鍛冶屋!
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ジャックが使っていた剣がかなり傷んでいたので、レベルに見合った剣に替える為に鉱山地区の北端に位置するミーナの鍛冶屋に咲良、ジャック、ジャンの3人でやって来た。
鉱山地区では管理棟のある中央寄りが地価も高く、古くからある鍛冶屋が中央寄りなのだ。
ミーナはまだ新参者なので、最も遠い北の端があてがわれている。
ジャックの剣は咲良が魔法で作り直す事も出来るが、せっかく知り合ったのでミーナのところで見てもらう事にしたのだ。
ミーナの身長は10才の咲良とそう変わらないが、赤髪ショートカットをした姐御肌の頼れるドワーフだ。
鍛冶屋に着いて事情を話すと、すぐにミーナが相談に乗ってくれた。
刃こぼれしているジャックの剣をミーナが鋭い目つきで観察しながら言った。
「かなり傷んでるな。直せるけど、Cランクになって相手も強くなったんなら、レベルに見合う剣に変えた方がいいな」
「うん、やっぱりそうだよね」
「ああ、手入れもされて大切に使われているが、この剣の限界以上の敵と戦ってるな」
咲良と出会う前はレベル16だったからこの剣で良かったのだが、咲良と出会ってからは一気にレベルが上がり戦う敵も強くなり剣への負担が増えてしまっていた。
そして先日レベルが上がって今は36なのだ。
「今後も考えてBやAで通用する剣がいいな。自慢じゃないがあたいが打った剣ならどれもBランクの魔物なんか余裕だよ。よしっ!ジャンの兄貴の息子さんだどれでも好きなのをやるよ」
「えっ?いやいや、良さそうなのを買いますから大丈夫ですよ」
流石にAやBランク用となるとかなりするので、ジャックはミーナの好意をやんわりと断った。
「まあまあ、命の恩人へのお礼の1つだから気にするな」
と言いながらミーナはおもむろに立ち上がり、飾ってある剣の1つを持ってきてジャックに差し出した。
「ジャックの剣をみる限りこいつがおすすめだ、Aランクも余裕な剣だ持っていきなっ!」
「えっ……でもっ……これは……」
青みがかった銀色に輝く片手剣だった。
差し出された剣の輝きはとても美しく、ジャックは断る事も忘れ吸い込まれる様に手に取っていた。
今まで使っていた剣よりも少し重さがあったが、振ってみるとレベルが上がった身体には扱いやすく感じた。
(振りやすい…………今までの剣より力を込められるし、なんだか頼もしいな……)
夢中で何度も剣を振っているジャックに、ミーナが笑みを浮かべた。
「振りやすいだろう。前のより少し重さがあった方があってる筈だよ」
ジャックはとても気に入ったが、一つ気になってる事があった。
「凄くいいよ……………でもこの剣の輝きはもしかして……」
「輝き?あぁ材質の事か…………ミスリルだよ」
ミーナはさらっととんでもない事を言った。
この世界で最高級の素材はオリハルコンで、次がミスリルだ。
しかしオリハルコンはとても稀少で、王族やSランク冒険者が持つ程度の量しか無い。
したがって普通の冒険者にとっては実質ミスリルの剣が最高なのである。
ミスリルもそれ程採掘される訳では無く、Aランク冒険者にならないと手がでないくらい高価なのだ。
ミスリルの加工は難しく、火属性の才能があっても20~30年以上鍛冶の修行をしてやっと扱えるようになるのだ。
その上、全員が扱える様になれる訳では無い。
つまりこの若さでミスリルを扱えるミーナはとても優秀だと言う事だった。
「やっぱりミスリルの剣なんだ!………それを打てるミーナさんって」
驚いているジャックなど気にせずミーナは続けた。
「ミスリルにバトルマリンも使ってるから、水属性を帯びているから火属性相手には効果的なはずだよ」
「ええっ?!ミスリルにバトルマリン?!………ミーナって凄い鍛冶師だったんだね。お金は払うからいくらだい?」
ミーナは腕を組んで複雑な表情をしていた。
「アタイは凄くなんかないぞ。なかなか納得がいく剣が打てないし、鍛冶師の腕はじいちゃんに遠く及ばないからな…………だから金は要らない」
「ミスリルの剣をもらう訳にはいかないよ」
「受け取らないだとっ?あたいの命の価値はこれじゃまだ足りないんだよ!あたいがそんなに安い女だっていうのかい!!」
ジャックはミーナの剣幕に押されタジタジだった。
結局受け取る事になり、咲良もジャンも苦笑いしていた。
「…………ありがとう。ミーナの剣にふさわしい冒険者になれるように頑張ります」
ジャックは両手で大事そうに剣を受け取った。
「フッ、初めっからそう言えよな」
ミーナは腕を組みながら満足げだった。
落ち着いたところでミーナはジャンに向き直った。
「ところで前から気になってたんだけど、ジャンの兄貴が背負ってる大剣ってもしかしてオリハルコンじゃないかい?」
「おおっ!やっぱり分かるか、そうだオリハルコンの大剣だ!凄く高かったんだぞ」
ジャンは当時を思い出しながら話し始めた。
「10年くらい前にガンドルフ帝国の鍛冶屋で見つけたんだが、全財産でも足りない金額だし小僧には売らん!言われて困ってる所に、俺を気にかけてくれていた王族の方が口利きして金も借してくれてな何とか手に入ったんだ………………まだ少し返済が残ってるんだよ」
遠くを見つめながら物思いにふけるジャン。
「…………ガンドルフ帝国のヴォルカーノの鍛冶屋かい?」
我に返ったジャンはミーナの質問に答えた。
