誰かに絡まれた?
ゴチェン村長の説得に成功してから3週間。
ラダック村の半分くらいの道が良くなった。
でこぼこな所は平らになり、急な坂道は登山道にあるような、丸太の階段になりつつあった。
(このペースで行けば村の道路は今年の夏で綺麗になるわね)
村長宅の窓から、外の工事の様子を眺めてニマニマ笑うアリーチェ。
「アリーチェちゃん!ここどうやったらいいの?」
編み方を聞かれたアリーチェは、慌ててみんなの所に戻って編み方を教えた。
村の特産品を作る為に、村の女性たちに編み方教室を開いていたのだ。
最初の特産品は人形やポーチやコサージュの小物を考えてたので、かぎ針編みの為の、編み物棒作りに時間がかかってしまったのだ。
編み物棒を上手に作れる器用な人を村長に聞くと、雪掻きに来てくれていたブンミーさんを紹介された。
人は見かけによらなかった。
早速、編み物棒作りをブンミーさんにお願いした。
エリスママが使ってた編み物棒を改良して、太さも3種類3.0㍉3.5㍉4.0㍉、それぞれ20本ずつ作って貰った。
竹みたいな材料は無かったので、今ある材料でお願いした。
かぎ針が完成して今日が第1回編み物教室の日だ!
まずはこま編みを教えてコースター作り。
みんな冬に編み物をしているから、さすがに理解が早かった。
「この針変わってるけど、使ってみると編み易いわね、気に入ったわ」
みんなにテンチューお婆ちゃんと呼ばれている雑貨屋のテンジン・チェターさんは気に入ってくれたようだ。
「小物を編むのに向いてるの。手に持つ所を太くすると編んでて疲れにくくなるわ」
感心した表情のテンチューお婆ちゃん。
「あら、アリーチェちゃんよく知ってるのね、エリスママに教えてもらったの?」
身に覚えのないエリスは困っていた。
「いえその私は……」
「あっ、エリスママの編み棒で遊んでて、アリーチェが思いついたの……」
かなり無理のある言い訳だったが、テンチューお婆ちゃんは納得してくれた。
「こんな事思いつくなんてすごいのね、感心しちゃうわ~」
苦笑いのアリーチェ。
(後でエリスママに謝っておこう。言い訳は………精霊に教えてもらった事にしようかな………うん、そうしよう)
午前中の編み物教室が終わると、午後からの畑仕事の為に、みんな急いで帰って行った。
エリスママも急いでいるみたいなので先に帰ってもらって、アリーチェは1人で帰る事にした。
夏は雪も無くラダック村まで登って来やすいので、魔法使いの人が神の泉に来る季節だ。
アリーチェは綺麗になりかけの道を通って、ゆっくり家に向かって坂を下っていた。
(おっ、前から魔力が近づいてくるわね。大きい魔力が1つと小さい魔力が2つ、それと魔力無しが1つね。大きい魔力の人はアリーチェの魔力がバレちゃうかもしれないから気をつけた方がいいわね。道は一本道、坂を登って逃げても追いつかれちゃうから、頑張って魔力を隠蔽してすれ違ってみるしかないか)
アリーチェは転ばずに歩けるギリギリまで遅く歩いて隠蔽に集中した。
白いローブを纏った人を先頭に、坂を登って歩いて来る人たちが見えた。
(先頭の白いローブの人の魔力が1番大きいわ。後ろの2人はピエロさんと同じくらいだから大丈夫だし、もう1人は魔力がないから問題外)
そしてアリーチェが魔力隠蔽をしながら白いローブの人とすれ違おうとしたら、ローブの人はアリーチェの前に立ち止まった。
アリーチェは焦りながらも、俯いたままローブの人を避けて歩きだそうとする。
白いローブの人は、アリーチェの避けた方に動いて行く手を塞いだ。
何度避けてもアリーチェの前を塞いできた。
そしてしゃがんでじっとアリーチェを見つめながら挨拶してきた。
「こんにちは、神の泉はこの先であってるかしら?」
(なにこの人、ラダック村は一本道だから聞くまでもないのに……)
話しかけられたアリーチェは、仕方なく顔を上げた。
女の人だった。
白いローブを着て、腰までの長さの黒髪を白地に赤のラインが入ったリボンで1つに縛ってあった。
その後ろの3人は、剣と盾を持った30代に見える男と、弓と矢を背負った若い男、黒のローブに長い杖を持った金髪セミロングの女性だった。
(魔力隠蔽はある程度出来てると思いたいけど、どうだろう………ただの挨拶かな………それとも魔力がばれたかな)
「えっとね、神の泉ならこの坂を真っすぐ登って行けばすぐだよ」
「そう、あってたのね良かったわ、ありがとう。ところでお嬢ちゃんはご両親と旅して来たのよね、どこから来たの?」
(んっ?両親とどこから?)
「アリーチェはこの村で生まれたんだよ」
ローブの女の人は驚いた表情でじっとアリーチェを見つめていた。
「へぇ~この村で…………アリーチェちゃんていうのね。しっかりしてるわねいくつ?」
(何かやな感じがするわ……)
「もう5才だよ………お姉ちゃんたちは誰?」
「あら名のらなくてごめんなさいね。私はイザベラよ、後ろの3人は私の護衛でオルランドとマッテオ、女性がミーアよ」
みんな名のりながら手を差し出してきた。
「剣士のオルランド、宜しく」
「狩人のマッテオだ」
「魔法使いのミーアよ、よろしくねお嬢ちゃん」
アリーチェはそれぞれと握手をした。
「アリーチェです……」
「アリーチェちゃんありがとう、色々と教えてくれたお礼にこれをプレゼントするわね」
そう言ってイザベラは、自分の髪を結んでいたリボンをほどいて、アリーチェの髪を後ろでまとめて結んでくれた。
そしてアリーチェに綺麗な木目調の手鏡を貸してくれた。
アリーチェが手鏡でリボンを確認すると、白地に赤のラインが入ったリボンを大きな蝶々結びにしてくれていて、とても可愛かった。
(おおっ可愛い!結構いいかも。でも何でプレゼントをくれるんだろう、たいした事してないのに、アリーチェに聞くまでもなかったと思うけど…………でも可愛い、リボンくらい貰ってもいっか)
「このリボン貰ってもいいの?」
「勿論よ、アリーチェちゃん似合いそうだったしね。それに私はまだ同じのをたくさん持ってるから気にしなくていいのよ」
「ありがとう、イザベラお姉ちゃん」
アリーチェは嬉しくて、何度も手鏡でリボンを見ていた。
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