孤児院の為に!
神楽公演は南広場と北広場と学校の3箇所を1日ずつ3日間の予定で開催される。
最初の南広場の公演まであと3日。
昨日、メリー院長はリリィとカールのことを咲良に話していた。
リリィはしっかり者だからうちで働いて欲しいという声は幾つもあるのだが、冒険者になりたいと言うカールを心配して一緒に冒険者になる為に全て断っているそうだ。
世の中の冒険者の殆どは魔法の才能がある。
魔法の才能がない者は足手まといだからPTに誘われることはまずないし、単独だと弱い魔物にすら勝てずほぼレベル上げは無理で、冒険者としてやっていくのはかなり難しい世の中だ。
普通科でも学校に行っていれば、授業で冒険者について学びレベル上げもするので、採取などの依頼をして冒険者として最低限の生活は出来るかもしれないが、リリィとカールは学校に通えてないのでかなり無理があった。
リリィとカールが冒険者になったとしても、小遣い程度にしかならない雑用依頼をするしかなく、無理して魔物と戦っても命を落とすだけである。
咲良はリリィとカールが冒険者をめざしていると聞いて、手助けが出来ないかと悩んでいた。
そしてボスコの森の泉孤児院のように、孤児たちのPTと共に串焼き屋をやっていくのが良いと考えた。その為にはこの街に住む誰かの協力が必要なので、ミーナに相談する事にした。
「ふぅ~ん、孤児院で串焼き屋をやりながら、リリィとカールを鍛えて冒険者にねぇ」
「串焼き屋に使う魔物の肉はD・E・Fランクの魔物だから、魔法が使えないリリィたちでも魔物を倒して肉を調達出来るくらいの冒険者にしたいの。その先生役をお願い出来ないかしら」
「先生?その肉を冒険者ギルドに依頼して調達しちゃだめなのか?」
「ん~串焼き屋だけならいいんだけど、リリィとカールを一人前の冒険者にしてあげたいから、二人が魔物を倒せるようにしたいの」
「リリィとカールが魔物を倒すねぇ」
「孤児院の未来の為よ。みんなで屋台をやって、孤児院出身の冒険者PTで食材も調達出来れば、孤児たちが大人になっても孤児院で働けるから変な道に行かないし、みんなで幸せに暮らしていけると思うの」
「魔法の才能なしのPTって聞かないぞ?」
孤児たちに魔法の才能が現れる事はまず無い。親に魔法の才能の有る者がいれば子供にも受け継がれる可能性があるので、そのような子は孤児院に預けられたりしないのだ。
だから孤児院の子供たちでPTを組もうとしたら必然的に魔法の使えないPTとなる。
「Dランクまでの魔物なら魔法を使わなくても勝てると思うの」
「ん~ミスをしたら全滅しそうで危険だな」
「むぅ~じゃあ、串焼きはEやFランクの魔物でも大丈夫だから、EかFランクの魔物にしましょう、目指す冒険者ランクもEまでならどうかしら?」
「Eランクならまだなんとかなりそうか………」
「串焼き屋を続けていけば、何年か後には学校を卒業してる孤児たちもいるだろうし、PTの人数も5人や6人と増やしていけばより安全だと思うわ」
「焦らずに何年もかけて頑張ろうってことか…………分かった協力しよう」
「ありがとうミーナ!」
「アタイは鍛冶屋があるからいつも付き添うのは難しいから、暇そうなじーちゃんが先生をやるってのがいいかもな」
「じぃじが?だいぶ年配だし鍛冶師でしょ?」
「鍛冶師は戦闘は苦手だけど、鍛冶の為に火属性魔法を使うから鍛冶師もレベル上げをするぞ。あー見えてじーちゃんは現役時代Bランク冒険者だ。鍛冶に熱中しなければAランクに上がれてたって言ってたしな。今は歳だから体力もそれなりだけど、それでもDランクの魔物なんて相手にならないぞ。勿論保険でイチート、ニート、サンコンの誰かを付き添わせるけどな」
「ありがとう、ミーナ!」
「それにしてもさくらは変わってるな、他人の為ばかりを考えて色々やる奴なんて聞いた事ないぞ?」
「えっそう?でもミーナも咲良の為にいろいろ手伝ってくれてるじゃない?」
「そういゃあ…………何でだろう。さくらに会う前までは他人の為なんて考えた事も無かったのにな」
* * * * *
その後、咲良とミーナは孤児院に行って、メリー院長とロンドに話しをした。
いつも暇なロンドはたいてい孤児院で子供たちと遊んでいるのだ。
今後、孤児院で串焼き屋台をやっていく事と、リリィとカールを冒険者として育てるという話しを聞いたメリー院長は、屋台は何とかなりそうだがリリィとカールが魔物と戦うのは無理なのではと心配していた。
咲良とミーナが、先生役をロンドにお願いした。
「孤児院や子供たちの為になるのなら引き受けよう。子供たちが一人前の冒険者になるまで頑張るとするかのう」
ロンドはミーナ以外にも生きがいを見つけたようで、なんだか嬉しそうだった。
昼の時間だったので咲良は孤児院のみんなに串焼きを食べてもらう事にした。
屋台営業の練習も兼ねて咲良が下ごしらえをした数種類の魔物の肉を、メリー院長とロンドに焼いてもらった。
「うっまっ!」
「やわらか~い!」
「おいし~」
「噂には聞いていましたがこれ程とは!」
みんなとてもいい笑顔で串焼きを食べていた。
* * * * *
咲良は商人ギルドのサブリナに、今後孤児院の人たちで串焼き屋台を始めようとしている事を報告をした。
「さくら様はやはり素晴らしい商人ですね。咲良商会の店が増えるのですね」
「お店が増える?孤児院のみんなのお店だから咲良のお店じゃないよ?そもそも咲良はお店を持って無いし」
「あれ?そんなはずは………ほらっ、咲良商会にお店が登録されてます」
サブリナが見せてくれた資料には、森の泉亭と書かれていた。
「えっこのお店は………」
「もしかしてご存知無かったのですか?ボスコにある森の泉孤児院の屋台です」
「何で?」
「森の泉亭はセラフィナさんの名前で咲良商会に登録されています。咲良様がご存知無いって事はきっとダニエラ主任がセラフィナさんに話しを持ちかけたんだと思います。店舗を増やさないと商会は大きくなりませんからね」
「ふ~ん、セラフィナさんに迷惑がかからないならいいけど」
「きっとそのセラフィナさんはさくら様に感謝しているから登録したんだと思いますよ。モンテラーゴの孤児院もさくら様に感謝するでしょうから2店舗目確定です。順調に商会が大きくなっていきますね、フッフッフッ」
サブリナは独り不敵に笑っていた。
* * * * *
モンテラーゴの街はプレッツェル領に所属していて、領主の長男・ガーリック・プレッツェルが治めていた。
モンテラーゴ領主の館で、領主代理のガーリック・プレッツェルが書類仕事をしていた。
ガーリックは身長も高く筋肉質で、デスクワークが似合わないがっしりした体つきだった。
ガーリックは学校の校長や広場の元締めからの神楽公演開催の報告書を読んでいた。
「なんだこの神楽とは、南北の広場と学校で公演をしてどうするつもりだ。民衆を惑わす気か」
ガーリックは貴族第一主義で平民を奴隷くらいにしか考えないタイプだ。
「貴族の名ではないな。平民ごときがけしからん!」
領主代理ガーリック・プレッツェルは、書類に書かれている小花咲良の名を睨みつけていた。
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