「ああ、ヴォルカーノに居る世界一の鍛冶師ロンド殿の大剣だ!見た時は感動に震えたぜ」
オリハルコンの加工はとても難しく、現在出来る鍛冶師はロンドしか居ないのだ。
オリハルコンの剣は王族が装備してる以外に、見かける剣ではないのだ。
「そう…………ジャンの兄貴、見せてもらってもいいかい?」
「ああいいぞ」
ミーナは大剣をじっくりと観察した。
透きとおるような白銀と淡い緋色が混じりあった美しさに見惚れてしまっていた。
使い込んでいるがきちんと手入れも行き届いていて大切にしているのが分かった。
そして、炎をデザインした刻印を見てミーナは深く頷いた。
「素晴らしい、惚れ惚れするな…………流石はじいちゃんだ。いつかはあたいもこんな剣を打てる様になってみせる」
ミーナは自分に言い聞かせる様に呟いていた。
ジャンはふと、大剣の刻印とミーナの打った剣の刻印が似ている事に気づく。
「そういやぁ炎の刻印が似てるんだな………」
「まぁ、じいちゃんに炎の刻印の使用を認められたがこの大剣を見ると痛感させられる。アタイはまだまだだよ…………あたいはヴォルカーノから修行の為にこの街に来たのさ」
「ヴォルカーノからでこの炎の刻印って事は…………まさかロンド殿の弟子か」
ジャンは数年前に大剣のメンテナンスにヴォルカーノのロンドの店を訪れた事を思い出す。
その時は息子が継いでいてロンドはもう居なかった。
大剣のメンテナンスを息子にしてもらったが、ロンドの事を何も語ろうとしなかったのを見て、ロンドは亡くなったのだろうと思いジャンは何も聞かなかった。
「辛い事を思い出させてしまったようだな。この大剣には何度も命を助けられてる。礼を言わせてくれ、ありがとうな」
ジャンは亡くなってしまったロンドへの感謝を込めて言った。
「んっ??別にあたいにお礼を言われても困るな」
「同じ家系の鍛冶師へのお礼だと思ってくれ」
「まぁ………ジャンの兄貴がそう言うのなら……」
ミーナは微妙な表情をしていた。
そこに突然、誰かが入って来た。
「ただいまミ~ちゃ~ん、元気だったか~い?」
しんみりした雰囲気の中、鍛冶屋内にしわがれた男の声が響いた。
「ああ、お帰りじーちゃん」
「「「じーちゃん??」」」
咲良たち3人が振り返るとそこには 背丈はミーナと同じ位で老齢だか鍛えられた身体のドワーフが立っていた。
「ジャンの兄貴、知ってると思うが紹介するよ、じーちゃんだ。大剣のお礼は本人に直接言った方がいいよ」
「ええ~~っロンド殿っ?!生きていらっしゃったのですね!」
「わしを勝手に殺すな!」
ジャンが聞かないからなのか、みんながはっきり言わないからなのか、ロンドは元気だった、とんだ勘違いだった様だ。
事情を聞くと、ろくに修行もしないバカ息子を見捨てて、溺愛していた孫娘ミーナの修行に付いて来たそうだ。
孫娘の為なら何でもやってあげたいロンドなのだが、「独りでどこまで出来るかの修行だから一緒に居ても良いけど邪魔しないでよ!鍛冶師のロンドだともバレたら口聞いてあげないからね!」とミーナに言われてしまっているらしい。
「ミーちゃんは才能もあるし努力も惜しまない。そして何よりも可愛いからの~~」
ロンドはミーナを抱きしめながら、嬉しそうにはしゃいでいた。
「じーちゃんっ!じーちゃんっ!お客さんの前っ!」
「フッ、じーちゃんは気にせんのじゃがな………」
恥ずかしそうに怒るミーナから、ロンドは寂しそうに離れた。
ミーナはロンドとジャンたちをそれぞれ紹介した。
ロンドは孫娘ミーナの命の恩人のジャンと知り、更には咲良の可愛らしさにテンション爆上がりだった。
「確かジャンと言ったかな、そうかあんたらがミーちゃんを助けてくれたのか。いや~~ありがとな~~ミーちゃんはわしの命よりも大切じゃから、わしにとっても命の恩人じゃな」
ロンドはジャンと軽く握手をした後に直ぐに咲良を抱きしめた。
「可愛い命の恩人じゃの~~」
咲良もミーナも苦笑いだった。
ロンドはオリハルコンの大剣に気がつくと、咲良を抱きしめる手を放して、大剣に走り寄った。
「おおっ、これは懐かしいの、わしが打ったやつじゃないか。大切にしておるようじゃが、むむむっ!何処で手直しをしたのじゃ?」
最初は喜んだロンドだったが、急に表情が曇った。
ジャンは何がロンドの気に障って機嫌を損ねてしまったのか分からず、緊張して答えた。
「はい、えっと、数年前にヴォルカーノでロンド殿の息子さんにメンテナンスしてもらいました」
王族にもあまり敬語を使わないジャンだが、世界一の鍛冶師ロンドにだけは丁寧な口調だった。
「そうかあのバカ息子かっ!あやつにはオリハルコンは無理じゃと言ったのに。よしっ!わしが直してやろう。バカ息子の尻ぬぐいじゃしミーちゃんの命の恩人じゃから、お代はいらんからな。おっそう言えば、まだ大剣の払いが残っておったな………よしっ!それも無しじゃ」
「あっありがとうございます!」
「うむ!ミーちゃんの恩人じゃから当然じゃな」
「じーちゃん!オリハルコンの剣を直すところを見ててもいい?」
「勿論じゃ。ミーちゃん一緒にやってみるか」
「やった!じーちゃんありがとう!」
ミーナは今までにない笑顔でロンドに抱きついた。
咲良たちは1週間後に大剣を取りに来る約束をして、鍛冶屋を後にした。
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