お守りを作ってみた!
ジャンは冒険者ギルドのギルド長室に来ていた。
エドモンドギルド長が、王都のギルドからジャンに指名依頼が来ている事を話してくれた。
「内容は極秘なのでここでは話せないから王都のギルド長に聞いてくれ。他のAランク冒険者数人にも声がかかってるようだからかなり危険な依頼だと思う。気をつけてな」
現役時代はAランクだったエドモンドギルド長が心配そうな表情をすると、それを見たジャンも不安を感じていた。
冒険者ランクはSまであり、ロンバルディア教会の教皇やそれぞれの国の国王など世界の主要な人物数人しかSランク冒険者は居ない。
実質的に普段最前線に立つ国の兵士や冒険者では、Aが最高ランクも同然なのだ。
緊急性や被害状況にもよるが、各地に散らばっているAランク冒険者を集めて対応するより、Aランク冒険者と同等の強さの騎士がいる王都の騎士団が出た方が断然早い。
「Aランク冒険者を何人も集めるのは時間もかかるし大変だろう。国の騎士団じゃダメなのか?」
エドモンドギルド長は厳しい表情をしていた。
「う~ん、騎士団は出せない訳があるんだろう……………なんせ依頼主が国王様だからな、騎士団を出せるのなら出してるだろう」
「依頼主は国王様か!」
国王の依頼と聞き、ジャンの表情がより真剣になった。
「…………まぁ俺に選択肢は無いんだ。呼ばれたんだから行ってくるさ」
「ああ、気をつけてな」
ジャンはエドモンドギルド長に見送られて、冒険者ギルドを後にするのだった。
* * * * *
宿屋に戻ったジャンは、夕食の時に咲良とジャックに王都に行かねばならない事情を話した。
いつもなら一緒に行くジャックが咲良を守る為に残る事になった。
「神楽があるのにすまんなお嬢ちゃん」
「いいのよ。指名依頼だものね。こっちこそジャックを残してもらってありがとね」
「依頼が終わったら俺もすぐに戻って来るからな」
「無理しないでね」
* * * * *
咲良は宿屋の部屋で編み物をしていた。
窓から見える夜空には星々が瞬いていた。
部屋ではいつものように精霊たちが寛いでいる。
モンテラーゴは人口が多く、普段着とはいえ連れて歩いたら精霊だと誰かにバレてしまいそうなので、普段は召喚していないのだ。
一部屋くらいなら咲良が魔力の膜で隠蔽出来るので、精霊たちのストレス解消の為に召喚している。
広めの部屋だが、流石に精霊全員となると逆にストレスが溜まるのではないだろうかと思うくらいかなり狭い。
にも関わらず火属性のイフリートは筋トレをしているので、聖属性のウィスプがブチ切れていた。ウィスプにとってもストレス解消になっている様だしマゾのイフリートも嬉しそうに見えた。
まぁいつもの光景であった。
ベッドの上には小鳥のふわちゃんが丸くなって寝ている。
前よりもひとまわり大きくなって小鳥と呼べない大きさになっていた。
咲良は王都に行くジャンの為の編み物の真っ最中だ。
月属性の精霊ルナが、咲良の編み物に興味を示して話しかけてきた。
艶やかな長い黒髪にライトブルーと白のロングドレスを着た思い込みの激しい精霊だ。
「さくら様は何をつくっておられるのですか?」
咲良は小さな袋を編みながら答えた。
「これはお守りよ」
「おまもり?白くて可愛らしいですね、何の為の物ですか?」
「ん~、付けてる人を災いとか危険から守る為の物かな……まぁ本当に守ってくれる訳ではないけどね、気持ちよ気持ち」
咲良はジャンがかなり危険な依頼に行くのを心配して、何か出来ないかと悩んだ末に、お守りを思い出したのだ。
気休めかもしれないが、持っているだけで少しでも安心してもらう為だ。
「守ってくれる訳ではない?気持ち?」
ルナは色々と腑に落ちないといった表情をしていた。
「防御力を上げる魔法を付与されれば、アクセサリーとして守ってくれると思いますが…………気持ちですか」
編み物の手を止めて咲良は、ゆっくりとルナの方を向いた。
「魔法を付与??」
「はっ?はい!」
ルナは咲良の役に立てるチャンスに、喜んでい付与魔法の説明をした。
