ジャンの出発
モンテラーゴの南門を出た先には、緑豊かなロンバルディア平原が広がっている。
クリストフィオーレ皇国の4分の1の面積を占め、北には長い山脈があり南は海に挟まれ、東西に細く長く千キロ以上も続く平原だ。
豊富な農作物と海産物がクリストフィオーレ皇国の主要な産物である。
世界で最も食に恵まれ気候も温暖で住みやすいので、誰もが住みたい国であった。
モンテラーゴ南門には、王都へ出発するジャンを見送る為に、咲良とジャックが居た。
鍛冶師ロンドから受け取った新品同様になったオリハルコンの大剣を背中に背負ったジャン。
咲良が木の棒に短冊の様な白い紙が幾つも付いた祓串を使ってジャンのお祓いをしていた。
ジャンは何をされているのか分からなかったが、されるがままになっていた。
ジャンの首には桜が描かれた白いお守りがぶら下がっていた。
朝食の時に血を取られてから貰ったお守りだ。
防御力+20と欠損再生と言う性能を聞いて、ジャンは苦笑いするしかなかった。
お祓いも終わって満足する咲良。
「ジャンいいわよ、気をつけて行って来てね」
「ああ、Aランクになるとこんな面倒事も断る訳にはいかなくてな。どうなるか分からんが、なるべく早く終わらせて戻ってくるからな」
「ジャックがいてくれるし大丈夫よ」
「お父さん、さくらは僕が必ず守るから心配しないで」
「頼もしい事を言うようになったじゃないか。だがお嬢ちゃんの方が強いんだからな………頑張れよ」
言ったジャンも言われたジャックも苦笑いだった。
馬に跨がったジャンは、緑豊かなロンバルディア平原を遙か西にある王都へ向かって出発した。
* * * * *
ジャンを送り出してからの数日は、冒険者ギルドの依頼をこなしたり、串焼きの食材の為に魔物を狩ったりしていた。
咲良は鉱山地区のごっつい体つきの鉱山作業者たちに大人気だった。
串焼き旨かったとか、神楽を観た後から鉱山作業で誰も怪我をしなくなったとかで、お礼を言われまくっていた。
商人ギルドのサブリナに任せていた1週間連続という異例のオークションも無事に終わり、咲良とジャックは商人ギルドの個室でサブリナから報告を受けていた。
ロングの金髪をロールアップしてまとめ清潔感のある髪型のサブリナが、興奮気味に話してくれた。
「とっても大成功でした!毎日大勢のお客様が訪れ、最終日は貴族本人が訪れたりして会場が大混雑でした。落札価格も中々でしたよ。こちらが売り上げ金額となります」
そう言ってサブリナが差し出した黒いボードの端には250万ターナと表示されていた。
「250万??お人形7体で250万!!受け取っていいのかしら」
「商人ギルドへの手数料1割引いた金額ですので正確には275万ターナですが、落札した貴族たちは大変喜んでましたよ。それ程価値のあるお人形ですからお気になさる必要はないかと」
咲良は申し訳なさそうに黒いボードに赤のギルドカードを乗せて250万ターナの受け取りを済ました。
「えっとじゃあ、小花咲良の名前をどれくらい知ってもらえたか分からないけど、これから神楽の許可取りに行ってこようかしら……」
貴族との金銭感覚の違いに戸惑いつつも、咲良は神楽公演の為に許可取りに向かった。
* * * * *
学校の前に行くと、前回全く取り合ってくれなかった時と同じ門番だった。
玉砕覚悟で話しかけると、門番が咲良の名前を知っていてすんなり校長先生に取り次いでくれた。
門番は貴族の応対もするので貴族の流行や話題には敏感なんだそうだ。
小花咲良に会えたのが嬉しかったのか、門番はずっと笑顔だった。
学校の校長先生も今話題の咲良の名前を知っていたのて歓迎された。
10才の女の子だった事に校長先生は驚いていたが、公演の許可を出してくれた。
難関だと思っていた学校の許可が取れた事で気を良くした咲良は、ルンルン気分で広場での許可をお願いしに行った。
前回は気が付かなかったが、北広場も南広場もそれぞれの元締めがいた。
彼らはオークションの人形の事は知らなかったが、咲良の串焼きの事は知っていた。
串焼きを食べに来る鉱山作業員たちが、咲良の串焼きの話しばかりするからだ。
元締めは、公演の時に咲良の串焼きの屋台を出す事を条件に、神楽公演の許可を出してくれた。
元締めも咲良の串焼きを食べてみたかったようだ。
ギルドに帰ってサブリナに、全部の許可が取れた事や串焼きの事を話すと、とても喜んでくれた。
「おめでとうございますさくら様。では前回の様に神楽の舞台と串焼き屋台の準備が必要ですね」
「サブリナのアイデアのお陰ね、ありがとう」
「いえいえ、さくら様のお力です」
咲良はその後サブリナと相談した結果、今度の土曜に北広場、日曜に南広場、月曜日に学校の順で公演の予定を決め、それぞれに連絡した。
最初の北広場の公演まであと5日。
ジャンの代わりに太鼓の演奏者を見つけてリズムを教えたのでは間に合わないので、ジャックの笛だけでいく事にした。
* * * * *
次の日に街を歩いていると、また神楽をやる事を知った鉱山労働者たちから声をかけられた。
「また神楽をやるんだってな、串焼き楽しみにしてるぜ」
「あれから仕事で怪我しなくなったよ、さくらちゃんのお陰だよ、ありがとな」
「さくらちゃんの踊ってる姿も串焼きも忘れられないんだ、楽しみにしてるよ」
「公演には仲間たち連れて必ず応援に行くからね」
咲良は声をかけてくれた人みんなに、なるべく10才前後の子供がいたら連れて来てねと伝えていた。
学校に行けてない子供もいるかも知れないと心配になったからだ。
1番の目的は姉を見つける事なのだ。
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