街道は続くよ何処までも!☆1
新章です。
よろしくお願いします。
緑豊かなロンバルディア平原。
北側は山脈が連なり、南側は海に挟まれ、幅60キロで東西に1,000キロも続く細く長いロンバルディア平原。
気候は温暖で植物が良く育ち、とても住みやすい土地であった。
当然、魔物にも住みやすく、所々に広がる森林には、多くの魔物が住んでいた。
街道沿いは王国軍や領主軍が定期的に見回りをして、ある程度の安全は保たれているが、それでも魔物は住んでいるし盗賊もいるので護衛は必須だった。
モンテラーゴから王都レオーネまでは馬車ではだいたい6日かかる。
丁度中間の位置に、農業が盛んな街グイドがある。
ロンバルディア平原を何処までも真っ直ぐ延びる街道を日が沈むまで進み、街道脇で初日の野営をする咲良たち。
星空の下、そよ風が草木を揺らす中、みんなで焚き火を囲んで食事をしていた。
旅の途中の食事は、乗合馬車の主人ポッチャが干し肉と温温めた野菜スープを用意してくれていた。
咲良は周りのみんなの手前、串焼きを出して食べる訳にも行かず、焚き火にあたりながら干し肉をかじっていた。
咲良の肩に留まっている小鳥のふわちゃんも、咲良の持つ干し肉を突いていた。
咲良と出会ってからのふわちゃんは少しずつ育ってきて、最近では子犬くらいの大きさにまでなっていたのだ。
しかしその大きさのせいで夜以外はあまり咲良と一緒に過ごせなくなっていたのだ。
咲良が王都へ向かってモンテラーゴを出発する数日前のこと、
「ふわちゃんが小さかったらもっと一緒に居られるのにね」
ふと洩らした咲良の言葉を聞いたふわちゃんは、怖い顔をしたかと思うとほんのりと輝きだして小さかった昔の小鳥の大きさになって、咲良の肩に乗ってきたのだ。
「まあっふわちゃん!ちっちゃくなれるんだ!これならずっと一緒にいられるね」
咲良は驚きつつもすんなりと受け入れて、嬉しそうに肩のふわちゃんに頬ずりをしていた。
小鳥の大きさになったふわちゃんも嬉しそうにすりすりしていた。
それ以来ふわちゃんは、咲良の肩や袖や懐の中など、ずっと一緒に過ごしていられるようになったのだ。
話しが少し逸れてしまったが、みんなで焚き火を囲んでの夜の食事をしているところである。
焚き火を囲んで座る咲良の両脇には、何故か護衛PTの火属性魔法使いクラリッサと聖属性のサンドラが座って、咲良に色々と話しかけてきた。
「他の乗客の人に聞いたんだけど、さくらちゃんって踊りをやるんだって?」
焚き火に照らされて綺麗に輝くピンクの髪のクラリッサが聞いてきた。
「はい、神楽を舞います。神様へ捧げるといいますか、神様へ祈り願う舞ですね」
話したくてウズウズしていたサンドラも話しかけてきた。
「へぇ~そうなのね。神様へのお祈りとして踊るなんて素敵ね。その服は初めて見るけど可愛らしいわね、その踊りの為の服なの?」
「ええ、舞うときの服にもなりますし、神様に仕える巫女という者の普段の服になります」
「みこ?聞いたことないな」
「ん~、教会の聖職者みたいな職業でしょうか」
2人の大人に挟まれているせいか、咲良は丁寧な口調で答えていた。
「そうなのね、色々な神様がいらっしゃるから、よろしいんじゃないかしら」
「ねえねえさくらちゃんさぁ、その舞をここで見せてもらったり出来ないかな?必要なら手拍子もするからさ~」
この世界に娯楽が少ないからなのか、クラリッサは舞に興味津々のようだった。
「ん~、そうですね、皆さんには守って頂いてますし、それではお礼の気持ちも込めてやらせて頂きます」
舞う事が好きな咲良は、即OKした。
モンテラーゴで一度見たことのある乗客の人は、嬉しそうに目を輝かせていた。
みんなの食事も終わり、焚き火を囲んで神楽が始まるのを今か今かと待っていた。
咲良は焚き火の前に立ち、少し離れた所でジャックが神楽笛演奏の準備を整えた。
満天の星空の下、焚き火のパチパチした音だけが聞こえていた。
咲良が静かにお辞儀をして、神楽鈴と扇を持ったそれぞれの手をスッと前に差し出すように掲げ、そのまま静止した。
巫女装束がそよ風にそよぎ、揺らめいた火に照らされた緋色の長袴と白の千早がこの場を鮮やかに彩り、妖しくも清らかでえも言われぬ美しい世界へと観客を誘っていった。
咲良の持つ神楽鈴が微かに揺れて、凛とした鈴の音が鳴り響き、この場の全てが清められていった。
ジャックの神楽笛の演奏と共に、咲良が舞い始めた。
揺らめく焚き火に照らされて舞う咲良は、とても神秘的でまた妖艶でもあった。
見ている者は皆、現実の事など忘れて咲良の舞に魅入っていた。
瞬く夜空の星たち………
揺らめく炎………
幽玄に舞う咲良………
観ている人々は咲良から目を離せなくなっていた………
神降ろしの舞……
剣の舞……
舞い終わって咲良がゆっくりとお辞儀をする。
観ていたみんなが終わったことに気づき、徐々に拍手が鳴り始め、盛大な拍手が満天の星空に響き渡った。
* * * * *
翌日の朝。
朝日を浴びて生き生きし始める木々の青葉、小鳥たちがさえずり、自然も咲良たちも活動し始める。
咲良たちは朝食を済ませて野営地を後にした。
咲良は昨日と同じ2台目の馬車の1番後ろに座っていたが、何故か左右には昨日と違ってクラリッサとサンドラが座っていた。
昨日の舞は素晴らしかったとか、その服はどこで買ったのとか、ジャックに恋人はいるのかとか……色々と話し掛けてきた。
咲良とジャックは兄妹だと思われているようだ。
まぁ誰が見てもジャックが妹を連れているようにしか見えないのだ。
咲良はいずれ元の世界に帰る予定なので、イケメンで妹思いの優しい兄ジャックには、幸せになってほしかった。
その為にも咲良はジャックを褒めまくった。
優しくて、何でもお願いを聞いてくれて、いつも守ってくれるなど、思いつくことは何でも話した。
「良いとこだらけだな」
「恋人がいないのが不思議なくらいだわ、立候補しようかしら」
「若いし、お姉さまとして色々教えて更に私好みに育てちまおうかな……」
「クラリッサはお姉さまじゃなくて、姉御って感じだから、無理しない方がいいわよ」
「だよな、ジャックが姉御タイプが好きならいいんだが、お姉さま好きならイメチェンして頑張るかな」
「クラリッサにお姉さまは無理よ!すぐにぼろが出るわよ」
その後もクラリッサとサンドラは2人で盛り上がっていた。
馬車は暖かい陽射しが降り注ぐ街道をガタゴトとゆっくり進んでいった。
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読んで頂き有難う御座います。
m(_ _)m
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