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釈放!


 衛兵詰め所を出た咲良は、3週間ぶりの眩しい陽射しに目を細めた。


 『テレポート』で牢獄を出てボスコのお風呂に入りに行ってはいたが、全て真夜中だ。

 牢獄内にも窓など無くずっと日の光りは無かった。


 3週間ぶりの日の光りは、眩しくとても暖かかった。

 色とりどりの花咲く中庭を抜けて、領主の館の玄関に着いた。

 年配の厳しそうな執事が待ち構えていて、牢獄生活だった咲良とジャックに『クリーンアップ』魔法をかけて綺麗にしてくれた。

 流石、領主の館で働く執事は便利な魔法が使えるようだ。

 だが残念、咲良の魔法でジャックは毎日綺麗だし、咲良に至っては毎日お風呂に入っているから、2人に魔法は不要なのだ。


 執事は魔法をかける前に、二人を怪訝な表情でじろじろ見ていたが、領主代理が待っているのを思いだしたのか、納得のいかない表情をしなごら『クリーンアップ』魔法をかけてから二人を館内に招き入れた。


 玄関を入ると吹き抜けのエントランスが広がっていた。

 赤い絨毯が敷きつめられていて、中央には射し込んだ陽射しに照らし出された二つの大きな像が飾られていた。

 一つはロンバルディア教の崇める神聖属性のアテナ神。

 オリーブの葉を編んだ冠に黄金の杖、肩には聖獣のフクロウ、慈愛に満ちた表情はとても優しかった。

 もう一つは火の神ヘパイストス。

 筋骨隆々で力強く、金鎚を握り締め、肩には聖獣のフェニックス。

 鍛冶が盛んな街だから火炎属性の神を崇めているのだろう。


 大人の身長の2倍はあろうかという像は、神々しい輝きを放っていた。


(あの肩に乗ってるのがフェニックスね。炎が凜々しくて格好いいけど、ふわちゃんって大人になるとああなるのかしら、ふわふわの方が可愛いから今の方がいいのになぁ)



 二つの像の間を抜けて、正面の立派な階段を登り、咲良とジャックは大きな扉の前に案内された。


 執事が扉をノックする。


 コン コン 


「ジャック様をお連れしました」


「入れ」


 部屋の中から返事が返ってきた。


 扉が開くと豪華な応接室だった。

 途中の階段や廊下もお金がかかってそうだったが、それ以上に(きら)びやかだった。


 部屋には3人の人が居た。

 1人は正面、2人は背中を向けてソファーに座っていた。

 正面にひとりで偉そうに座っていた男が話し出す。


「私が領主代理のガーリックだ。君がジャック君だな。こちらの女性に免じて君を釈放する」


 そして背中を向けて座っていた女性の一人が振り返ると、ジャックがは呟いた。


「ベアトリーチェ……様」


 この街に来たとき咲良に絡んできたが、ジャックのランク上げ試験のときは手伝ってくれた貴族だ。

 ジャックにとっては何を考えているのかよく分からない人物だ。


 ジャックは相手が貴族なのを思い出して慌てて様をつけたした。


 ベアトリーチェはジャックをひと目見ると頬を赤らめながら俯いてもじもじしていた。


 その時ガーリックが、ジャックと一緒に咲良がこの部屋に連れてこられている事に気づいた。


「ジャック君だけの筈だ。何故その子供がここに居る。すぐに牢獄にもどせ!」


「はっはいガーリック様」


 ここまで案内した執事が咲良を連れ出そうとする手をジャックが掴んだ。


「さくらに触るな!」


「ええいっ!離しなさい!」


 部屋にいるみんなの視線が咲良に集まった。


 背を向けていたもうひとりの女性も振り向いて咲良と目が合った。


「「あっ!」」


 背を向けていた女性が立ち上がって咲良の名前を呼んだ。


「アリーチェちゃんじゃない!」


「えっ?…………ニコルさん?」


 ラダック村からの護衛をしてくれた冒険者の一人だった。


(森の中なのに火魔法を撃ちまくる、ちょっと残念な魔法使いだったわよね。そっかニコルさんの時はアリーチェだったわ。まぁ今もアリーチェは間違ってないんだけど、どうしてここに?)


