心残り!
オルセットがPTに加わってから1週間。
リリィたち孤児院PTのFランクの魔物狩りも安心して見ていられるようになった。
スライム以外の魔物は、串焼き肉として使えるので、討伐部位は冒険者ギルド、肉は孤児院に持ち帰った。
魔物の捌き方は、学校で習っていたオルセットがみんなに教えていた。
冒険者登録だが、オルセットはFランクで登録されていたが、リリィとカールは9才なのでまだだ。
学校に通っていればGランクとして出来るのだが、まあ仕方がない10才を待って登録することにする。
浅い森での1番の脅威は稀にいるEランクのゴブリンだ。
リリィがゴブリンと戦うのに抵抗感があるようなので、まだ遭遇したくはない相手だ。
もう少しレベルが上がりPTメンバーも4人以上になるまでは、ゴブリンに遭遇したら手を出さずに逃げるか、付き添いのロンドに任せる約束を咲良はカールにさせていた………暴走しそうなのはカールだけだからだ。
リリィたちPTの魔物狩りのサポートとして、ミーナPTのサンコンを回復役として借りられることになった。
水属性の回復魔法が使えるので咲良がお願いしたのだ。
これで咲良がいなくなってからの回復手段が、本物のポーション以外にも魔法を確保できた。
串焼き屋も軌道にのり、孤児院の収入も安定しつつあった。
来年から孤児たちは学校に通えるようになりそうだ。
これで咲良にはモンテラーゴでの心配ごとはなくなり、次の街に旅立てそうだった………
いや、一つあった。
投獄されている魔族の少年グリーゼがいた。
咲良は『テレポート』で夜中にちょくちょく会いに行って串焼きの差し入れをしているが、悪い魔族には見えなかったので、ぶっちゃけ助け出してしまおうかと考えていたのだ。
騎士団長のベルナルドに会った時に、地下5階に囚われている者の事情をそれとなく聞いてみた。
機密事項だと思うのだが、ベルナルドはあっさりと教えてくれた。
魔族は全ての国を支配する事が目的なのでで、その偵察の為に来たと考えて捕らえたようだ。
しかし子供は捕らえたが大人の魔族を逃がしてしまったことを悔しがっていた。
子供から魔族国の情報を聞き出そうとしたが、全く知らない様だった。
「何も知らないなら処刑するか…………いや、今後役に立つかもしれないから生かさず殺さず閉じ込めておけ!」
領主代理の指示により、魔族の子供は過酷な地下5階に閉じ込められる事になったようだ。
(酷い、こっそり助けてしまおう!)
咲良は良からぬ事を考えていた。
* * * * *
咲良は深夜グリーゼに差し入れに行った時に、色々と聞いてみた。
「グリーゼってだいぶ健康的になったよね」
「ああ、さくらのお陰だ。さくらに会う前は早く死にたいと思っていたが、今は生きてる事、さくらに会える事が嬉しいんだ。ありがとう」
「うん、どういたしまして。グリーゼは今後、どうなったらいいと思ってる?」
「今後どうなったら?…………あっいや、そっそうだな、こうして会えるだけでもいいけど、そりゃあさくらと……その………二人で………」
なんかモジモジとしだしたグリーゼが、何やら言っていたが咲良には聞こえなかった。
「グリーゼを助け出そうと思うんだけど、いいかな?」
「えっ?あぁそういう事。この牢獄からは大変そうだけど…………あっ、さくらなら出来そうか」
「外に出られたら、魔族の国まで連れてってあげた方がいい?」
「外に出られたらか…………」
グリーゼは久しぶりに家族や仲間の事を思いだしていたが、取り立てていい思い出などなかった。
生まれてすぐに親元から離されて教育をされ、親との思い出など一切無かった。
物心がついた頃には、戦う訓練の記憶しか無く、他の者たちと競い合って育った。
よりも強くなれれば魔王様の近くに仕えられると教育され、他者を蹴落とすのに必死で仲間などと呼べるような関係などなかった。
優しさに触れたことのなかったグリーゼにとって、咲良の優しさは生涯忘れることのない思い出となった。
「この手枷足枷が外れてこの牢獄から出られればきっと魔力も回復すると思うから、そうすれば魔族の国までは帰れると思う、さくらのお陰だ。一緒に国に……」
咲良も一緒にと思ったが、人が魔族の国に行けば間違いなく殺される。
かといって、グリーゼが咲良と一緒にこの国に居られる筈がない。
