リリィとカール!☆5
リリィとカールがレベル3になり、咲良はスライム以外の魔物と戦わせるか悩んでいた。
(串焼き肉としても役立つ、ウッピーやタヌッキーを狩りたいんだけど、2人PTでは流石に辛いわよね。PTメンバーを増やせたらいいんだけど……)
孤児院にいる子供たちはまだ小さ過ぎてもちろん無理。ミーナPTのイチート,ニート,サンコンもLV21と高すぎる。
メリー院長に、誰かレベルが低くて冒険者になりたい知り合いに心当たりがないか聞いてみたが居そうになかった。
冒険者ギルドで聞いてみるが、魔法科を卒業した子供たちはだいたいLV10近い、普通科を卒業した子供たちならLV5くらいだが、冒険者になろうとする子は少ないそうだ。
魔法が使えないとPTに誘われないからだ。
魔法が使えない者同士でPTを組む者もたまにいるが、戦闘は大変だしポーション代もかかるので、ぼろぼろで帰ってきてすぐに諦めるそうだ。
それを聞いた咲良は、魔法の才能が無くても冒険者になろうとして諦めた人たちが居るんだと解釈した。
咲良は鉱山地区に来たときに、トマゾ管理長にも相談した。
「レベルが低くて、冒険者を諦めた奴ねえ……ここには冒険者を諦めた奴は居るかもしれねえが、レベルが低くはねえかな」
「ふぅ~ん、鉱山労働者たちは魔法が使えないけど、レベルが低くないのはどうして?」
「ああ、採掘作業をしているとたまに魔物が沸くんだよ、そいつをみんなでたこ殴りさ。だからだろうな、いつの間にかレベルが上がってるんだよ」
「そうなのね。じゃあここの若い人で冒険者になりたい人がいたら紹介して欲しいの」
「何でまたそんな奴をさがしてるんだ?」
「ん~、孤児院でPT組んで魔物倒してお肉を仕入れて串焼き屋で売る為かな」
「ほうっ!つまり串焼き屋の為なんだな、よし分かった!オルセ~~ット!」
いきなりトマゾ管理長が叫んだと思ったら、直ぐにオルセットが来た。
「はい、管理長なんでしょうか?あっさくらの姐さんお疲れさまです」
「あ~、ども」
(姐さんって呼び方はどうかと思うわね……)
「ああ、オルセットはここで働き出した頃はLV5だったよな、今は幾つだ?」
「はっ?はい、鉱山労働はしてませんので、まだLV5です」
「どうだ、さくらちゃん」
トマゾ管理長はオルセット本人の意思など確認せずに、咲良に聞いてきた。
「どうだって言われても……」
咲良は『サーチ』でこっそり確認した。
オルセット
LV5
HP82
年齢は確か16才だが、レベルは丁度良く、身体はジャックよりも大きくて頼もしい。
「咲良としては申し分ないけど、オルセットは孤児院出身の子たちとPTを組んで魔物狩りをする気はある?」
「PTを組んで魔物狩りでやんすか、仕事に支障がなければいいでやんすが……」
「オルセット、さくらちゃんを手伝ってこい!さくらちゃんの為、串焼き屋の為、ひいては鉱山地区みんなの為になるんだからこれも仕事だ!さくらちゃん、好きなだけオルセットを使ってもらってかまわないからな」
「よく分かりやせんがわかりやした。頑張りやすので、さくらの姐さんよろしくお願いしやす」
(好きなだけ使っていいって………助手はいらないってこと?)