 ニコルが咲良に声をかけた事で、ガーリックはキョトンとしていた。


「ニコルさん久しぶりね。この街では小花咲良って名のっているので、さくらと呼んでもらえると混乱しないから助かるわ」


「ごほっごほん…………え~っとニコルの知り合い………かね?」


 領主代理のガーリックが恐る恐る聞いた。


「ええそうよ!アリーチェちゃんは私の大事な友だちなの。おっと、さくらちゃんだったわね」


「そっそうなんだ………」


 ガーリックの表情が曇っていった。


(大事な友達?護衛はして貰ってたけど、ニコルさんとそんなに親しかったかしら?)


「どうしてニコルさんがここにいるの?」


「ここは私の家みたいなものなの。そっか、さくらちゃんには冒険者としてしか名のってなかったものね。私の名前はニコル・プレッツェルよ。普段は名のったりしない名前だから秘密ね。そこの怖い顔してるのが兄で領主代理のガーリック・プレッツェルよ」


「えっ!じゃあニコルさ………まはプレッツェル家の子…………御息女だったの?………ですか」


 咲良は微妙に敬語を使い始めた。


「あらやだ、さくらちゃんはお友だちなんだから、今までどおりフレンドリーに話して、その方が嬉しいから」


 ニコルが咲良を大切にしている姿を見て、ガーリックは焦り始めていた。


 タイミング悪く執事がガーリックに聞く。


「ガーリック様、この子供を牢獄に戻す件はどう致しま…………」


「あっバカ!黙ってろ!」


 少し前の騒ぎを思い出したニコルの表情が怖くなる。


「そうだった。あのさぁ、さくらちゃんを牢獄に戻せとか言ってたのってさぁ……………どう言う事?に・い・さ・んっ!」


 ニコルはゆっくりとガーリックの方を向いた。


「ひいっ!」


 みるみるガーリックの表情がおどおどしたものに変わってく。


「いっいや違うんだよニコル!」


「違うって何がよっ?」


 どんどん小さく丸くなっていくガーリック。


「いや………だって公演して民衆を惑わそうとするから…………牢獄に……」


「やっぱり牢獄に閉じ込めてるのねっ!私のさくらちゃんがそんな事する訳ないでしょ!」


「でもさ~ニコル~」


「うるさい!これから私もさくらちゃんと一緒の牢獄に入るわ!」


「ええっ!可愛いニコルを地下4階の牢獄に入れられる訳がないよ~」


「地下4階ですって!!なんて事してくれてるのよ~!もう兄なんかじゃないわ!口も聞いてあげないんだから!」


 超激怒するニコルにあたふたするガーリック。


「いやそんなぁ~だってさ~ニコル~、知らなかったんだよ~、ニコルの大事な友だちにお兄ちゃんがそんな事する筈ないじゃないか~、怒らないでよニコル~、でも怒った顔も可愛いね」


 ニコルはぷいっとそっぽを向いて無視していた。


「ゴメンよ~ニコル~、その子も釈放するからさぁ~」


 目の前の光景に咲良とジャックは呆然としていた。


 そのやり取りで咲良は察した……


(この兄、シスコンか……)




  *  *  *  *  *




 応接室はニコルとベアトリーチェ、それに咲良とジャックだけになっていた。

 ニコルは使用人も領主代理のガーリックも応接室から追い出したのだ。


 ニコルはこれまでの事情を咲良たちに説明した。


 ジャックが投獄されたことを知ったベアトリーチェが、なんとか助けられないか考えた末に、友だちのニコルに手紙で助けてくれるようにお願いしたのだ。


 プレッツェル家では、当主マスタード、妻ハニー、長男ガーリック、次男ソルトの全員がニコルにはとても甘く、ニコルがお願いすれば何でも言うことを聞いてくれることを、ニコルの親しい友だちはみんな知っていたのだ。


 手紙を受け取ったニコルはボスコでの依頼を急いで終わらせてからモンテラーゴへ向かった。

 そして今日の朝、つまり先ほど、ジャックの釈放を兄のガーリックにお願いしたのだ。


 どんなに無茶な事でも可愛い妹ニコルのお願いを断る選択肢など無いシスコンガーリックは、すぐにジャックの釈放を決定したのだ。



 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。

             m(_ _)m


 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆




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