新しい担当?
用事も済んで商人ギルドに行く為に店を出た咲良は、一緒に着いて来るニコデモとエルマを見て、奴隷の生活も住む場所も主人の責任だと気がついた。
咲良はニコデモとエルマに、お店の管理もあるし今まで通りこの店の3階に住んでもらうととても助かるからお願いし、当面の生活費も渡した。
「「ありがとうございます。さくら様」」
咲良はまた明日来る事を伝えて店を後にした。
* * * * *
店を出た咲良は商人ギルドに行き、ギルド本部長のヴァネッサにフトッツィオ・ムッツリーニの事を相談した。
「かなり面倒な相手ね」
言葉のわりには、悩む様子もなくヴァネッサは続けた。
「でも丁度良かったわ、レティシアには悪いけどさくらさんの担当を変えるわね」
レティシアはヴァネッサ本部長にぶつかりそうな勢いで抗議した。
「どうしてですか!ヴァネッサ本部長!私ちゃんと仕事頑張ってますし、今はお金持ちのイイ男に色目使ったりしてないじゃないですかっ!」
ヴァネッサは、ため息をついた。
「レティシアが仕事を頑張っているのは知ってるわ。担当を変えるのはレティシアのせいではないから気にしないで。さくらさんの担当をどうしてもやりたいという本人の希望なのよ、そうしないとギルドを辞めるなんて言うから………」
「そんなの首にすればいいんですよ!」
「それは商人ギルドとしても困るのよねぇ」
「どうしてギルドが困るんですか??」
「会ってもらえば分かるかしらね。じゃあ入ってきていいわよ」
ヴァネッサの声の後に扉の開く音がした。
ガチャリ!
扉が開いて入って来た女性は、咲良も知っている顔だった。
咲良とレティシアが同時に叫ぶ。
「ダニエラさん!」
「ダニエラ主任!」
「咲良様ご無沙汰しております。咲良様専属で担当をさせて頂く事になりましたダニエラです、また宜しくお願い致します」
紺のリクルートスーツの様なビシッとした服を着て、栗毛色で清潔感のある髪型のダニエラがクールな笑顔で立っていた。
ダニエラはボスコの商人ギルドの副ギルド長だった筈だ。
「ボスコに居なくて大丈夫なの?」
「はい、代わりの者と交代致しましたので問題ありません」
ヴァネッサ本部長が説明してくれたが、本当に咲良専属の担当をする為に配置転換してもらったようだ。
次期商人ギルド本部長候補なのに。
「なんで咲良なんかを?」
「今、咲良様をサポートするべきだと感じたからです。配置転換して頂けなければ商人ギルドを辞めて、咲良様とご一緒してお手伝いさせて頂くつもりでした」
(咲良の中身はただの女子高生なんですけど………あっプラス10才ね)
「そこまで期待されても……」
「いえ、私が自分で望んだ事ですのでお気になさらないで下さい」
「でもまぁ、今は本当に困ってるとこだったから助かるかも」
ダニエラの目がキラーンと光った。
「何なりとお申し付け下さい、全力で対応させて頂きます。では早速お話しをお伺い致しましょうか」
咲良はフトッツィオ貴族や娘2人の奴隷の事などを話した。
ダニエラはヴァネッサ本部長を見て頷いてから、咲良に話し始めた。
「分かりました。私がその交渉を引き受けましょう」
「おおっ!ありがとうダニエラさん。咲良、交渉とか苦手だから心配だったのよ~」
ダニエラは抱きついてきた咲良の頭を優しく撫でた。
その後、咲良は現状や王都でやりたい事もダニエラに伝えた。
「はい、だいたい分かりました。細かい部分はレティシアから聞いておきますので、今日のところはごゆっくりお休み下さい」
レティシアはダニエラが登場してから、ずっと憧れのお姉様を見るような目で見つめていて、ウンウン頷くだけだった。
* * * * *
宿屋フレンドで、いつものように朝食を食べている咲良とジャック。
だがいつもと違って隣でダニエラが朝食を食べていた。
美味しそうにチーズを食べるダニエラ。
「これがチーズという食べ物ですか、ミルクの風味があり、さっぱりしていてクセがなくとても美味しいですね」
「今食べてるのは、フレッシュチーズとリコッタチーズといって食べやすいチーズなの。これとはまた違ったゴーダチーズっていうのがあるんだけど、それは2ヶ月以上熟成させて作るから濃厚でクセがあってまた違った美味しさがでると思うわ」
「2ヶ月以上熟成させるなんて凄いですね。ミルクを食するようになったのはまだ最近だと思うのですが、何処でお知りになったのですか?」
「えっと友達に………じゃなくてお母さんに教えてもらったの」
「お母様に?……………そうですか、きっと聡明なお母様なのでしょう」
朝食を食べた後ダニエラは、毎日の日課となっていたアランのチーズ作りを見学した。
今は、アランにチーズ作りをお願いしていて、それを咲良が自分の部屋で熟成させていた。
お店の改装で地下室に熟成室が完成したので、この後チーズを運びがてら東広場のお店に行く予定なのだが、アランも一緒にお店に行くことになった。
ダニエラが乗ってきた商人ギルドの馬車に、咲良、ジャック、ダニエラ、アランが乗って東広場の店に向かった。
店に着くとニコデモとエルマが丁寧なお辞儀で出迎えてくれた。
みんなにニコデモとエルマを紹介をしてから、地下の熟成室へ行く。
部屋中の壁には、木の棚が何段も取り付けられていて、2ヶ月間毎日チーズを作り続けても置く場所に困らなそうな広さだ。
咲良は作ったばかりのゴーダチーズを棚に置きながら、アランに熟成について説明した。
涼しい温度と湿度80%くらいの部屋で、最初の1週間は毎日、上下を反転して乾燥を促し、その後はブラッシングとかしながら品質を保ちつつ熟成させていくのだ。
アランは、まだ数個しかない熟成中のゴーダチーズを嬉しそうに眺めていた。
降りてきた階段から見て一番遠い隅に、魔法で隠した床下扉がある。
Aランクの者が近くに行けば気がつくかもしれないが、そうそう見つかる事はない筈だ。
しかし咲良はバレないようにと不自然な程に床下扉がある方を見ないようにしていた。
1階に移動して、カフェとお店の場所だと説明すると、提供する食事を作るためにしっかりした調理場があった方が良いとの意見が出た。
アランからも、ここでチーズを作ればわざわざ運んでこなくて済むし熟成の様子も確認出来るから、ここで作らせて欲しいと言っていた。
さっそく広めの調理場を作る事になった。
2階は部屋がいくつもあったのでとりあえずスタッフ休憩室にした。
1階に戻ってチーズを食べながら、咲良がみんなに何か必要と思うか意見を聞いた。
するとアランから、今フレンドにいるホワイトシープをここで飼育した方が効率的じゃないかとの意見が出た。
店の管理にニコデモが居るので即決定だった。
ホワイトシープのスペースを店の裏に作る事になった。
追加の手配はダニエラが引き受けてくれた。
「では咲良様、業者には明日から入ってもらいますので、1週間後には調理場や飼育場所などは出来上がると思います。店の看板も取り付けてもらいますので名前はいかが致しましょう」
「おっ考えてなかったわ、そうね~、チーズ屋だからチーズさくらとか、カフェ……さくらカフェ!さくらカフェでどうかしら」
「さくらカフェですか、軽食も兼ねてますから良い名前だと思います。ではさくらカフェで看板を発注しておきますね」
こうしてさくらカフェの準備は、ダニエラを迎えた事によって急速に進んでいった。
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