冒険者ギルド本部!☆1
冒険者ギルド本部は、商人ギルドから見て広場の反対側にあった。
東広場の中央には多くの屋台が営業しているので、咲良たちは広場をぐるっと回って冒険者ギルド本部に向かった。
広場を丸く囲むように走る道は多くの荷馬車で混雑していたが、たまに貴族の馬車が通るとみんなが道をあけていた。
冒険者ギルド本部は商人ギルドの石造りとは対称的な木造建築4階建てだった。
木の艶と質感が歴史を感じさせ、堂々とした存在感があった。
ジャックにとっては父のジャンと王都の冒険者ギルドで活動していたので、馴染みのある場所だ。
ジャックが先に入り、咲良が続いた。
床はフローリングで部屋は仕切りのない広い空間だ。
左側の壁にはランク毎の依頼書が貼ってあり、右側は椅子とテーブルが幾つも置いてある喫茶エリア、そして正面に受付カウンターが三つあった。
今は昼下がりで、普通の冒険者なら依頼に行っている時間なので室内にいる冒険者は少なく、受付嬢も一人しかいなかった。
巫女装束の咲良がギルドに入ってくると、喫茶エリアで酒を飲んでいた若い冒険者が、酔った勢いで絡んできた。
「おいこら!ヘンテコな服着やがって、ここはがきんちょの遊び場じゃねぇぞっ!」
おもむろに立ち上がった緑の髪の若い男が、ふらふらと咲良に近寄ってきた。
テーブルで一緒に呑んでいた気難しそうなグレーの髪の男が止める。
「イヴァノ、子供相手に辞めとけよ、いいから座って話しの続きをしようぜ」
もう一人、ジュースを飲んでいて気弱そうな水色の髪の男もいた。
「マカリオも言ってるし、子供相手はまずいですょ、冒険者ギルド内ですし……」
咲良に歩み寄ってきていたイヴァノと呼ばれた緑の髪の男が叫ぶ。
「うっせぇぞトニー、引っ込んでろっ!おいこらがきんちょどもっ、すぐにここから出てくか、俺たちの酒代を置いていけ!」
広い部屋には受付嬢一人と他にも冒険者が数人いたが、またかよとゆう呆れた表情で見てるだけだった。
ジャックは咲良を守るように酔っ払いの前に立った。
「おっ?なんだやんのか?がきんちょのくせに生意気だな」
「呑み過ぎですよ」
「ああっ!!ガキが来るとこじゃねえってアドバイスしてんだよっ!そっちの女は意外と可愛いから俺たちに酌でもしな、生意気なお前はアドバイスしてやったんだから俺たちの酒代を置いてとっとと帰んな」
明るいうちから呑んで、子供に絡んで金をせびるとか、咲良もジャックも呆れていた。
ジャックの後ろに隠れていた咲良は、小声でジャックに話しかける。
「酔っ払いこわいね、王都ってみんなこんななの?」
「そんなことないよ、まぁいろんなのが居るのは確かだけど」
それを酔っ払いは聞き逃さなかった。
「なぁんだぁとぉおっ!聞こえたぞぉお、いろんなのって俺の事かっ!表に出ろがきんちょがっ!もう奢ってもらっても許さねえからな!」
ギルドにいる他のみんなは可哀想な者を見る目で、酔っ払いのイヴァノを見ていた。
その時、入口から女の人が勢いよく入って来た。
ババァァ~~ンッ!!
