいる女の子に戸惑う。
しかし奴隷に変わりはないので深く考える事もなく俯き加減で挨拶をした。
「リディアです」
「ナディアです」
金髪のリディアと銀髪のナディアは美しい髪をしていたが二人の暗い雰囲気のせいでくすんで感じられた。
二人の挨拶が済むと、ペッピーノは交渉を始めた。
「それでこの二人のお値段ですが、8千万ターナはいかがでしょうか?」
冷静にダニエラが答える。
「かなり高額のようですが、何故でしょうか?」
「何故?元々フトッツィオ様は7千万ターナでお買い上げの予定でしたし、さくら様にとってこの娘2人はもっと価値がお有りのようでしたので8千万ターナです。これでもかなり安めに申し上げたのですがね」
ダニエラはペッピーノを見据えながら言った。
「そうですか。こちらとしてはよくても4千万ターナですね」
「はっ?いったい何を仰っているのやら。最低7千万で決まっているのに4千万だなんて、話しになりませんな。それならフトッツィオ様にお売りするまでです」
「フトッツィオ様はもうお買いになりませんよ、だから購入権を譲られたのです。なによりご子息のマルイーノ様がもういらないと仰ってましたから」
「なっ!じゃあ尚更、最低額の7千万は払ってもらわないと」
「私どもは購入権を譲って頂いただけで金額は別です」
「フトッツィオ様と交渉してまで欲しい奴隷なら8千万もだせるでしょう」
「相場としましては高くて4千万ターナの筈です。こちらはもっとも高い金額を提示したのですが」
「いっ、今は8千万なんだよ!」
「前に貴方は夫婦の奴隷を600万ターナで咲良様に売りましたよね、今の相場は安い時期なので200万なのに」
「そっちが了承しただろう、それに終わった話だ!」
「二人を3,900万ターナで買います」
「なっ、なんで金額が下がってるんだよ!」
「たった今、相場が下がりました」
「ふざけやがって!もう売らねえぞ?」
「どうぞ、3,800万ターナ」
「売らねえって言ってるだろ!」
「3,700万。因みにマルイーノ様はさくら様をたいそう気に入られて購入権をプレゼントすると仰ってました。それで奴隷を売ってもらえなかったと咲良様がマルイーノ様に言ったら、さぞお怒りになるでしょうね。せっかくのプレゼントなのに……3,600万」
「なっ、俺を脅すのか!」
「3,500万。脅すなんてとんでもない、事実をお伝えしたまでです。商売が出来なくなるだけで済めばいいですね。3,400万」
「ちきしょう!」
「3,300万」
「くっ!分かった、もう3,300万ターナでいい!」
「そうですか、そちらがそう言うのなら3,300万ターナに致しましょうか」
ダニエラは咲良を見て微笑んだ。
お互いの商人ギルドカードで金銭のやり取りの後、奴隷契約も済ませた。
「フンッ、あんたはとんでもねえ奴だな。5千万ターナで買った4人の奴隷が合わせて3,900万ターナでしか売れなかったんだからな………赤字だぜ」
「赤字はあなたが欲を出しすぎたせいでしょう」
渋い表情のペッピーノ。
「フンッ、ところでこのはなさくらなんて聞いたことないが、何処の貴族の子供なんだ?」
「貴族ではありませんよ、でも将来は上位貴族は確実でしょうね」
「…………まぁ、今後もうちで買ってくれりゃあそれでいい」
ダニエラは呆れた表情で言った。
「あなたが逆の立場だったら、嘘をつき人を騙す事しか考えていない商人と取引をしますか?」
「………………」
ペッピーノは言葉を返せなかった。
咲良はリディアとナディアを連れて奴隷商の館を後にした。
* * * * *
訳も分からず咲良たちについていくリディアとナディア。
「あの……ご主人様」
姉なのだろう、リディアが話しかけてきた。
「さくらでいいわよ、なあにリディアさん」
咲良が優しく応える。
「あっえっと、さくら……様……私たちはどうすればよろしいでしょうか?」
「ん~、聞いててなんとなく分かったと思うけど。フトッツィオから二人の購入権を譲ってもらって買ったから貴族は何もしてこないわ。もう大丈夫だから安心してね」
リディアとナディアは言われてやっと今の状況を理解し始めた。
「それでね、咲良はこれからお店を始めるからみんなに手伝って欲しいの。お店が軌道に乗ったらみんなを奴隷から解放するつもりだから希望を持ってね。ただその後も従業員として働いてくれると助かるわ」
いまいち事態が理解出来ないリディアとナディア。
「お店を手伝うだけ?」
「奴隷から解放?」
二人は混乱したまま咲良に着いていった。
「着いたわ、咲良の店はここよ」
二人がよく知っている東広場の建物の前で止まった。
建物の前には、父と母であるニコデモとエルマが立って出迎えていた。
「「お帰りなさいませ咲良様」」
「「パパ!ママ!」」
「「おかえり、リディア、ナディア」」
家族4人は泣きながら抱きしめ会った。
その後、店内で両親から説明を受けてやっとリディアとナディアは理解した。
改めてニコデモがお礼を言った。
「さくら様、この度は家族4人を救って下さりありがとうございました」
家族4人揃ってお辞儀をする。
「咲良はまだ子供だし、そんなにかしこまらなくて大丈夫よ」
「いえ、そうは参りません。私たちのご主人様ですから」
「まあでも家族4人揃う事が出来て良かったわ。今まで通り3階に住んでこのお店をお願いね」
「「「「はい、さくら様!」」」」
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