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神楽公演に向けて……


 ジャックがCランクに上がった次の日。


 咲良はジャンとジャックの3人で、商人ギルドに来ていた。


 個室でサブリナから神楽公演に向けての進捗状況を聞いていた。


「まず学校に許可をもらいに行きましたが、校長はそんな訳の分からない事を学校内でやらせる訳にはいかないと断られました。次に南広場と北広場ですが、場所使用の権利は出店している屋台の店主に有り公演の日だけ退いてもらう為に何店舗も回りましたが客じゃねえなら邪魔だって追い払われました。最後に鉱山地区管理棟広場の許可の為に行きましたが、話すために行列に並ばされて待たされたあげくに即却下で外に放り出されました。か弱い私をですよ?鉱山労働者まじあり得ないっつうの!」


 なんとも言えない表情の咲良。


「つまり全部ダメだったって事ね?」


「……………申し訳ございません」


 サブリナはシュンとしてしまった。


「ん~そっかぁ。そもそもこう言う公演ってやってるの?」


 サブリナがギルドの資料を思い出しながら答えた。


「そうですねぇ、有名な劇団が公演をした事はありますね。その時の公演者は人気があったので多くの貴族の協力が得られたから出来たのだと思います。広場の屋台などは貴族に退けと言われれば退くしかないですから。鉱山地区は今まで公演など採掘に関係の無い事に許可が降りた事はありません」


(全然無理じゃん…………もう1回自分で交渉してみてダメだったら、ストリートダンサー的な活動で地道にやっていくしかないか。あっ!王都で成功して有名になってから戻ってくるのもいいわね………いや、そもそもここで無理なら王都はもっと無理か)


「分かったわ。咲良が交渉しに行ってみてそれでダメだったら作戦を変えるわ」


 咲良は何処の誰に交渉すればいいのかをサブリナに確認した。

 学校は校長、北と南広場は屋台の人たち、鉱山地区管理棟前広場は管理長だそうだ。




  *  *  *  *  *




 咲良にとっては学校で生徒たちに観てもらうのが目的なので、先ずは学校の校長先生に会いに行った。


 学校の門番に話をしたが、生徒でも無く何処の誰とも分からない者を校内に入れてはくれなかったし、校長先生にも取り次いでもらえず門前払いだった。


(貴族の生徒を預かっているからまぁ当然といえば当然だけど、門番って結構頑固ね)




  *  *  *  *  *




 次に咲良は北と南広場の店主たちと交渉をした。

 どの屋台も、最初は客だと思って愛想よく応対するが、客じゃないと分かると、商売の邪魔だとばかりに追い払われた。


(何か買ってから話せば良かったのかな…………いや、少し話しを聞いてくれるだけか)




  *  *  *  *  *




 意気消沈して、最後に向かった鉱山地区管理棟。


 前回の様に受付に座って行列を捌いているトマゾ管理長がいた。

 かなり混んでいたが、きちんと列に並んで待つ事30分、咲良の番が来た。


「おうさくらじゃないか、どうした?」


「えっと、管理棟前の広場で公演をしたいんだけど…………咲良の舞………踊りをみんなに観てもらいたいんだけど無理かな」


 トマゾ管理長はキョトンとしていたがすぐに我に返る。


「踊り?…………まぁさくらならいいんじゃないか、良し次!」


 トマゾ管理長は即OKして、次の人を指でチョイチョイと呼んでいた。


 いきなりで理解が追いつかず咲良は慌てて聞き返した。


「えっ?今いいって言った?やってもいいって事?」


 トマゾ管理長は邪魔だと言った顔をしつつも答えてくれた。


「ああいいぞ。一部の鉱山労働者の間でさくらは串焼きが旨くて可愛い娘だとの噂が広まって人気者なんだ。その人気者のさくらが広場で何かやってくれたらみんな今以上に働いてくれそうだからな」



(即OKだとは思わなかったわ。討伐依頼の時の人たちのお陰よね。当日に串焼きの屋台を出してあげようかしら)


「じゃあ広場で串焼きの屋台も出すようにするわね。準備も考えて1週間後の日曜日になんてどうかしら」


「おおっ!噂の串焼きを食べられるのか!勿論OKだ。みんなに宣伝しとくぜ。よし次!」


 どんな時も速攻で通常業務に戻るトマゾ管理長だった。


 あっという間の事で、まだ半信半疑の咲良。


(本当にいいのよね?当日に来たらなにそれとか無いわよね?………なんとしても串焼き屋台でみんなを味方に付けなくちゃ)




