王都へ向けて!
モンテラーゴを出て次の街に行くことに決めた咲良は、お世話になった人たちに挨拶をしてまわった。
孤児院、商人ギルド、冒険者ギルド、鉱山地区などなど。
この街では教会には行かなかったので、そっち方面に行く必要がないのはなによりだった。
司祭とか百害あって一利無しだ。
ニコルさんはもう冒険者として他の街に行っていていなかった。
領主代理は迷惑ばかりかけられているから挨拶に行く必要はない。
* * * * *
咲良はモンテラーゴの次は何処の街に行くか悩んでいた。
候補でいくと、近いのはセノフォンテ国境都市、王都に向かう途中にある農業の街グイド、そしてその先の王都レオーネだ。
今まで神楽をやろうとするたびに苦労した事を考えた咲良。
有名になれば色々な許可がもっとすんなりいくのではと考えた咲良は、クリストフィオーレ皇国中心地、王都レオーネに行く事にした。
王都で名前が売れれば国中に名前が広まるし、もしかしたら他の国ににも知れわたるかもしれないのだ。
王都で神楽をやろうとするとかなり苦労しそうだが、姉を見つける為には通らなければならない道だと、咲良は決意をあらたにするのだった。
王都までは馬車で6日間の距離。
ジャックは馬にずっと2人乗りはキツすぎるので、乗合馬車を探しに南広場まで来ていた。
広場の一角には多くの馬車が駐められていて、その近くには御者らしき者たちが寛いでいた。
何人かに話を聞いて周り、王都まで行くという馬車と交渉した。
主人は話し好きそうな小肥りの男で、名前をポッチャといった。
「ああ、確かまだ空きがあったから乗れるぞ。一人4万ターナだ。明日の朝に出発で、ここ集合だ」
咲良は料金の相場は知らないのだが、4万ターナと聞いて驚いてしまう。
「4万?たかっ!」
「いやいや、でかい声で言いがかりはよしてくれよ嬢ちゃん。王都まで6日間かかるし護衛も着くんだ。むしろ4万は良心的だぞ」
「えっ?王都って、6日もかかるの?」
咲良がジャックの方を向いて聞いてきたので、ジャックは頷いた。
「うん、乗合馬車のスピードにもよるけどだいたいそれくらいかな。確かに4万は良心的かな。もっと高い馬車も普通にあるからね」
「だっろ~~!客商売は信用第一だ、兄ちゃんもっと言ってやってくれよ」
「安いからって乗ると、旅の途中でいろんな追加料金をとる悪質なところもあるから、安いからってこの馬車が良心的かは別かな」
「にっ兄ちゃん、厳しい事言うねぇ。うちは追加料金なんて取ないから信用してくれ」
咲良は4万と聞いてつい反応してしまったが、馬車の主人が一生懸命弁解する姿は悪い人には見えないし、料金もよくよく聞いてみるとそんなもんかと思えてきた。
(6日間も護衛PTを雇って王都まで行くのか、一人4万でも数人のお客じゃあ赤字よね……ジャックも良心的だって言ってるし)
「あ~っとポッチャさん、変なこと言ってすいませんでした。子供も同じ金額ですか?」
「おおっ!信用してくれたと思ったらさらっと値切り交渉か。小さいのにしっかりしてるねぇ。しかしなぁ子供とはいえ馬車内のスペースも必要だし、兄ちゃんの膝の上って訳にもいかねえからな」
「ああ、僕は自分の馬があるので乗合馬車には乗りません。乗るのはさくら1人です」
「1人?2人で8万のつもりで話してたが、それなら尚更1人4万ターナだな、これ以上はこっちも赤字だからすまんが無理だな」
乗合馬車の主人が正直で良さそうな人なので、咲良は頷いた。
「ではボッチャさん、4万ターナでお願いします」
* * * * *
朝の南広場。
王都レオーネ行きの2台の馬車に集まる人たちがいた。
幌付きの馬車2台に、老夫婦や子連れの母など咲良も入れてお客が12名、1台に6名ずつで満席のようだ。