「こら~っイヴァノ!もう、何してんのよ!マカリオもトニーもとめなさいよ!」
白地に赤のラインの入った教会職員のローブを着た、若い女性だった。
グレーの長い髪を一つに縛った女性は、つかつかとイヴァノに歩み寄り腕を掴んだ。
「ほらっ!お金は私が払っとくからもう帰るわよ!マカリオもトニーもいくわよっ、ほら立って!」
「あぁあ?なんだリタか……腕が痛いよ、それにまだ呑んでる途中だぜ?」
「なんだリタかじゃないわよイヴァノ、いいから早く外に出なさいっ!」
リタと呼ばれた女性が酔っ払い3人を外に放り出してから、ギルドに居たみんなに頭を下げて謝った。
「みなさんいつもすいません。ほんとすいません」
そしてジャックと咲良に向き直って、深々と頭を下げた。
「ごめんなさいっ!嫌な思いをさせてほんとすいません」
咲良とジャックは突然きて酔っ払いたちを叱りつけた女性に戸惑っていた。
「えっと、酔っ払ってるのはちょっと怖かったけど、なにもされてないから大丈夫です」
リタはしゃがんで咲良を抱きしめた。
「そうよね怖かったわよね、ゴメンね。こんな可愛い女の子に絡むなんてほんとごめんなさいね、あいつらは後でいっぱい叱っておくから許してね」
リタは悪くないのにいっぱい謝っていたから、咲良はもう許していた。
「お姉ちゃん、もう大丈夫だよ」
リタは抱きしめていた手を緩めて咲良とジャックの顔を交互に見た。
「ありがとう。お兄ちゃん、次にアイツらが酔っ払ってたらグーでぶん殴っていいからね、アイツらたいして強くないから手加減してくれると助かるけど」
リタは最後にジャックと咲良に頭を下げてから、表で待っている3人の所に走って行った。
リタを微笑ましく見送ったジャックと咲良は、改めて受付カウンターに行った。
受付ではブロンドでウェーブのかかったおしゃれで落ち着いた女性が迎えてくれた。
大人の色気満載で年齢を感じさせないまさに美魔女だった。
「お帰りなさいジャック」
大人の色気に魅せられて赤くなるジャック。
「キアラさん、ご無沙汰しております」
キアラはジャックをまじまじと見た。
「あら?少ししか経ってないのに逞しくなったわね」
「えっと、父に鍛えられましたので………」
咲良のお陰でガンガンレベルが上がりましたとは言えないので、なんとなく誤魔化すジャック。
「そう、まあいいわ、そちらの女の子はどういった関係の方?」
「えっと、僕がさくらの旅の護衛をしてます」
「護衛?へぇ~…………それだけ?」
「えっ?どう言う事でしょうか?」
「いや可愛いからさ、惚れてるんじゃないかと思ってね」
「なっ!何をバカな事を言ってるんです!本当に護衛ですよっ!」
慌てるジャックを見てニヤニヤするキアラ。
「フフッ、まあいいわ。私はキアラ、よろしくねさくらさん」
キアラは受付から出てきて、しゃがんで咲良に手を差し出した。
着てる服は黒の革ジャンにスリットの入ったロングスカートにピンヒール、ギルドカラーの制服なのだが、出るとこは出て引っ込む所は引っ込んだ魅力的なボディラインをしていた。
咲良は見とれつつも握手を交わした。
「はっはい、小花咲良と申します、こちらこそ宜しくお願いします」
「えっ?こなはなさくら?確かに服の色は噂に聞いてた感じっぽいけど見た事ないからなあ。その格好はこのはなさくらのコスプレ?なりきってるのね」
「コスプレ?」
「このはなさくらさん、本当のお名前は?」
「??えっと小花咲良です……」
「??」
戸惑う咲良とキアラ。
「王都の方たちに神楽を観てもらう為にまいりました。商人ギルドには挨拶をしてきましたので、出来そうなら近々王都でも神楽を観てもらえると思います」
「えっ、まさか本当に本人?子供っぽいとは聞いてたけど、こんな小さくて可愛らしい女の子なの?」
「はい、まだ学校を卒業したばかりの10才です。宜しくお願いします」
「嘘をついてるようには見えないわね。そっか、本人だとは知らずにごめんなさいね。噂では色々と聞いてたのよ、公演は凄く綺麗みたいたから私も見たかったのよ。ギルドを休んでモンテラーゴに行こうとしたのにギルドのみんなに止められちゃったのよ、残念だったわ」
それを聞いてジャックが苦笑いする。
「キアラさんがいなくなったら、ギルド本部が回らなくなりますから、そりゃあみなさん必死で止めたでしょうね」
「そんな大袈裟よ、旦那のジローラモがいれば大丈夫なのに」
「キアラさんじゃないとダメですよ。ジローラモギルド本部長は普段は役に立たないですから」
「みんなそう言って止めるのよ。でもまあいいわ、さくらちゃんが王都に来てくれて良かった、大歓迎するわ。そうなのねだからジャックが護衛をしてるのね。でかしたわジャック!必要なら私も護衛をするから困ったことがあったら言ってね」
素敵な笑顔でウィンクするキアラ。年齢不詳だがどんな男も虜にしてしまいそうな色気に咲良もジャックも頬を染めていた。
ジャックが護衛をするようになった事情を細かく説明しなくて済みそうなので、ジャックはホッとしていた。
「最初はお父さんも一緒に護衛をしてましたので、今日はお父さんが今どうしているかの確認に来ました」
「ジャンもさくらちゃんの護衛をしてたのか。分かったわ、別室に行きましょ」
立ち上がったキアラは、他の若い受付嬢に指示を出してから、咲良とジャックを上の階に案内した。
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