神楽の為に!
鉱山地区で神楽公演を終えた次の日。
咲良は商人ギルドのサブリナに会いに来ていた。
公演としては成功だっが、咲良は姉に観てもらうのが目的なのでまだこれからだ。
姉が自分と同じ時に転生したなら一緒の年齢だと考えている。誤差があっても前後1歳くらいだろうから近い年齢の子供たちに見てもらいたいのだ。
なので咲良は学校での公演を是が非でもやりたかった。
学校の許可をとる為にも、親である貴族たちに小花咲良の名前を広める必要がある。名前が広まるだけでも姉が訪ねて来てくれるかもしれないなとも考えていた。
商人ギルドの個室で咲良は目の前の机に編み物の人形7体をドンと出してサブリナに相談していた。
「サブリナさん、小花咲良の名前を貴族たちに広める為に、この人形を街のオークションに出そうと思うの」
「貴重なお人形を7体ですか。前回落札出来なかった方たちは大変喜ぶと思います。名を広める為でしたら1週間続けて毎日オークションを開くのは如何でしょうか?毎日1体ずつオークションにかけるのです。前例のない事ですからかなり話題になると思いますよ。7日連続のオークションが終わる頃には、この街の貴族で小花咲良様の名前を知らない者はいなくなるでしょう」
「毎日オークション?」
「はい、普通は週に1回なのですが、大変人気のあるお人形ですから毎日でも問題ありません」
「ふぅ~ん…………名前が広まるならお願いしようかな」
「はい!お任せ下さい。必ずや成功させてみせます!」
かなり難しい仕事だが、サブリナは拳を握り締めて燃えていた。
「さくら様の為にも、ダニエラ主任の為にも絶対成功させます!」
* * * * *
咲良はオークションが終わるまでの2週間暇になったので、ジャックの経験値稼ぎとギルドの依頼を手伝う事にした。
モンテラーゴの北、馬で2時間程の距離にある森の中を、ジャックを先頭に咲良、ジャンの順で進んでいた。
ジャックの経験値稼ぎなのでジャンは一緒に来なくてもよかったのだが着いてきたのだ。
咲良が大勢の精霊に守られているのは分かってはいるのだがまだ10才の女の子だし、相手が厄介な人間だったら精霊で解決って訳にはいかないので心配なのだ。
ジャンは最後尾を歩きながら納得のいかない表情をしていた。
ジャックは咲良の指示する道を進んでいるが、今までベルトコンベアーにしか遭遇していない。
森の中には多くの種類の魔物が居るし群れている魔物もいる。
斥候のベテランになれば魔力を探って魔物の位置を把握出来るが近い範囲だけだし、何の魔物かまでは分からないのが普通だ。
しかし森の中を1時間以上歩いてベルトコンベアーにしか遭遇していないのだ………それも5体連続でだ。
普通じゃなかった。
「この先にもベルトコンベアーがいるんだろうな………」
「えっジャン何か言った?」
「いや、なんでもない…………」
「タッくん、さっきも戦ったけどその茂みを抜けた先にベルトコンベアーが1体いた場合、どうするかを考えながら進んでね」
「分かった……………またベルトコンベアーだね。用心しておくよ」
ジャックは剣を抜き盾を構えて茂みの奥へ進んだ。
ここまで何度も繰り返された光景をジャンは呆れながら見ていた。
「お嬢ちゃん………かなりの距離の索敵が出来るうえに魔力から魔物の種類も分かる事を俺たちに隠さなくてもいいぞ?絶対秘密は守るから。今のままだとバレバレだぞ」
「えっ?なによ!偶然よ、ぐ・う・ぜ・ん!」
咲良は学校で学んで広範囲の索敵がかなり難しい事を知っていたので、頑張って誤魔化していたつもりだった。
「いやいや、森の奥で咲良の指示通り進むとベルトコンベアーにしか遭遇しないとか、あり得ないぞ」
「だから偶然よ……………学生時代からこんな感じで何も言われなかったわよ?」
「あぁ~魔物狩りの授業だな。その時からやってたのか。それはたぶんみんなお嬢ちゃんに気を使って言わなかったんだと思うぞ」
「先生も居たけど、みんな言った通りに進んでくれてたわよ?」
「そりゃあ魔物が怖かったみんなは咲良が頼もしかったんだろ。先生だって生徒が安全ならそれに越したことは無いからな。言っちまったらみんなの危険度が爆上がりだからな」
「ふぅ~ん………………」
バレてなかったと思っていた咲良はしょんぼりしていた。
ガサガサッ!