グリーゼは黙ってしまった。
「そう、帰れるのね、それじゃあ今から出ましょう。グリーゼは枷の外し方は分かる?」
「えっ、今から?」
グリーゼは枷の外し方など知らないし、なにより話しの転回の早さに戸惑っていた。
グリーゼが外し方を知らなそうなのを見てとり、咲良が悩んでいると、耳元に囁く声がした。
「咲良様、咲良様、その魔道具は決まった魔力でロックされていますので、同じ魔力を流せば外れます」
ルナの声だった。
呼ばなくても話しかけてくるとか、かなり自由だった。
「ありがとうルナ、やってみるわ」
「はっ、恐悦至極に存じます」
声だけでルナが深々と頭を下げているのが分かった。
咲良は足枷に触れて、鍵開けのイメージで魔力を流し始めた。
(枷の魔力のかたちに合わせるのよね……)
グリーゼは咲良の様子をジッと見つめていると、突然カチャリと枷が外れた。
「ふぅ~、よし次ね」
「やっぱりさくらは凄いな。この牢獄内では魔力が霧散するから、魔力操作は出来ない筈なんだけど」
咲良は次の足枷を外し、手枷には届かなかったので『フライ』魔法で浮いて外した。
かなり久しぶりに拘束を解かれたグリーゼは地面に倒れ込んでいた。
固まっていた筋肉が久しぶりに動く痛みはあるが、なによりも自由なことがグリーゼは嬉しくて涙した。
「ううっんぐっ、手を、足を、動かせる………ううっ」
「うんうん、頑張った頑張った。もう大丈夫だからね」
咲良はグリーゼの頭を膝に乗せて撫でていた。
グリーゼが落ち着くのを待ってから、牢獄の隅に設置してある魔法陣に移動して、咲良はグリーゼと共に『テレポート』の魔法陣に乗った。
「ちょっと狭いからもうちょっと側に寄ってね」
「こっこれくらいか?」
立つのもやっとなグリーゼだが、そんな辛さなど微塵も見せずにモジモジしながら咲良の側に立っていた。
「うんいいわ、じゃあ行くわよ『テレポート』」
魔法陣が輝きだした。
* * * * *
『テレポート』先はモンテラーゴとボスコの中間あたりの山の上、前に咲良がジャックのレベル上げの為に設置した洞窟内の魔法陣だ。
魔法陣の光が消えて真っ暗の中、グリーゼを残して咲良が歩いて行った先で声がした。
「『収納』!」
入口の大岩が消えた先には夜空が広がり、星々が静かに輝いていた。
「きれいだ…………本当に外に出られたんだ。この洞窟はどこだろう。涼しさが心地いいな」
今は夏の終わり、洞窟のある場所の標高は高く、そろそろ雪が降る季節だ。
「ここはモンテラーゴとボスコの真ん中辺りの山の上ね、『アウト』!」
トド~ン!!
話しながらグリーゼと洞窟の外に出た咲良は、洞窟を大岩で閉じた。
洞窟を出たところでは高山の草花が迎えてくれた。
グリーゼを草の上に休ませて、咲良はアイテムボックスから暖かいスープや串焼きを出して食事をさせた。
食事が終わるとすぐにウトウトしだしたグリーゼを、毛布を掛けて寝かせた。
寝ている間に咲良は、グリーゼの身体を『キュア』や『ヒール』で治した。
昇る朝日で目を覚ましたグリーゼは、横で膝枕をしてくれていた咲良に気がついた。
「おはよう…………まさかずっと?」
「星空がきれいだったから見ていたの。いつの間にか朝になっちゃったわ」
起き上がったグリーゼは、身体が動かしやすいことに気がついた。
「もしかして魔法で回復も?」
「ええ、牢獄を出られれば帰れるって言ってたけど、身体は元気な方がいいでしょ?」
「さくら…………ありがとう」
最後に咲良は愛用のゴーレムの剣を渡した。
「何かあったら使ってね」
「武器まで…………ありがとう、傷が付かないように大切にするよ」
「剣より命の方が大事なんだから、危なかったら使ってよね」
「剣より命の方が大事か、俺にとってはどうかな…………さくらのくれた剣、大事に使わせてもらうよ」
「良し!それじゃあ元気でね」
「ああ、さくらも元気で」
咲良のお陰で身体もだいぶ良くなったグリーゼは、咲良を見送ってから初めて寂しさを感じ涙を流していた。
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m(_ _)m
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