お店の準備
購入した建物の内装や孤児院でやる串焼き屋の準備など、咲良がレティシアと相談して決める事は多かった。
建物の1階は店舗、2階は作業場、3階はそのまま居住区にした。
地下1階に魔法陣を設置したかったが、お店をやってると流石に見つかるし、チーズの熟成兼保管庫が必要だったので熟成部屋にした。
レティシアの提案で店員を募集する事にした。
前の宝石店が潰れる原因となったような裏切る店員には気をつけようと咲良は肝に銘じた。
この物件は魔法陣設置の為に買ったのだからなんとかしたかった咲良は精霊たちに相談したところ、地下を掘って作ってしまえばいいというシンプルな返答が返ってきた。
前イフリートに、山頂近くに洞窟を掘ってもらって魔法陣を設置した事があった。
しかしあれをこの建物の下でやると陥没してしまいそうだが、そこそこ地下深くまで掘れば何とかなるかもと考えて、地下洞窟計画を実行に移した。
その日の深夜、咲良と精霊たちで店の地下1階の隅っこにらせん階段のような穴を掘り進んだ。
勿論、穴掘りはイフリートの仕事、掘った土はどんどん咲良のアイテムボックスに放り込み、ノームの土魔法で掘った壁や地面を強化しながら綺麗な壁と階段にしてもらった。
地下30メートルくらいまで掘りすすんだので、10畳部屋くらいの洞窟の製作にかかってもらった。
勿論イフリートが望んで一人でやった。
張り切ったイフリートによって、洞窟はバスケットコートの広さにまでなっていた。
前もイフリートにお願いして出来上がったら広かったのを咲良は思い出した。
掘るのに夢中だったイフリートを、ウィスプがボコボコにして止めていた。
殴る蹴るされてる間のイフリートは、なんかへんな笑顔で気持ち悪かった。
完成した予定より広めの洞窟に、テレポートの魔法陣を設置して、地下1階に戻り、入口を魔法の隠し扉にして終了した。
* * * * *
毎日孤児院で串焼きの仕込みと焼き方を教えた。
院長と大きい子供2人に串焼きの仕込みと焼きを毎日練習してもらったが、焼いた串焼きをみんなのお昼の食事として出し、失敗した串焼きは自分で食べてもらった。
焼きへの真剣さが日に日に増していった。
串焼き屋台を出す場所は、東広場の咲良が買ったお店の向かい側に出す予定だ。
孤児院からは遠いいが、困った事があればいつでも助けられるからだ。
神楽の公演会場でも、臨時で出店する予定だ。
貧民街の西広場の公演の時は、見に来た子供たちに無料で串焼きを配る予定だ。
そうすれば貧民街の子供全員集まるだろう。
神楽をやる広場のうち、お金で解決する南や東広場はいいが、北広場は教会信者に良い印象を持ってもらわねば公演が出来ない。
他の所でやる神楽でなんとか興味を持ってもらえるように頑張るしかなかった。
募集したチーズ屋店員面接の日。
店となる1階が面接会場だ。
面接官として咲良とレティシアが座っていて、外には10名程並んでいた。
順番に一人づつ面接をした。
70を過ぎたおじいちゃんや12才の少年、話してばっかりで仕事がおろそかになるからと前の店を首になったおばさんなど、微妙な人ばかりだった。
チーズ屋という誰も知らない店だからか、優秀そうな人は居なかった。
残念ながらここまで9人みんな不採用だった。
面接最後の人は、高価な服を着て小肥りで髭を生やした、怪しい雰囲気を持った男だった。
「面接会場はこちらかな?」
怪しすぎて飲食店に似つかわしくないので、即不採用決定だったが、咲良は一応話しをした。
「はいそうです。飲食店勤務の経験はお有りですか?」
レティシアではなく子供の咲良が聞いてきたので男は怪訝な表情をした。
レティシアが主人で、子供を同席させていると思っていたのだ。
「おや、子供とは思えない丁寧な言葉遣いだね、でも私は面接官に話しがあるのでね、静かにしているんだよ」
咲良はもういいやと思い、レティシアに不採用の合図を送った。
頷いてからレティシアは言った。
「私はさくら様の担当をしている商人ギルドのレティシアです。隣に座って居られるのがお店のオーナーであり、今回の雇い主となるさくら様です。すでにあなたの不採用は決定致しました。面接は終了です、どうぞお帰り下さい」
男はポカンと口をあけたまま呆気にとられていた。