ガオオオオォォォ~~!
茂みからベルトコンベアーが襲ってきた。
ジャックが落ち着いて攻撃を受け止める。
「ングッ!」
いつものジャックならすぐに剣で反撃するのだが、今度のベルトコンベアーは力が強く受け止めるので精一杯だった。
だが遭遇するのを想定して詠唱を止めていたジャックは魔法を発動した。
「『スロー』!」
ベルトコンベアーに『スロー』がかかると、ジャックは更に詠唱を始めた。
「大いなる者に賜たまわりし冥府の影法師、我意思に準じて、今ここに具現ぐげんせよ、『ヘイスト』!」
相手の攻撃を盾で防ぎながら詠唱を完成させたジャックは、
スローで相手が遅くなりヘイストで自分が速くなったので勝負に出た。
「ふんっ!このっ!」
ベルトコンベアーを盾で押し返し、素早く横に回り込み足を斬りつけた。
シュバッ!
フンガァァ!!
ベルトコンベアーは腕を振り回して爪で反撃してきた。
ジャックはスピードをいかして攻撃を躱して、ベルトコンベアーに攻撃を加えていった。
ダメージによって動きの鈍ったベルトコンベアーはもはやジャックの相手ではなかった。
トドメを刺し終わったジャックは、顔を上げて咲良を見た。
「あっ、この感覚はレベルが上がったよさくら」
「あら良かった、順調順調!Cランクのベルトコンベアーも危なげなく倒せる様になったわね」
レベルが高くなる程レベルアップも難しくなり、ひとつ上がるのに1年以上かかるのが一般的なのだ。
Cランクともなれば自分と同じランクの魔物とはPTで戦い、ソロで挑む者などいない。ギリギリ勝てるとしても1つのミスで命取りになるからだ。
ジャックはそれを朝からずっとソロで倒し続けている。
危なくても咲良が助けてくれると言う安心感からなのか、ジャックは落ち着いて戦い確実に倒していった。
ジャックが倒したベルトコンベアーをアイテムボックスに収納しながら咲良が言った。
「あと、魔物と出合う直前に自分に『ヘイスト』をかけておく方が効率的よ」
「魔物と遭遇するのが先に分かっているならそうだよね…………さくらが僕たちに隠すのをやめるなら、これからはそうするよ」
「そっそうよね……………じゃあそう言う事で」
「ふっ、分かったそうするよ」
咲良はなんか負けた気がしてモヤモヤしていた。
「もうっ!最後にゼブラモーウルフと戦って終わりにしましょ。モーウルフを従えてるから1VS集団戦になるからがんばってよね。あっちよあっち!」
と言って咲良は投げやりに指をさした。
「うん分かった!」
ジャックは気合いを入れ直した。
その後、ほどなくしてゼブラモーウルフをリーダーとした集団と遭遇。
少しだけ咲良に助けてもらったが、ゼブラモーウルフとモーウルフ数体の群れに勝つ事が出来た。
「はぁっ、はぁっ、何とか勝てて良かった。少し助けてもらっちゃったな」
ジャンは感心していた。
「助けてもらった内に入らんさ。CランクひとりでCランクの集団戦に勝つとかあり得ないんだからな…………ジャック強くなったな」
「さくらのお陰だよ。命を助けてもらったうえに強くなる手伝いまでしてもらって、もう一生かかっても恩を返しきれないな」
「そんなことないよ。強くなったのはタッくんが頑張ったからだし、咲良も助かるから気にしないで」
「さくらの助けになってるのなら僕はもっと強くなるよ」
「ふふっ、ありがとうタッくん」
この後冒険者ギルドに戻り、ベルトコンベアー6体とゼブラモーウルフ1体とモーウルフ4体の討伐報告し、魔物の素材を買い取ってもらっていた…………
勿論お肉以外をである。
双子の出来る方の受付嬢、金髪のルチアですらあきれ顔が表情に出ていた。
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m(_ _)m
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