Cランク昇格試験!☆2
モーウルフを討伐し終え、みんなベアトリーチェと抱きあう様に倒れているジャックを囲んでいた。
全員の元気な姿にジャックは安心した。
「無事で良かった………」
「えっ?」
助けられてまだ放心状態だったベアトリーチェはジャックの言葉で我に返り、抱きあった体勢で倒れている事にも気がついて顔を真っ赤になった。
「えっ?あっ!えっ!」
ベアトリーチェはジャックの腕の中から慌てて立ち上がり、赤くなった顔を隠す様に俯いてパンパンと自分の服の埃を払った。
すかさずエンリコが側に走り寄って来た。
「お嬢様お怪我はありませんか!」
「ええ何処も痛くありません?なんだエンリコか、何ともないわよ」
ジャックも立ち上がろうとしたが左足の怪我で立てなかった。
「痛っ!」
ジャックの左足が血だらけなのに初めて気づいたベアトリーチェ。
「ジャックその怪我は…………私の為に」
ベアトリーチェは慌てて回復役のサンドラに指示をだす。
「サンドラ!早く魔法で回復して!」
「はい、お嬢様」
サンドラはジャックの側にしゃがみ込み、両手を翳して回復魔法の詠唱を始めた。
ジャックの足の怪我は暖かい光に包まれてゆっくりと回復していった。
ジャックはサンドラにお礼を言う。
「ありがとうサンドラ」
「お礼なんて別にいいのよ、お嬢様の指示だし、私はその為に居るんだし……傷は完治とまではいってないからあと2~3日は無理しないでね」
サンドラはウィンクした。
ジャックはサンドラに戸惑いつつも、ベアトリーチェにお礼を言った。
「ありがとう御座います、お嬢様」
「べっ別に助けてもらったのは私だし………痛そうだし………元気な方がいいし…………ありがと」
ベアトリーチェがそっぽを向いていたのでジャックにはよく聞こえなかった。
ジャックは足を確認しながら立ち上がり、みんなの無事を確認してギルド長を見た。
「エドモンドギルド長、最後のモーウルフを倒して頂きありがとうございました」
「いやいや、俺は間に合って無かったような、それに俺が手を出さなくても大丈夫だった気がするんだが」
エドモンドギルド長はジャックの強さもそうだが咲良が気になって気になってしょうがなかった。
(10才の子供が魔物を前にあの落ち着きよう、こっちまで安心するんだよな。清らかな雰囲気とか、あどけない感じとか…………はっ!俺ってもしかして子供が趣味なのか?!)
ギルド長は新しい自分に衝撃を受けていた。
モーウルフに突き刺したままになっていたジャックの剣を、騎士ガストーネが渡しに来てくれた。
「若いのに強いんだな、これだけのモーウルフに囲まれて、全員無事ってのも中々だぜ。ジャックのお陰だ、ありがとう」
照れながら剣を受け取るジャック。
「皆さんの協力あっての事です、こちらこそありがとうございました」
ジャックは剣を受け取りながら思った。
(みんな無事だったのは咲良のお陰なんだけどね)
「今回はお嬢様の護衛兼PTメンバーの依頼を受けて来たんだが、いつも俺たちはこの4人《聖衛の盾》で活動している。アタッカーが欲しいなとみんな思ってたんだ。よければ俺たちのPTに入らないか?」
「お誘いありがとうございます。でも咲良と一緒に活動しているのでPTに加わるのは難しいです。すいません」
「そっか、気が変わったらいつでも歓迎するからな」
「はいありがとう御座います」
ベアトリーチェがもじもじしていた。
「ジャック、たっ助けてくれてありがと。お礼にアウグスト家の執事兼私の護衛として雇ってあげてもいいわよ?その妹もメイドとして一緒に面倒見てあげるわ」
ジャックは困った表情になった。
「ありがと御座いますお嬢様。ですがそのお話しは辞退させて頂きます。申し訳ありません」
「なっなんでよっ?貴族家で働けるのよ?」
「私たちにはやるべき事がありまして、すぐにこの街を出立してしまいますのでお嬢様の元で働く事が出来ないのです。申し訳御座いません」
「貴族家で働けば将来が安泰なのに?やるべき事とはそれよりも大事な事なの?」
「はい、命に代えてでもやり遂げたい事です」
しょんぼりするベアトリーチェ。
「そう………ならしょうがないわね。それが終わったらいつでも訪ねて来なさい、私の気が変わってなければ雇ってあげるわ」
「お気遣いありがとうございます、お嬢様」
ジャックとベアトリーチェは微笑み合っていた。
周りを見るとモーウルフが全部で10体倒れていた、ギルド長が倒した1体は今も少し燃えている。
少し休憩してからみんなで魔石や素材を回収して帰路についた。
帰りはミーナPTが先頭で進んだ。
たまに魔物と遭遇するが、モーウルフにリベンジした後だからか、魔物が現れても落ち着いて対処していた。
ミーナのPTは頼もしくなっていた。
* * * * *
夕方、モンテラーゴに無事到着した。
冒険者ギルドの部屋で素材をみんなで分配し、報酬の支払いをジャックが直接手渡しで行った。
最後にベアトリーチェに報酬を渡す。
「今日はありがとうございましたお嬢様」
ベアトリーチェが俯いてモジモジしながらも報酬を受け取ろうとしたところにエンリコが割って入った。
「お嬢様への報酬は、そんなはした金ではないぞ!その服を寄こせ!」
エンリコは真っ直ぐに咲良を指差した。