  *  *  *  *  *




 商人ギルドに、戻った咲良はサブリナに結果を伝えた。


「学校と南広場と北広場は無理だったけど、鉱山地区の許可が取れたわ」


 サブリナが目を見開いて驚いていた。


「マジですか!鉱山地区の許可が取れたのですか!採掘に関係ない事には一切興味の無いトマゾ管理長が許可したんですか!いったいどうやったんですか?」


「聞いたら即OKだったから別に交渉なんてしてないわよ」


「さくら様の魅力かもしれないですねぇ~~。ダニエラ主任が惚れ込むのも無理はないですね」


「まぁとにかく、1週間後の公演が決まったからそれに向けて頑張りましょう。咲良は串焼きの屋台の準備をするから、サブリナは10メートル四方の舞台の手配をお願いするわ」


「分かりましたさくら様!鉱山地区の歴史に残る初公演ですから頑張らせて頂きます!」


 サブリナはやる気満々だった。




  *  *  *  *  *




 咲良は公演までの1週間の間に、串焼きの食材としてゼブラモーウルフを狩りに行った。


 『フライ』魔法で飛びながらゼブラモーウルフを探すので、ジャンとジャックはお留守番だ。


 鳥に見えるいつもの繋ぎを着て空を飛ぶ咲良と、その横を元気に飛び回りながらついてくる白い鳥のふわちゃん。

 小鳥くらいの大きさだったふわちゃんは少し成長して、咲良の袖や服の中に入るには無理な大きさに育ってきていた。

 咲良と一緒に飛び回れるのが嬉しくて、ふわちゃんはかなりご機嫌だった。


「あっ、ゼブラモーウルフを見つけたわ。ふわちゃんは自由にしてていいわよ」


「ピィ~~ピィッ!」


 ゼブラモーウルフの近くに他の冒険者がいない事を確認して地面に降り立つ咲良。

 ゼブラモーウルフは周りにモーウルフを10体ほど従えていた。


 突然空から現れた獲物にゼブラモーウルフは不敵に笑いかけ、周りのモーウルフたちを(けしか)ける様に空に向かって吠えた。


 ワァオォォ~~~ッ!!


 その瞬間一筋の炎がゼブラモーウルフの首筋を通り過ぎた。


 咲良は何が起きたか分からなかったが、見てる目の前でゼブラモーウルフの頭が地面に落ち、残った身体がゆっくりと倒れていった。


「えっ??」


 何があったか分からずにいる咲良の肩に飛んできたふわちゃんが留まり得意げに鳴いた。


「ピィ~ピィッ!」


「…………まさかふわちゃんがやったの?」


「ピピッ!」


 ふわちゃんは胸を張って敬礼でもするかの様に鳴いた。


「うっそ凄い!ふわちゃんありがとう~!」


 咲良はふわちゃんに頬ずりをした。


 何があったか分からないが残ったモーウルフたちは、目の前の獲物である咲良を取り囲んだ。

 ボスを倒されたモーウルフたちは、咲良とふわちゃんの脅威をまだ認識していなかった。


「じゃあ久しぶりに剣で戦ってみようかな。じゃあふわちゃん行くわよ~『アイスアロー』!」


「ピッピィ~!」


 咲良は剣を顔の横で構え、モーウルフに向かって踏み出すと同時に魔法を唱えた。


 周りのモーウルフに5本のアイスアローとふわちゃんが飛んでいった。

 

 油断しきっていたモーウルフたちは、咲良の剣と魔法、そしてふわちゃんの矢のような攻撃によってあっという間に全滅した。


 咲良は倒した魔物から魔石を取り出し血抜きをして丁寧に捌いてからアイテムボックスにしまった。


「よし、ふわちゃん!次の美味しい魔物を探しに行こ~!」


「ピィ~~ピィ~!」


 咲良とふわちゃんは楽しそうに獲物を求めて飛んでいった。




 咲良とふわちゃんは更に2つのゼブラモーウルフとモーウルフの群れを狩って帰ろうとしていた。


「じゃあ帰ろうかふわちゃん………んっ?この魔力はラッキー!とっても美味しいやつよふわちゃん!確かBランクの魔物だったわ。精霊に手伝ってもらった方がいいわね。じゃあ聖属性で行こうかな、ウィナお願い~!」