普通は商人ギルドの職員が付き添ったりしない筈なのでレティシアがいる事に驚いたが、それ以上に目の前の子供がオーナーだと言う事に驚いた。
親が子供に一等地を買い与えて店を任せるとか、商人ギルドの職員が付きそうとか、きっと名高い貴族の子供に間違いないと考え男は俄然やる気が出た。
男は咲良の前に跪き謝罪した。
「オーナーの方だと気づかず大変失礼しました。話しだけでも聞いては頂けないでしょうか?」
「………」
咲良は立ち去る積もりだったが、すぐに誤りだした男の話しを仕方なく聞いてあげる事にした。
咲良が話しを聞く姿勢を見せたので、男はそのまま話しを続けた。
「失礼な発言申し訳ありませんでした、私は奴隷商のペッピーノと申します。面接ではなく奴隷を売り込みに参った次第でございます」
奴隷に馴染みのない咲良は奴隷商という言葉にちょっと引いた。
「奴隷商?」
きっかけはどうあれ、反応した咲良にペッピーノはチャンスとばかりにたたみかけた。
「はい、奴隷商です、こちらに新しくお店を開くと聞いて、お役に立てると思い参りました。お店を為さるのなら良い奴隷が居ります。絶対損はさせません」
咲良は奴隷制度に抵抗感があるので断ろうとした。
「奴隷を買うつもりはありませんので、お帰りくだ………」
ペッピーノは咲良の言葉にかぶせ気味に言った。
「この店の前の主人です」
咲良は驚いて、思考が停止した。
「…………えっ?」
ペッピーノは咲良の反応を見て、ゆっくり話し始めた。
「奴隷はここの主人と奧さんです。元々店をやっていたのですから絶対役に立つと思うのです」
借金返済の為に身売りした家族、そんな不幸話に免疫のない咲良は動揺していた。
そんな咲良を見てペッピーノは、ほくそ笑んでいた。
(子供がオーナーと聞いて驚いたが、しょせん子供だな、来て良かった。こりゃあ、ただ同然だった奴隷が売れるかもしれないな)
「奴隷を買うつもりはありませんのでお引き取りを………」
「夫婦で店をやってましたから、絶対に役に立ちますよ。それに永久奴隷ですから途中でいなくなる事もありません」
一定期間で解放される奴隷だと思っていた咲良は、永久奴隷と聞いて疑問に思った。
「えっ?ある程度の期間で解放される奴隷じゃないの?」
ペッピーノは咲良がある程度経ったら解放しなきゃいけない奴隷なのを心配していたのだと勘違いした。
「永久奴隷なので解放する必要はなくずっと仕えさせられます。身売りに来た主人は数年を希望していましたが、必要な金額に程遠かったので、話し合いの結果、家族4人とも無条件の永久奴隷で買い取りました」
それを聞いた咲良は気が遠くなった。
(永久にって…………無条件って言った?娘さん2人も居たわよね)
「家族4人って娘さんも居ましたよね?」
「ああなる程、店を開くうえで若い女性店員が居るといいですよね。確かに娘2人居ますが、無条件の永久奴隷として買い手が決まって居りまして、申し訳ございません」
(まだ若い娘2人が無条件奴隷って………)
「………家族4人でどれくらいですか?」
「えっ?家族4人?」
夫婦だけを売りに来た奴隷商は予想外の言葉に戸惑ったが、すぐに落ち着いて返事をした。
「すでに娘2人は買い手が決まっておりますので、家族4人は無理なんです。親の二人は商売にも精通していますし顔も広いしお買い得ですよ」
娘2人が無条件奴隷だと知って胸が更に締め付けられる咲良。
「ぜひ家族4人でお願いします!いくらですか?」
奴隷商は咲良を名高い貴族の子供だと思っているので、価格を吊り上げる可能性を考えていた。
「では、娘2人を買い取る予定の方に聞いてみますので、1日お待ち頂けますか?」
「分かりました、待ちます」
「ありがとうございます。あっ、夫婦の方は明日にでも連れてこられますがいかが致しましょうか?」
「えっ?じゃあお願いするわ」
咲良は奴隷を買うつもりはなかったが、いつの間にか流れで買うことになっていた。
「ありがとうございます。お値段は奴隷を見て頂いてからに致しましょう」
奴隷商は奴隷の値段を上げるチャンスを得て、心の中で喜んでいた。
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