牢獄生活!☆1
プレッツェル領に大きな街は二つあり、一つは領主マスタード・プレッツェルが治めるセノフォンテ国境都市。もう一つは領主の長男ガーリック・プレッツェルが領主代理を務める鉱山都市モンテラーゴだ。
モンテラーゴ市街地区の中心に位置する領主の館。
5階建てマンションをコの字型に建てたような館で、中庭には噴水があり、多くの花々が咲き乱れていた。
広い敷地は高い塀に守られていて四隅には見張り塔があり、館で働く者の為の建物もあった。
他には堅牢で窓に鉄格子が取り付けられた二階建ての建物があった。
2階が騎士団の居住スペースで、1階は衛兵の詰め所で、地下は牢獄になっていた。
牢獄の入り口は衛兵詰め所の横にあって逃げる事など出来ず、牢獄内は魔道具によって魔法が使えないようになっているので、警備は万全だった。
牢獄は地下5階まであり、地下1階が軽い罪の者で下の階に行くほど重犯罪者となり、最下層の地下5階は終身刑の者だ。
咲良とジャックは、騎士団長の気づかいにより、地下5階ではなく地下4階に投獄された。
領主の館の執務室でベルナルド団長は咲良たちの事で領主代理のガーリックと話しをしていた。
ベルナルド団長は、あの若さで衛兵5人を倒したジャックを何とか騎士団で引き入れたかった。
「流石に子供に終身刑はやり過ぎなのではないでしょうか。それにあの地下牢は大人でも精神が病んでしまいます。早めに子供たちと話しをしてみてはいかが……」
領主代理のガーリックはかなり不機嫌だった。
「平民風情が私に逆らったのだぞ!最下層で死ぬまででもよかったのを、団長が頼むから地下4階にしてやったのだ。会って話す気など無い!終わりだ下がれ」
「…………分かりました」
ガーリックはかなり怒っていて交渉の余地はなく、ベルナルド団長も今は引き下がるしかなかった。
* * * * *
窓の無い牢獄は風通しも悪く、地下に降りるほど暗くジメジメしていて、居るだけで具合が悪くなりそうな所だった。
その地下4階に並んで幾つかの牢屋があった。
部屋同士は石の壁で隔てられていて、お互い顔を見る事は出来ない作りだった。
「さくら大丈夫?」
隣の牢屋にいる咲良が返事をする。
「……………お化けが出そうで嫌なところね。『クリーンアップ』魔法で部屋を綺麗にしようとしたけど、なんか上手くいかなくて自分の周りしか綺麗に出来なかったわ」
「えっ?自分の周りに魔法が使えたの?!牢獄は魔法を妨害する魔道具が使われていて、魔法で僅かな飲み水すらも出せない筈なんだけど」
「ふぅ~ん……でも出来ちゃったし。じゃあ魔法で部屋を全部綺麗にしちゃダメかな?陰気で汚すぎてもう我慢出来ないのよ」
「……………牢獄の中なら暗くて見づらいし、衛兵も食事を置いたら直ぐに帰っていくから魔法が使えるならいいんじゃないかな……………」
ジャックは魔法が使えない筈の場所で魔法が使えてる咲良に驚くよりも、汚さが原因で骨折りゾンビの時の様に咲良が暴走しないかが心配になっていた。
「そうよね、いいわよね、大丈夫よね、良かった」
涙目だった咲良は、ジャックの同意が得られてとても嬉しそうだった。
* * * * *
商人ギルドのサブリナは、咲良たちが投獄されたその日にエドモンドギルド長から事情を聞き、直ぐに神楽公演延期の連絡を各所にしていた。
* * * * *
咲良とジャックが投獄されてから2日が経った。
神楽公演予定日だった南広場はいつもと変わらない日常の風景が広がっていた。
しかし商人ギルドは今日神楽が延期だと知った鉱山労働者たちでごった返していた。
「なんでだよ~!」
「楽しみにしてたのによ~」
「どうしてやらないんだよ~」
「さくらちゃんを見られると思ってたのによ~」
「仕事が手につかなくなっちまうじゃないかよ~」
いつもの商人ギルドらしからぬ光景の店内で、よ~よ~よ~よ~うるさい鉱山労働者に平謝りのサブリナ。
「すっすいません、本当にすいません。当分は無理でして、いつになるかまだ分かりませんが、さくら様が戻られましたら開催出来ると思いますのでどうかそれまで……」
「さくらちゃんはどこなんだよ~」
「当分無理っていつまで無理なんだよ~」
「えっと、それはですねえ、…………いったん無理って事です」
「「いったん?」」
「え~っと取りあえず無理です」
「「取りあえず??」」
「差しあたり無理」
「「差しあたり???」」
「ひと先ず無理」
「「ひと先ず????」」
「と言う事です!!」
「「えっ??そっか………」」
投獄されている事をみんなが知るとヤバそうなので、なんとか誤魔化そうとするサブリナ。
しかし周りにいる鉱山労働者たち同士が自由に話し出した。
「俺、さくらちゃんが衛兵たちを紐で縛って連れてくのを見たぜ」
「それなら領主様の館の前で騎士団と揉めてたらしいぞ」
「何っ!さくらちゃん領主代理様と揉めたのか?」
「俺の息子が衛兵やってる
けど、白と紅の服を着た女の子が投獄されたって言ってたな……」
どんどん話しが進んで隠している事がバレそうで焦るサブリナ。
「いいえっ!2日前にさくら様が投獄なんてされてません!」
突然ギルド内が静かになるった。
「……………あっ………」
分かり易いサブリナをみんなが一斉にガン見する。
「まあ私って人気者…………」
みんなの圧が凄かった。
「えっと……………その子がさくら様です」
「「「なんだと~~!」」」
「ふざけやがって!」
「領主代理のやろ~~!」
「俺のさくらちゃんに~!」
「領主んとこの長男のガキだろ!」
「ちと焼き入れっか!」
「独り占めしやがって!」
狼狽えるサブリナ。
「みっみなさん、あまり乱暴な言葉はまずいかと」
鉱山労働者たちは、悪態をつきながら続々とギルドを出て行った。
「ふぅ~、なんか知らないけど引き上げてくれたわ」
安心したのかドッと疲れが出たサブリナは、カウンターに突っ伏した。
鉱山労働者たちが領主の館に向かったのをサブリナはまだ知らなかった。
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m(_ _)m
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