鉱山地区での神楽!
鉱山地区管理棟前広場での神楽当日。
広場は鉱山労働者たちで賑わっていた。
普段だったら採掘作業に行っていていないのだが、今日は仕事を休んでみんな広場に集まってきていた。
咲良が公演のついでに広場に串焼き屋台を出すとトマゾ管理長が宣伝した途端に、公演の日に働く者はいなくなってしまったのだ。
広場の両端に1店舗ずつ計2店舗出店されている串焼き屋台には大行列が出来ていた。
屋台の従業員は、1店舗はサブリナが用意した商人ギルドの新人3人娘、もう1店舗は鍛冶屋のミーナがPT4人で引き受けてくれた。
サブリナと新人3人娘が担当する屋台では、サブリナが新人たちに商人としての教育をしていた。
「どんなに忙しくても、商人として笑顔を絶やしてはダメよ!」
新人3人娘は大行列を前に緊張していた。
「「「はいサブリナ先輩!」」」
「でも先輩、私は裏で焼いていてお客さんと顔を合わせないですが………」
「口答えしないっ!それと声を出してお客様を呼び込みなさい!」
「「「はいサブリナ先輩!」」」
「でも先輩、呼び込まなくてもすでに大行列ですが………」
「口答えしないっ!さあ声を出して!」
「「「はい!」」」
「いらっしゃいませ~!」
「美味しい串焼きはいかがですか~!」
「ワイバーンとゼブラモーウルフとモーウルフの串焼きですよ~」
先頭に並んでいる客からの注文が入る。
「ゼブラ1串とモーウルフ1串くれ」
「俺はモーウルフ2串な」
「お前ら分かっとらんの~、わしはワイバーン2串じゃ」
「お前まじか!高いぞ大丈夫か?」
「構わん、わしは前にさくらちゃんの串焼きを食べたがありゃあ絶品じゃった。モーウルフでも今まで食べた中で1番の旨さじゃった。高かろうがさくらちゃんのワイバーンを一度は食べておいた方がいいぞ!」
「「それほどか?」」
咲良の串焼きを食べた事のある男は真剣な目つきをして言った。
「ああ、それほどじゃ!ここで食べなきゃ一生後悔するぞ」
周りの男たちは息をのんだ。
「……………じゃあ姉ちゃん、俺の注文をワイバーン1串に変更してくれ」
「じゃあ俺もワイバーン1串に変更だ」
商人ギルドの新人娘は笑顔で返事をした。
「はいありがとうございます!ワイバーン1串に変更ですね、2,500ターナになります」
ワイバーンの串焼き1串2,500ターナは相場の値段ではあるが、かなり高価なので普段は貴族しか買わないのだ。
話しの流れで注文を変えた男は顔を強張らせながらも2,500ターナを払った。
「はい、2,500ターナ確かに受け取りました。これがワイバーンの串焼きです。ありがとうございました」
男がうけとったワイバーンの串焼きは、とても美味しそうな匂いがしていた。
ちなみに、モーウルフは1串500ターナでゼブラモーウルフは1串1,000ターナだ。
男は買った串焼きを一口食べた。
「はむっもぐもぐっ!んむっ!はんにゃほりゃ!んっごくんっ!肉がとても柔らかい!食べると肉がとろけて口の中いっぱいに肉汁が広がってすっげぇ旨い!ワイバーンは前に食べた事あるが別次元だ!確かに今までの人生の中で1番の旨さだ!」
「フッフッフッ、そうじゃろそうじゃろ、これがさくらちゃんの串焼きじゃ!」
何故かワイバーンを薦めた男が得意になっていた。
* * * * *
広場の反対側にあるもう1つミーナPTの4人が受け持つ屋台も大行列だ。
ミーナがメンバーに檄を飛ばす。
「向こうの屋台に負けないようにあたいがどんどん焼くから、お前たち計算間違えるんじゃないよ!」
「「「はっはい姐御!」」」
イチート、ニート、サンコンの返事はいいが、計算と言われみんな微妙な表情だった。
ミーナは炎を扱う鍛冶屋として焼きで負けたくないようだ。
* * * * *
管理棟2階の部屋に控えている咲良とジャンとジャック。
巫女の衣装や髪飾りを付け終えた咲良は、窓から広場の混雑した様子を眺めていた。
サブリナとミーナの屋台には大勢が並び、広場は大賑わいだった。
「鉱山で働いている人たちってこんなにいたのね」
一緒の部屋に居るトマゾ管理長も、この人数には驚いていた。
「いや、軽く宣伝はしたが、まさかこれほど集まるとは思わなかったぞ。今日なんて誰も採掘作業に行ってくれないんだから困ったもんだ」
「えっそうなの?ごめんなさい」
「謝ることなんてないぞ、これだけの奴が集まるなんて今まで無かったし、全員が喜んでるんだ。明日からバリバリ働いてくれるさ。咲良に許可した俺の株も爆上がりだぜ!今まで以上にみんな俺の言うこと聞いてくれるんだぜ。がぁ~っはっはっはっ!どうだ、管理棟内で串焼きの店を出さないか?絶対儲かるぞ?」
「お誘い有難う御座います。でもすぐに違う街に行く予定なので、申し訳ありません」
「そりゃあ残念だな。まあいつでも歓迎するから、その気になったら言ってくれ。ところでさくらがこれからやるかぐら?ってのはどういったやつなんだ?」
「神楽は、神様へ舞を奉納………えっと捧げる為のものよ。神様への祈りや願いを込めて舞うの」
「ふぅ~ん神様へ捧げるのかぁ……」
よく分かってない様子のトマゾ管理長、
「何か願い事とかありそう?叶えてくれるか分からないけど」
「願いか、採掘作業の事故でみんなが怪我をしないようにとかかな」