付与魔法は全ての属性にあり、精霊と契約出来て初めて使える様になる上級魔法。
色々な魔法を武器・防具・アクセサリーなどに付与出来る魔法である。
攻撃力・防御力などが付与された装備が一般的に出回っている。
上級魔法なので出来る者が少ない上にとても難しく、魔法が付与された物はとても高価だった。
プラス効果ばかりでは無く、マイナス効果の付与魔法もあり、特に呪いなどは装備を外せなくなるので厄介である。
「付与魔法ね、流石ルー!いいこと教えてくれたわ、ありがとう!」
ルナは咲良にほめられて、ガッツポーズをして喜んでいた。
「くぅ~~っ!有り難きお言葉!わたくしルナはこのまま死んだとしてももう思い残す事は御座いません!」
「ふふっ、ルナが死んじゃったら困るわね。そうだわっ、死んじゃっても生き返るって魔法は付与出来るの?」
ルナはガッツポーズのまま嬉しそうに答えてくれた。
「モチのロンで御座います!咲良様に出来ない事など御座いません!死者蘇生ですよね!『リヴァイヴ』と………言……う……ま…………」
急に元気が無くなるルナ。
「申し訳ございません…………えっとですね咲良様、死者蘇生魔法は神様より禁止されておりまして…………そのせいで我が属性は永く封印されて来ましたので」
「あっ、そっか、死者蘇生はやっちやダメって言ってたわね、ゴメンね。でも防御力を付与出来るだけでも大丈夫よ、ありがとうルナ」
ルナに元気が戻った。
「いえいえ、死者蘇生はダメでも、咲良様なら欠損再生魔法『リジェネレイティブ』の付与がお出来になると思います」
「欠損再生も付与出来ちゃうんだ、それはいいかも、一緒に防御力の付与も出来るといいわね」
「両方を?…………ん~~咲良様なら大丈夫です…………きっと」
通常付与魔法は1つの装備に1つなのだが、過去に誰もやらなかっただけで、ルナは考えた事も無かったのだ。
しかしルナは咲良の同時に二つの付与を見てみたかったので、余計なことは言わなかった。
「ちなみに付与するには通常の倍の魔力が必要になるのですが咲良様ならそれもきっと大丈夫です」
キラキラした瞳のルナは、咲良にどんな無茶な事を聞かれても大丈夫ですとしか言わなくなっていた。
桜の花が刺繍されたお守り袋も完成し、中に入れる小さなお札にも桜の花の絵を書いていた。
付与魔法についてルナが詳しく説明した。
誰でも使える様に付与すると効果が半減するので、装備する個人を特定した方が本来の効果が得られるそうだ。
やり方は完成品に本人の血を垂らすというものだったので、桜は明日の朝食の時にジャンにチクッとやってしまう事にした。
咲良が木のお札に魔法の付与をすると、今までに使った魔法の中でもダントツに魔力を消費した。
なんとか魔力欠乏にはならずに欠損再生と防御力+の魔法の付与が成功しが、咲良は少しヒヤッとした。
お札に込めた魔力が大きすぎて、高ランクの人には異常なアクセサリーだと分かってしまうので、お札を魔力の膜で隠蔽する作業が増えた。
こうして、見た目は桜の花が刺繍された小さな白い袋だが、欠損再生と防御力+20が付与されたお守りが完成した。
…………そう、付与してみたら防御力+20だったのだ。
欠損再生があっても即死してしまったら助からないので、そうならないで欲しいと願って付与していたら+20になっていた。
世に出回っている装備の付与は防御力+10が最も優れているので、欠損再生もそうだが防御力+20もバレたらマズい。
バレた時は一緒だしジャンの為だからと咲良は気にしない事にした。
お守り造りも終わって、小鳥のふわちゃんと一緒に布団に入ると、魔力もかなり消費して疲れていた咲良はふわちゃんに抱きつきながら眠りについた。
夜空の星々は、咲良を見守る様に瞬いていた。
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読んで頂き有難う御座います。
m(_ _)m
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