商人ギルド!☆2
「しっ失礼致しました!少々お待ち下さい!」
そう言って裏に走って行くレティシアの後ろ姿を見送りながら、咲良はため息をついた。
「はぁ~、綺麗なんだけどなんか残念な受付嬢だったわ」
少ししてレティシアと一緒に来たのは、見るからに優しそうで落ち着いた、お母さんの様な女性だった。
その女性は真っ直ぐに咲良の元へ来て、しゃがみ込んで目線を合わせて挨拶をしてきた。
「商人ギルド本部長のヴァネッサ・サンマルティーニと申します、小花咲良様ですね。今後とも宜しくお願い致します」
優しい笑顔に優雅な仕草、咲良の目線に合わせて差し出された手、咲良の今までレティシアに感じていた不安は吹き飛んでしまっていた。
「さっ咲良です。どうぞ宜しくお願いします。ヴァネッサギルド本部長、あと咲良に様は無くて大丈夫です」
「フフッ、ダニエラの手紙通りだわ。可愛らしくて礼儀正しいのね。分かりました、じゃあ咲良さんってお呼びするわね。では私の事はヴァネッサとお呼び下さい。別室でお話しを伺いますので、こちらへどうぞ」
咲良が王都に来る事を見越してダニエラは、商人ギルド本部長に咲良の事を手紙で知らせていたようだ。
咲良はなんて書いてあったのか気になったが、ヴァネッサの反応を見る限り良いことが書いてあったのだろうと思うと、きちんとしようとして更に緊張してぎこちなくなっていった。
咲良たちが案内された部屋はこれまた豪華だった。
4階まではエレベーターのような魔道具で上がり、部屋に入るとふかふかな絨毯にふかふかなソファー、高価なシャンデリアにアンティークな調度品が飾ってあった。
ヴァネッサに案内されてソファーに座ると、目の前のテーブルに美味しそうなデザートと飲み物が運ばれてきた。
ジャックは護衛のつもりで来ているので、咲良の後ろに立っていた。
馬に一緒に乗って来てジャックも疲れてるのを気づかって、咲良はヴァネッサギルド本部長に聞いた。
「ジャックは大切な仲間なので一緒に座ってもいいですか?」
ジャックの事をよく知らないヴァネッサだが、快く返事をした。
「ええ、勿論構いませんよ」
咲良がジャックを見ながら自分の横のソファーをポンポンと叩いた。
「あっ、えっと、ヴァネッサギルド長、ありがとうございます」
ジャックは戸惑いながらもソファーに座った。
ヴァネッサはジャックを護衛かと思っていたが違うことに気づき、目の前の様子を微笑ましく見つめていた。
咲良は早速ヴァネッサに神楽公演の事を相談した。
すると出来る事出来ない事を分かり易く説明してくれて、どうしていけばいいのかも教えてくれた。
王都内ではすぐに公演は出来ないそうだ。
知名度によって出来る場所が変わるし、知名度が無くても出来る場所はあるが、高い場所代がかかるそうだ。
ヴァネッサさんが示してくれた今後の計画は次の通りだった。
まず最初は王都の平民街4地区の広場での公演。
場所代はかかるがお金さえ用意出来れば大丈夫だそうだ。
次は中央地区貴族街の広場での公演。
4地区の公演で知名度が上がるので、きっと貴族の許可が取れて出来るようになるでしょうとの事だった。
そして学校での公演。
貴族街の広場で公演出来る程有名になっていれば大丈夫だそうだ。
最後はお城で国王様の前で公演だ。
これは名誉な事であり、今後は何処に行ってもすんなり公演が出来るようになるそうだ。
ただ、王様から声がかからなければ出来ないので、名前を売って後は待つしかないそうだ。
流石ヴァネッサさん、色々な事をハッキリと答えてくれて、計画まで示してくれた。
最初から王都にくればよかったと思う咲良だった。
その後の雑談の中で咲良は、ミルクから作る保存の利く食べ物があるかを聞いてみた。
前の世界では、ミルクがある所では歴史上必ずチーズの作り方が発見されて、食されるようになっていたので確認した。
「どうかしら……聞いたことないわね。ミルクを飲むようになったのはここ最近の事だし腐りやすいから王都近郊でしかミルクは飲まれて無いのよ。ホワイトシープって魔物でしょ?、魔物を飼育しようなんて思う人もなかなか居ないのよ、ホワイトシープを飼育してると他の人に嫌われて生活し辛いのよね」
なる程、咲良もホワイトシープの群れに襲われているので良く思わない気持ちもわかった。
ミルクの事を知らなければ咲良も同じ気持ちかもしれなかった。
ミルクが飲まれるようになって日が浅いのなら、チーズが発見されるのはまだだったのかもと思いつつ、咲良は作り方を説明しようとした。
「ちょっと待って、ミルクが保存が利くというのは信じ難いけど、さくらさんが仰るのなら出来るのでしょう。情報だけでもお金になりますので気軽に話すのはお控え下さい。それと咲良さんがお店を出されてはいかがですか?」
「お店?さくらは子供だし、お店をやる時間がないからなぁ……」
「商売に子供も大人も関係ありませんわ。時間の方も大丈夫ですよ、さくらさんはアイディアを出して指示するだけでいいんです。あとは雇った従業員にやってもらえばいいんです。経営者はそういうものですから」
「ん~、咲良はこれからも旅をして王都にそんなに居ないつもりなの……」
「分かりました。レティシアにサポート役をさせてもよろしいですか?さくらさんの第一印象は良くなさそうですが、情熱を持って仕事をしますし、たまに未熟な行動をとりますが名誉挽回しようと頑張ってくれると思いますのでいかがでしょう?」
「ん~確かに(イケメンへの)情熱はなんとなく感じましたね………分かりました、任せてみます」
「ありがとうさくらさん、きっとレティシアも頑張ってくれると思います」
ついでに孤児院で串焼き屋をやる事も話してみた。
「王都から多少の補助は孤児院に出てますが、物価の高い王都では苦しいでしょうから、良い考えてだと思います。さくらさん、商人をしながらでいいですから将来商人ギルドに就職する気はありませんか?」
「えっ?えっと色々とやりたい事がありますので大丈夫です。お誘いありがとうございます」
「そう、残念だわ、気が変わったらいつでも仰って下さいね、何年経ってからでもいいですからね。あっ、今なら王都の有名レストランでご馳走しちゃうけど、どうです、気が変わりましたか?」
「えっと……すいません」
「デザートもつけちゃう」
「いっ………いえ」
「手土産もあるわよ?」
「ははっ……」
流石商人ギルド本部長、丁寧だがグイグイくるタイプだった。
咲良はデザートのクッキーとティーのお礼に、串焼きをヴァネッサにプレゼントして商人ギルドを後にした。
部屋に1人残ったヴァネッサは、串焼きを食べていた。
「………美味しいわ」
気がついたら全て食べきってしまっていた。
「とても柔らかくてジューシーだったわ。モーウルフのお肉って事だけど、この美味しさはゼブラモーウルフ以上ね。さくらさんの気が変わらなくても、職員として登録しておこうかしら……」
ヴァネッサはお肉の無くなった串をジッと見つめていた。
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