咲良は心の中でオルセットに同情した。
「あっ、呼び方だけど、咲良の方がだいぶ年下なんだから、さくらって呼んでいいのよ?」
「いえ、年齢の問題ではなく気持ちの問題ですんで、こればっかりは勘弁してくだせぇ、女神様にも鉱山労働者のみんなにも焼きいれられてしまいやす」
「女神様?焼き?…………」
(はぁ~、どんどん腰が低くなっていくわね、見た目は頼もしい熊だからよけいに変な感じに見えちゃうわね……)
オルセットは咲良と鉱山内に行ったときの事を鮮明に覚えていた。
咲良と寄り添うようにいた女神ルナ。
咲良にしがみついていたオルセットが気に入らず足で何度も踏んづけていた女神ルナ。
当時の事を思い出して恍惚の表情をするオルセット。
(はぁ~、今までの人生で最も幸せな時だった……)
* * * * *
オルセットを毎日早朝から午前中だけ借りることにした。
孤児院で一緒に朝練をして、午前中は3人PTで魔物狩りに行く予定だ。
オルセットは、殴る、噛みつくという戦闘スタイルだ。
………実に熊らしい。
朝練に現れたオルセットの姿をみて、みんなが驚いた。
兜に動きやすそうな鎖帷子、爪の付いた籠手、足を守る脛当てとフル装備だった。
それを見た咲良は、リリィとカールに防具を買ってあげてないことに気がついた。
朝練が終わって直ぐにミーナのところに相談にいった。
まだ眠そうなミーナだったが、話しをするとPTで昔使ってたお古の防具を幾つか持ってきてくれた。
リリィにもカールにもサイズの合う軽い革の鎧があった。
リリィの装備はミーナのお古で、とても可愛らしかった。
「お古で良ければやるよ、軽く磨いといたから、これからは自分で出来るメンテナンスはした方がいいからな」
「「「ありがとうございます!」」」
防具がそろってリリィとカールは嬉しそうだった。
孤児院で3人での戦い方のシミュレートをした。
オルセットとカールは盾役をしながらの攻撃、リリィは隙を付いた攻撃役となった。
そしていつもの浅い森に向かった。
* * * * *
3人PTで初めての戦いなので咲良は、先ずスライム1体と戦わせてみることにした。
PTが3人になったしレベルも上がっているので、スライムは卒業なのだが念の為だ。
しかし、スライム1体は3人でのたこ殴りとなり、連携の練習にはならなかった。
「スライムよわっ!おれってつよっ!」
調子に乗るカール。
「スライムだし1体だったからな、数がいたらまた違うぞ」
オルセットは学校で少なからず学んでいるので、浮かれたりはしなかった。
「そうね、囲まれたりしたら心配だものね」
9才でも冷静なリリィ。
一先ず安心した咲良は、オルセットがLV5なのでウッピーではなくタヌッキーの魔力の場所に移動しながら、3人にタヌッキーの話をした。
「Fランクの魔物でタヌッキーっていうのがいるのよ。オルセットは知ってると思うけど、聞いててね」
「分かりやした、姐さん」
「タヌッキーはお腹からの体当たりとお腹を叩いて出す音の攻撃をしてくるわ。体当たりはスライムなんかより全然強力だから出来るだけ避けるようにしてね。盾で受け止めても少しはダメージを受けてしまうと思うから。音の攻撃の方はダメージは受けないけど、うるさくて集中し辛くなるから気をつけてね。心臓の位置にある核を砕くか頭をきりおとせば倒せるわ」
「分かりやした、姐さん」
「とにかくぶったおせばいいんだな」
「頭を切り落とす…………ちょっとそれは」
リリィには抵抗があるようだったが、頑張って乗り越えてもらうしかないのだ。
冒険者を目指すなら誰もが通る道だし、レベルが上がれば人に近いゴブリンも一つの壁になる。
盗賊を討伐する事、つまり実際に人とも命をかけて戦わないといけないのだ。
リリィたちはゴブリンのレベルまでは上げる必要が無いから大丈夫だろうが、タヌッキーでもかなり抵抗があるのだろう。
頑張れリリィ!
咲良は説明を続けた。
「今のカールの体力なら、体当たりを盾で受けさえすれば死なないとは思うから、落ち着いてね」
レベルが上がって、直接受けてもやられない体力があるのだが、咲良はカールに気をつけさせる為に言った。
「えっ……しっぱいすると死んじゃうの?……」
「ん~、盾できちんと受けてれば大丈夫よ」
「……きちんとしてなかったら?」
「………きちんとしてれば大丈夫よ………」
カールの顔が強張っていた。
* * * * *
「そこを左方向に進んでみて」
ここでもいつもの光景となった咲良の方向指示。
「まものでてこ~いっ!」
リリィがカールに注意する。
「カール、タヌッキーが出て来た時のことを考えるのよ?分かってる?」
「んっ?さっきさくらがはなしてたやつか、何が出てくるかわからないけど、まあいいぞ、かんがえておく」
頭のいいリリィは、すでに察していた…………咲良が話した魔物に必ず遭遇する意味を。
そして予定通りタヌッキーと遭遇した。
戦いは思ったよりも安定していた。
盾役にオルセットが加わった事により、横からリリィとカールが攻撃し、危なげなく勝利していた。
カールが攻撃に専念出来たのも良かったかもしれない。
ただ、オルセットはタヌッキーの体当たりを両腕をクロスさせて籠手でガードしていたが、少しずつダメージを受けていた。
HP10程度のダメージだったが、4回もガードするとオルセットのHPは半分になっていた。
HPが残っている内に倒せたから良かったが、カールだったら無理だっただろう。
咲良はオルセットがいて良かったと思った。
咲良はポーションもどきでオルセットの体力を回復しながら言った。
「オルセット、このPTに来てくれてありがとうね」
ポカンとしていたらオルセットだったが、嬉しいやら恥ずかしいやらで、あたふたした。
「えっ、あっ、いやっ、そんな、もったいないお言葉ありがとうございやす」
熊なので顔色は分からないが、きっとまっ赤だったに違いない。
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