イザベラ司祭!☆2
イザベラたちと別れてアリーチェが家に帰り着くと、エリスは昼食の準備が終わった所だった。
イザベラ司祭の事で悩みながら帰って来たアリーチェ。
「ただいま~!」
「お帰りなさ~い、じゃあママはルカのお手伝いで畑仕事に行ってくるから、お昼ご飯食べて休んでてね」
エプロンを外しながら支度をする
エリスが、アリーチェの曇った表情とリボンに気づいた。
(あれは!ロンバルディア教会の女性聖職者に配られるリボンに似てるわ)
「アリーチェ、そのリボンどうしたの?」
アリーチェは悩みながら答える
「帰ってくる途中でもらったの………プレゼントだって」
困惑するエリス
「えっプレゼント?誰から?」
「イザベラお姉ちゃん………司祭様って呼ばれてた人がくれたの」
「司祭様!そのリボンは司祭様にとって大切な物の筈なのよ、なんでくれたの?」
「大切な物なんだ………道を教えてくれたお礼って言ってたけど、どうしてくれたか分からないわ。両親とどこから来たのとか年とかも聞かれたわ」
正直、アリーチェにも分からなかった、
「……………」
「イザベラお姉ちゃんは今まで知ってる中では、一番魔力があったわ。司祭様って魔法使いなの?」
「ええそうよ。教会には聖属性の才能がないと所属出来なくて、司祭以上の聖職者と呼ばれる人たちは、その中のエリートでレベルの高い魔法使いよ」
「そうなんだ。魔力隠蔽してたけどそんな凄い魔法使いなら、アリーチェの魔力分かっちゃったかな?」
「そうね、魔力がバレたと考えたてよさそうなね。優しい司祭様なんておかしいもの。きっと目的があるのよ。養子にしてそばにおいておきたいんじゃないかしら。アリーチェは将来はどうしたい?魔法の才能があるなら貴族の養子になるのは普通よ。裕福な暮らしが出来て幸せになれるから。でも教会内や貴族社会では派閥闘争や裏工作、誰かを陥れたりと人間関係がとても大変なのね。みんな自分が得するなら裏切るしね」
「アリーチェは探したい人が居るの、何処にいるか分からないけど」
「ママの知ってる人?」
「アリーチェも知らない人………でも会って話せばきっとこの人だって分かるの。アリーチェはその人を探さないといけないの!」
「人探しね………よく分からないけどアリーチェがやりたいのならそうしなさい。司祭様の養子になったらやらなければいけない事がいっぱいあるから、人探しは無理だと思うわ。1番自由度が高いのは、どの国でも行ける冒険者かしらね」
「ならアリーチェは冒険者になりたい」
「うん、応援するわ。司祭様が魔力を持ってると気がついているなら、自分の養子にする為に何をしてくるか分からないわ」
「イザベラお姉ちゃん以外に兵士の男の人2人と、魔法使いが1人いたけど何もしてこなかったわ」
「聖職者の護衛の兵士は結構強いし、司祭様に失礼な態度の者はすぐに斬り捨てられちゃうんだけど」
「優しくてプレゼントもくれたし、仲良くしたかったのかな?」
「聖職者は自己中心的な人よ、目的があって優しくしてるのね。きっと魔力を持った子供だとバレたと思って間違いないわね」
通常は8才に教会の儀式で、魔法の才能があると分かると、貴族がお金を払って養子にする。
聖属性なら教会の職員が確約され、優秀に育ったなら聖職者として偉くなって権力を持つ事になる。
優秀になれば王族に迎えられる事もあるのだ。
その他の属性も、好待遇で国や貴族の兵士になれるので、この世界の人にとって魔法の才能があれば幸せになれるのだ。
魔法の才能が無い者は、貴族関係の仕事に就くのは大変だし。身体を鍛えて兵士や冒険者をやるか、農民や商人になるかだ。
何よりも魔法の才能が無い者は、貴族などに失礼な態度をとると簡単に斬り捨てられてしまう世界なのだ。
「最初は養子の話しをしてくるでしょうね」
「エリスママの所にいる!アリーチェ何処にも行かないよ」
アリーチェを抱きしめるエリス。
「ありがとうママも離さないわ。でも断ったら間違いなく力ずくで来るでしょうね。とりあえずルカを呼びにいって来るから、どこか隠れていられる?」
「分かった、隠れてる」
「急いで行ってくるわね、鍵閉めといてね」
エリスは走ってルカを呼びに行った。
夏の昼下がり。晴れてはいるが村人は畑仕事にいって、村は静かだった。
木々が風に吹かれる音と鳥のさえずりしか聞こえない。
アリーチェは寝室のクローゼットの中に隠れて静かにしていた。
(………相手は強いのね、手荒な事をしてきたらどうしよう。精霊達に守りきれるだろうか?守りきれても精霊を召喚出来るとばれてしまう。守ってもらわなかったらそれこそママもパパもどうなるか分からない。どちらにしてもいろいろ問題があるわ。どうしたらいいの………)
ルカを連れて急いで家に戻ってきたエリスはドアをノックする。
トントン
返事がない……
少し強くドアをたたく
ドンドンッ!
少し待つが返事がない……
焦るエリスとルカは、アリーチェの名を叫びながらドアを叩いた。
ドンドンドンッ!
「「アリーチェ!アリーチェ!」」
ドンドンドンッ!
ガサゴソとドアのかんぬきの外れる音がして、ドアが開く。
アリーチェが出てきた。
「エリスママ!ルカパパ!」
「「アリーチェ!」」
エリスとルカはアリーチェを抱きしめた。
「良かった………良かったわ」
みんな少し涙ぐんでいた。
アリーチェは怖くて寝室のクローゼットに隠れていて、音が聞こえずらかっただけだった。
家に入って鍵を閉め、これからの事を3人で話しあった。
アリーチェは絶対外には出ない事。
エリスかルカのどちらかが必ず家にいる事。
司祭様が来ても、居留守を使いアリーチェには会わせない事などが話し合われた。
「わかった、アリーチェお家で静かにしてる。それと思ったんだけど、相手が魔力を感じなかったらいいんじゃないかな?魔力隠蔽を特訓して、魔力を完全に隠蔽できたら養子にしようなんて考えないんじゃないかしら?」
「出来そうなの?」
「解らないけどやってみる!」
ルカはキョトンとしている。
「魔力隠蔽?なにそれ?」
「あっそっか、えっとね、難しいんだけど魔力を隠す方法があるの。練習すると魔力を隠せるようになるのよ、どこまで隠せるのか分からないけどできるだけやってみるわ」
表情が堅くなるルカ
「ははっそうなのか………それはいいじゃないか、はははっ………」
その日は何事も無く過ぎて、夜からアリーチェの特訓は始まった。
寝室のベッドの上に座禅スタイルで座り、目を閉じて集中するアリーチェ。
心を静めて自分の周辺の様子に集中する……
風にきしむ家の音、
虫の声、
風に揺れる木々の音、
山々に吹く風、
感覚を研ぎ澄まして集中力を高め、自分の魔力を隠蔽していった。
始めた頃よりも慣れてきたし、上手くなってる感じがしていた。
(イザベラお姉ちゃんはアリーチェの魔力を、どれくらいと感じたんだろう…聞いてみたいけど無理ね)
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