(無病息災って感じかな、榊は無いから、葉っぱのついた枝と大きな釜にお湯を用意してもらって、観客のみんなを祓ってあげるといいか)
「鉱山労働者の安全ね、神様にお願いしてみるわ。葉っぱの付いた長めの木の枝と、大きな釜を用意出来たりしますか?」
「神様にお願い?なんか有り難い話しだな。葉の付いた木の枝と釜か、なんか分からんが探してみよう」
咲良はもう1度、窓から広場の様子を眺めた。
多くの人で賑わう広場の中央には10メートル四方で高さ1メートル程の舞台が、咲良たちが来るのを静かに待っていた。
* * * * *
神楽の時間が迫り屋台の列も少し落ち着いて、観客は舞台の周りに集まってきていた。
咲良たちは管理棟を出て、大観衆の中を舞台に向かって歩き始めた。
ティアラの様な頭飾りを付け、長い髪は白い紙で束ねている咲良。
清らかな雰囲気の咲良に観客は見とれていた。
舞台に上がりジャンとジャックが演奏の準備を終えると、咲良が舞台中央でお辞儀をした。
咲良は神楽鈴と扇子を持った両手を前に掲げ、演奏が始まるのを微動だにせず待っていた。
その厳かな雰囲気に観客は静まり返り、巫女装束だけが風に揺れていた。
ジャンとジャックの演奏で舞は始まり、神降ろし、そして剣を使った剣の舞、観客たちは咲良から目が離せなかった。
剣の舞が終わると大きな釜が運び込まれた。
緑の葉が付いた長めの枝を両手に持った咲良が釜の前に立つと、ジャックの神楽笛の演奏が始まった。
咲良が木の枝を持った両手を天に掲げると、釜と同じ大きさのウォーターボールが現れ、ゆっくりと落ちて釜は水でいっぱいになった。
そして続けてファイアーポールが釜の水に沈められると、すぐに沸騰したお湯に変わった。
咲良は湯気の出ているお湯に木の枝を浸してから、そのお湯が観客たちに降り注ぐように木の枝を振り祓った。
観客は最初は驚くが、雫が降り注いでも熱い訳では無く、むしろ心地よく心も身体も晴れやかになるのを感じ、されるがままになっていた。
正面の観客を終えると、左の観客たちにそして次は右の観客たちへと移りながら咲良は観客を祓っていった。
咲良がやっている事の意味を観客たちは分からなかったが、自分たちに良いことなのは分かったので、みんな静かに頭を下げていた。
全ての観客を祓い終えると、咲良はお辞儀をしてからみんなにお礼を伝えた。
「本日はありがとうございました。これは神様に捧げる舞です。それと皆さんの健康と安全の願いを込めました。これからも皆様怪我などされず、健やかにお過ごし下さいませ」
もう1度お辞儀をして、咲良は舞台を後にすると、観客から歓声が沸き上がった。
「さくらちゃんありがと~~!」
「身体がなんかスッキリしたよ~!」
「ありがと~!」
「串焼き美味しかったよさくらちゃ~~ん!」
「俺のさくらちゃ~ん!」
「わしのさくらちゃ~ん!」
「いや俺のさくらちゃんだし!」
「なんじゃと!わしのじゃ!」
「まぁいいや、俺もう一回屋台並ぼっ~と」
「行かせるか小僧!わしが先じゃ!」
そして殆どの者が屋台に並び直して、また行列が出来た。
* * * * *
屋台は2店舗とも夕方に完売して、みんな管理棟2階の部屋に集まっていた。
「今日はどうもありがとう」
咲良はみんなにお礼として約束の5,000ターナを渡した。
商人ギルドのサブリナが質問をしてきた。
「始めに串焼きを試食させて頂きましたが、柔らかくてとても美味しかったです。鉱山地区でこれほどの人気が出る理由が分かりました。焼く前のお肉に何かされているのてすか?」
「大したことじゃないけど、まあそうね」
「やはりそうですか。何か秘密がお有りなのですね」
「秘密って程でもないわよ。ボスコの森の泉孤児院でもこの串焼きで屋台をやってるしね」
サブリナは咲良を見つめていた。
「これが大したことでは無いのですか。咲良商会の今後が楽しみですね、この街で何かあれば私サブリナにご相談下さいませ」
「いや~確かに旨い肉だったな、更にアタイの焼きの腕で客はこっちの方が多かったしな」
ミーナが余計なことを言った。
サブリナはキッとミーナを睨みつけて反論した。
「はぁあ~~?私たちの方が売り上げが多かったはずですが?」
ミーナは面倒くさそうにそっぽを向きながら言った。
「どうせそっちの新人が計算間違いしたんじゃねぇの?」
「計算間違いはど~考えてもそちらでしょう!!」
「なんだと~!こっちが計算間違いなんかするか!…………まぁしたかもしれねえが、多い方にも少ない方にも間違うから差し引きゼロだっ!文句あっかっ!」
「まぁ開き直っちゃって、間違いは認めるのね」
「ふんっ!でも勝ちは勝ちだ!」
「そんな理屈通る訳ないでしょ!」
流石に咲良が仲裁に入る。
「二人とも咲良は凄く助かったし、他のみんなもありがとうね」
咲良は深々と頭を下げた。
そんな咲良を見て二人は静かになった。
「まぁさくらにそう言われちゃあな……」
「咲良様がそうおっしゃるのなら。勝ち負けが目的じゃありませんでしたし」
咲良は二人の手を取って握手させた。
「これからも仲良くね!」
サブリナもミーナもなんだか嬉しそうだった。
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