うんざりしながらもジャックは言葉を返す。
「しかし依頼書にも報酬は1万ターナと書いてあった筈ですが………」
「だから小僧に報酬は服だと言ったであろう!何を聞いておった!」
ぽかんとするジャック。
「いえ、その話しは初めて聞きますし、そう言われていたら断ってる筈です」
「ふざけるな!とぼけて約束を破る気だな!いいからその服を寄こせ!」
横で聞いていた双子で出来る方の受付嬢、金髪のルチアが間に入る。
「どちらかが嘘をついていると言う事でしたら真偽の魔道具を使いましょう、今、持ってまいりますね」
ルチアはジャックが嘘をつくとは思ってないので迷いがなかった。
魔道具なんて使われたらこまるエンリコは焦っていた。
「そっそんな物いらん!わしが嘘をつく訳なかろう!それに今、小僧に伝えたんだから同じ事だ!報酬として服をよこすんだ!」
ルチアは怒鳴り散らすエンリコなど意に介さなかった。
「依頼書に明記してある報酬以外を奪う事は契約違反になります。貴方の言っている事は冒険者ギルドに対する反逆行為とも受け取れますから見過ごす訳には参りませんね…………そうですよねギルド長?」
後ろの方でおとなしく聞いていたエドモンドギルド長は、渋々前に出て来た。
「まぁルチアの言う通りだな。ギルドのルールに従わない訳だから、今後アウグスト家はブラックリストに載り冒険者ギルドとして助力をしなくなるな。そしてこの事は国にも報告するし全ての領主にも伝える必要が出てくる」
「たかが服で国に報告だと?過剰に権力を行使する事それこそアウグスト家への陰謀だ!吾々も国に報告する!」
金髪のルチアが詰め寄る。
「服の問題ではありません。あなたが冒険者ギルドのルールを破る事が問題なんです」
「私じゃない、小僧が約束を破っているのだぞ!」
「両者とも違う事を言っているのですから、真偽の魔道具を使いましょう。嘘をついていないのなら問題ないでしょう?」
「そっそんな必要は無い!私が嘘をつく訳なかろう!」
「そうですか、魔道具は嫌ですか。拒否するのは自由ですが、その場合ジャック様に魔道具を受けて頂いて真実だと判明するとあなたが嘘をついていたと判断致します。貴方の罪が重くなりあなただけの責任では済まず、仕えるアウグスト家の責任も問われますね」
「なっ、なっ、なっ………」
ベアトリーチェが前に出てエンリコに言った。
「私の為なのよねエンリコ。いいのよ、私は今の報酬で充分だから」
「しかしお嬢様の欲しい物は……」
ベアトリーチェはエンリコを手で制した。
「元はと言えば私の責任です。お騒がせして申し訳ありません」
ベアトリーチェはギルド長やルチアそしてジャックに頭を下げた。
貴族のお嬢様が頭を下げるなど普通ではありえない事だ。
部屋にいる全員呆気にとられていた。
ジャックの手に持っている報酬を見てベアトリーチェが近づいてきた。
「ジャックさん、その報酬を頂いてもよろしいかしら?」
「勿論ですお嬢様」
ジャックの手から大事そうに1万ターナを受け取ったベアトリーチェは、俯きかげんだった顔を上げてジャックの顔を真っ直ぐに見た。
「助けて頂いたお礼がまだでしたわね。私を………命を助けていただきありがとうございました」
ベアトリーチェは改めて頭を下げた。
そしてみんなに微笑んでから静かに部屋を出て行った。
部屋にはエドモンドギルド長とジャックと咲良、そして出来る受付嬢ルチアが残っていた。
「ジャック、Cランク昇格試験は合格だ。ジャンにどうやって鍛えられたか知らんがその若さでCランクは凄えな。おめでとう」
「ありがとう御座います!」
嬉しそうなジャックに、出来る受付嬢・金髪のルチアが興奮気味に補足情報を教えてくれた。
「16才でCランクになられた方は、現在ですと教皇様とレオナルド様だけです。お二方ともSランク冒険者になられてますね。過去の記録によりますと、約1,000年前にロンバルディア教会創始者・ロンバルディア・フォンターナ様と共に魔王を討伐した、伝説の7人も16才でCランクだったようですよ。こちらも全員Sランク冒険者になられてます。ですのでジャック様も将来Sランク冒険者に成られるお方って事ですね!凄いです!」
「そうなんだ……」
ジャックは自分が伝説の7人やSランク冒険者と比較されるとは思って無かったが、あまり気にならなかった。
その英雄以上かもしれない咲良が横に座っていたからだ。
エドモンドギルド長はジャックに期待の眼差しで見ていた。
「今からCランク冒険者だが、Sランク冒険者かぁ、将来が楽しみだな」
興奮気味のルチアが、Cランクのギルドカードをジャックに差し出した。
「おめでとうございます、ジャック様」
「ありがとうございます」
「これからは今まで以上に大変だぞ。レベルを1上げるのに1年かかると言われてるしレベルが上がれば上がるほど大変になるからな。頑張れよ」
「はい、ありがとうございます」
ジャックは咲良のお陰で1日でレベルが上がった事は胸の奥にしまって将来の事を考えていた。
(次はBランクか、そうすればお父さんと一緒にお母さんの敵討ちが出来る)
ジャックはギルドカードを見つめながら、決意を新たにした。
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