街道は続くよ何処までも!☆2
乗合馬車の旅も3日目。
今日の夕方にはグイドの街に着く予定だ。
グイドが近づいてくると、草原や森林ばかりだった景色がいつの間にか田園風景に変わっていた。
視界も開けて遠くが見渡せるようになると、街道を進む馬車の遙か先に防壁に囲まれたグイドの街が霞んで見えてきた。
高い建物は少ないが、かなりの広さの街だった。
「わぁ~、すっごく広そうな街ね~」
モンテラーゴよりも広そうな街を見て咲良が感心していると、横に座っていた護衛PTのクラリッサが話してくれた。
「さくらちゃんは確かラダック村出身だったよな、それなら驚くのも無理ないわ、住民の数はモンテラーゴの方が多いけど、防壁の内側にも田畑が広がっているから土地だけは広いんだよ」
「へぇ~、それじゃあ食べ物が美味しそうね」
サンドラも教えてくれる。
「ええそうなのよ、朝市はとても賑わっているし、グイドで買い付けた食料を毎日のように商人が早馬車を使って王都へ運んでいるのよ。グイドは王都の台所とも呼ばれているわね」
そんな話をしていると突然、前を行く馬車から狩人のドナートの声が響いた。
「前から魔物の群れが来る!」
魔物の群れと聞いて全員に緊張が走った。
パルミロの指示で街道脇に馬車を停めて、護衛たちが前に集まって魔物に備える。
街道の先に砂埃が上がっていて、何かの群れがゆっくりとこちらに向かってくるのが見えていた。
咲良は魔物の群れが近づいて来るのは分かっていたが、ゆっくりだし、1体以外は弱そうな魔力だったので黙っていたのだ。
狩人のドナートが呟く。
「もしかしてあれなんじゃないか?」
「あれって?…………あれの事か」
「「ホワイトシープだな」」
パルミロとドナートの声が揃った。
ホワイトシープとは、とてもおとなしく臆病な性格をしていてるEランクの魔物だ。
森の中で出会っても襲ってこないしすぐに逃げてしまうから脅威とはならない魔物だ。
大人しい魔物なので羊毛もとれるし肉としての人気も高く、雌はミルクもとれるので、この辺りでは家畜として飼われているのだ。
ホワイトシープだと聞いて、乗客もみんなホッとしていた。
この辺りでのホワイトシープなら、間違いなく家畜として飼われている群れなのだ。
放牧の行きか帰りだろう。
群れが近づいて来るよりもかなり早く、男が走ってこちらに近づいてきてた。
「すいませ~ん、助けて下さ~い!」
ペーターと名のったその男の話しを聞いてみると、彼は羊飼いで、ホワイトシープの群れを放牧しているところにブラックシープが1体現れて、ホワイトシープたちを従えて周りを襲い始めたそうだ。
「「「「ブラックシープか!」」」」
護衛の4人はブラックシープを知っているようだった。
サンドラがブラックシープの事をみんなに説明してくれた。
家畜として飼われているホワイトシープだけなら安全なのだが、Cランクのブラックシープが入ると厄介なのだそうだ。
ブラックシープは好戦的な性格をしていて、自分より格下のシープを従える能力がある。
Eランクのおとなしいホワイトシープの群れに1頭のブラックシープが入るだけで、従順なホワイトシープの群れはブラックシープに従い、好戦的な群れへと変貌してしまうのだ。
ホワイトシープの群れは従順に従うので、素晴らしい連携を見せBランク相当の脅威になるらしかった。
羊飼いのペーターが懇願する。
「頼みますからホワイトシープは傷つけないでブラックシープだけを倒してください。お願いします、お願いします、ほんとお願いします!」
羊飼いがホワイトシープを失いたくはない気持ちも分かるパルミロだが、難しい顔をしていた。
「そいつは難しいだろうな。全てのホワイトシープが先に向かってくるわけだし、こちらも群れに襲われればそんな余裕は無いぞ」
「まぁ、そりゃあそうですよねぇ………無理ですよねぇ」
羊飼いのペーターもブラックシープが現れた事が災難だったと分かっているのだろう、渋々引き下がった。
一般的には連携して攻めてくるホワイトシープを倒して、最後に1番後ろにいるブラックシープを仕留めるのだ。
羊飼いペーターのお願いを叶える為には、ホワイトシープの攻撃を全て躱しながらブラックシープを仕留める必要があるのだが、ホワイトシープの攻撃に少しでも体勢を崩せば、素早くブラックシープの角で貫かれてしまうのだ。
まあ無理な話しである。
リーダーのパルミロがPTメンバーに声を掛ける。
「もし戦うとなったらホワイトシープの攻撃手段は体当たりだ。ブラックシープは頭にある尖った長い2本の角で突っ込んでくる。かなり素早いので厄介なんだが、ブラックシープさえ仕留めればホワイトシープは戦うのを辞めるから、早めにブラックシープを倒したいが…………まぁ最後まで生き残るだろうなぁ」
狩人のドナートが20体はいるホワイトシープを見ながら呆れた感じで言った。
「何と言ってもあの数はやばいな」
クラリッサも真剣な表情だ。
「そうだな、馬車が囲まれたりしたら、みんなを守るとかの数じゃあないぜ」
サンドラは苦笑いをする。
「守れるかしら………」
パルミロが結論を出した。
「幸い群れの進む早さはゆっくりだ、一旦引き返そう。ブラックシープが街道を逸れてくれるのを待つか、他の冒険者と出会えれば協力して倒すかだな」
日程は延びるが仕方がないと馬車の主人も頷いた。
みんなが馬車の向きを変えようとしたところで、咲良とコソコソと話をしていたジャックが声を掛けた。
「待って下さい、僕に考えがあります!」
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