荷台は少し高くなっていて、その下には荷物がいっぱい入っていた。
その荷物の為に速く走らせる事が出来ないので、乗車料金が少し安い設定のようだった。
それぞれに御者台には御者と護衛冒険者が一人ずつ、後は護衛2人が馬で着いてくるようだ。
ジャックも馬で着いてくるのでプラス一人だ。
馬に乗った30代半ばのPTのリーダーらしき男がジャックに話しかけてきた。
「俺は護衛PTリーダーのパルミロだ。君が馬に乗ってついてくるお兄さんか?」
冒険者の格好をして馬を連れているジャック。
「はい、ジャックといいます。僕で出来そうな事があればお手伝いします」
「若いからDランクか、まあ冒険者が多いに越したことはないな」
「………何でも言って下さい」
ジャックは自分からCランクだとは言わなかった。
まぁ街に入る時に冒険者カードを出せば、すぐにCランクだと分かってしまうのだが。
「そうか、俺たちが魔物とかを通したりはしないが、乗客の近くにいてくれると助かる」
「はい、分かりました」
「いい返事だ、そもそも冒険者はだな、ランクだけではかるのではなく、上位ランク冒険者を見て学ぶ事も必要なんだ、そうやって経験を積んでいってだな………」
パルミロのPTメンバーたちは、また始まったよと言う顔をしていた。
勿論、ジャックは真剣に聞いていた。
ジャックは知っているのだが、護衛依頼の条件も教えてくれた。
護衛依頼はDランクから受けられるが、自分のホームタウンから隣町まで。
Cランクになると自国内での護衛依頼を受けられる。
Bランクで初めて全ての制限が無くなり、他国への護衛依頼も受ける事が出来るのだ。
「……とまあこんなとこだ、私の話を最後まで聞いてくれたのは君が初めてかもな。気に入った。素直さも才能の一つだぞ。良さそうな剣も持ってるしチャンスがあったらPTを組もうじゃないか」
「はい、ありがとうございます」
パルミロのPTメンバーは、パルミロの無駄に長い話を最後まで聞いたジャックに感心していた。
勿論ジャックは、PTリーダーパルミロにしっかりと咲良を守ってもらう為に、知っている事だが頑張って聞いたのだ。
ジャックは心の中で、やっと終わったよ~と涙を流して喜んでいた。
馬車の主人ポッチャさんがやってきてみんなに声をかける。
「じゃあパルミロさん、そろそろ出発しましょうか」
「はい、分かりました」
背は高くガッシリした体つきで筋肉質、剣と盾を背負ったパルミロが馬で先頭に出た。
パルミロのPTメンバーたちが、ジャックにひと声ずつかける。
「私は火属性魔法のクラリッサよ、リーダーのそもそも話しが長くてゴメンね」
ウィンクをした女性は、黒いローブに長い杖、まさに魔法使いという黒づくめな格好だが、ピンクの長い髪がひと目をひいた。
「俺は斥候役で風属性のドナートだ。リーダーに悪気はないんだ、気を悪くしないでくれ」
背は高くないがすばしっこそな男だ。
「わたくしは聖属性のサンドラよ。わたくしたちが注意しても、治らなくて困ってるのよ」
シルバーの長い髪を白いリボンで結び、教会の白のローブを着た真面目そうな雰囲気の女性だ。
ジャックは苦笑いをしていたが、みんな良さそう人たちでホッとしていた。
「ええ、気にしてませんので大丈夫です、ありがとうございます」
それぞれの馬車に乗客が乗り込むと、パルミロの合図で出発した。
モンテラーゴの南門を出ると、ロンバルディア平原が広がっていて、暖かい陽射しと草花の優しい香りが出迎えてくれた。
咲良はこの世界に来て初めてののどかな平原の中を、王都レオーネへ向け出発した。
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