 白い教会のローブを着たウィスプが、咲良と並んで飛んで現れた。


「お久しぶりですアリーチェ様」


「あっ、今はアリーチェから名前が変わったの。あれっ?変わった訳じゃないか………まぁいいわ、今の呼び方は咲良でお願い」


 ウィスプはよく分からなかったがすぐに順応した。


「分かりましたさくら様。そして今は飛んで我々に近づいて来ているワイバーンと戦うのですよね?」


「さすがウィナ、話しが早くて助かるわ。美味しい串焼きのお肉が欲しいのよ」


「分かりました。さくら様の経験の為に私は手を出さない様に致します。空中戦ですのでシルフに教わりながらが良いかもしれません」


「分かったわ。シリル~!」


 すぐに咲良の横に優雅に飛ぶ風属性の精霊シルフが現れた。


「は~い、アリーチェちゃん」


 すぐにウィスプが注意する。


「シルフ、今後アリーチェ様の事はさくら様とお呼びする事になったから、気をつけるように。さくら様、他の精霊たちにも私から伝えておきますのでご安心下さい」


「ありがとうウィナ。それでねシリル、これから飛んでるワイバーンを倒したいんだけど何かいい戦い方はある?」


「そうね………風属性はスピードを活かして戦うのが得意なの。空中戦は広い空間を使ってスピードを落とさずにヒット&ウェイで戦えるから少しでも相手よりスピードが上なら負ける事はないわ、相手の攻撃を受けないからね。当たらなければどうと言う事はないのよ!」


「…………何処かで聞いた様なセリフだけど分かったわ。ふわちゃんと一緒にヒット&ウェイでやってみるわ」


「スピードが足りないと感じたら上級魔法の『エアロバーニア』で倍に上げられて、更に神級魔法の『ターボブースター』を使えば短時間だけど誰もついて来られない程のスピードになるわよ。魔力の消費も半端ないし曲がるのが大変になるけどね、さくらちゃんなら大丈夫だと思うわ」


「上級と神級…………ありがとう覚えておくわ」


「さくらちゃん頑張ってね」


「うん、じゃあふわちゃん行くわよ!」


 もう間近まで迫っていたワイバーンをかわすように全員が散開した。


 ゴーレム素材のショートソードを両手に装備した咲良とふわちゃんのヒット&ウェイ攻撃がスタートした。


 ワイバーンの周りをぐるぐると飛び回る咲良。

 ワイバーンは咲良たちの攻撃をぎりぎり避けるか牙や爪で防いでいた。


「ワイバーンって結構やるわね」


 咲良はスピードを上げるダメに『エアロバーニア』を自分とふわちゃんにかけた。

 咲良とふわちゃんが淡い光りに包まれると、いきなりスピードが上がった。


「んぐっ!!」

「ピッ!!」


 咲良とふわちゃんは、スピードが上がってうまく曲がれずにワイバーンの周りをぐるぐる大回りしているだけだった。


「はやっ!曲がって~~!」


 ワイバーンは突然敵のスピードが上がって捉えられなくなったが、敵からの攻撃も無くなり少し戸惑いを感じていた。


 咲良とふわちゃんがだんだん今のスピードと動きに慣れてくると、攻撃がワイバーンに当たるようになって来た。


 ワイバーンは避けきれずに傷を負い始め、徐々に弱っていった。


「制御が難しくて致命傷にはならないけどだいぶ弱ってきたわね、ふわちゃんトドメを刺すわよ!」


「ピピィーー!」


 咲良とふわちゃんが同時にワイバーンの首を通過したかと思うと、首と胴体が離れワイバーンの体から力が抜けていった。


 咲良は落ち始めるワイバーンに手をかざしてアイテムボックスに収納した。


「よしっ!美味しい食材ゲット~~!」


「ピィ~~!」


 ウィスプが咲良に寄ってきた。


「さすが咲良様、Bランク相手にお一人で楽勝でしたね」


「ピピピィーー!!」


 二人で戦ったんだぞとばかりに怒り出すふわちゃん。


「将来Sランクのフェニックスだがまだただの小鳥!生意気な事を言うと焼き鳥にするわよ」


「ピピッ!!ピピィーー!!」


 フェニックスだから火は効かないんじゃ無いかと思いつつ、怒りまくるふわちゃんを咲良が抱きしめた。


「ウィナのは冗談だから大丈夫よ、よしよし。もう街に戻りましょう。ウィナとシリルありがとね」


 ウィスプとふわちゃんの相性が良くなさそうなので、咲良は急いで別かれる事にした。


「またいつでもお呼び下さい」

「またね~さくらちゃん」


 挨拶が終わると精霊たちはスウーッと消えていった。

 ご機嫌斜めなふわちゃんを抱っこして、飛んで帰る咲良だった。



【本日の収穫】

ワイバーン     1体

ゼブラモーウルフ  3体

モーウルフ    30体




 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。

             m(_ _)m


 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆




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