Cランク昇格試験!☆1
Cランク昇格試験当日の朝。
カラ~~ン! コロ~~ン!
カラ~~ン! コロ~~ン!
モンテラーゴの街に、教会の2の鐘(朝9時の鐘)が鳴り響いた。
冒険者ギルドの2階の部屋に、ジャックの昇格試験に協力してくれるメンバーが集まっていた。
Cランク昇格試験にはDランク以下の冒険者しか行けないのでジャンはいなかった。
咲良はレベル40だがこれでもFランク冒険者なので参加する事にした………ルール違反ではないのだ。
部屋には試験官として同行するエドモンドギルド長と、ミーナPTの4人、貴族のお嬢様PTの5人、後お嬢様の執事のエンリコがいた。
総勢13名もいて部屋はかなり密状態だった。
エドモンドギルド長が話し始めた。
「Cランク昇格試験の試験官として同行するエドモンドだ。基本的に俺は手出ししないが、危険だと判断した時は助けに入るから安心してくれていい。それとそこの付き添いの人、今日の全てが試験だから手を出さないでくれよ?」
「フンッ、そんなのは関係ない、少しでも必要だと感じたらお嬢様をお守りするのが私の勤め!私のCランクはその為の物だ!」
執事のエンリコがCランクだと言う事が分かったが、やっぱり面倒くさかった。
「お嬢さんを守りたい気持ちは分かるが、Cランクがこの試験に参加できないのを、アウグスト家の要請だから特別に付き添いとして来ることを許可しているんだ。約束出来ないなら許可は取り消す。Bランクの俺が居るからお嬢様の事は安心してくれ」
「Bランクと言っても引退した身だろ?安心なんて出来るもんか。万が一の時お嬢様は私が守る!」
エンリコのせいでみんなが困っていた。業を煮やしたベアトリーチェが叱責する。
「エンリコ!いつまで経っても出発出来ないじゃない!約束は守りなさい!」
「しかしお嬢様、これは命に関わる事ですし……」
「いい加減になさい!私のPTのみんなも居るし大丈夫よ!もうあなたは屋敷で待ってなさい!」
「お嬢様それだけは………分かりました。ギルド長よ、手出しはしないと約束するから付き添ってもいいであろう?」
エンリコは渋々といった表情で承諾した。
「ああ、頼んだぜエンリコさん。それじゃあ後はジャックに任せる、試験開始だ!」
ホッとしつつも少し緊張気味のジャック。
「それではみなさん、私がジャックです。本日はよろしくお願いします。早速ですが自己紹介も兼ねて、皆さんの基本的な役割と得意な事について聞かせて下さい。勿論、秘密にしたい事は話さなくても大丈夫です。その上で戦い方を考えながら魔物のいる場所に向かいます」
ベアトリーチェが1歩前に出た。
「じゃあ私から話すわね、私は見ての通り魔法使いよ、LV24で氷属性の魔法攻撃と防御が出来るわ、中級魔法の全てとまではいかないけど、基本的な『アイスアロー』と『アイスウォール』は出来るわ」
「はい、ありがとうございます」
その後、自己紹介が進み全てをまとめると次の通りだった。
ベアトリーチェPTメンバー
【ベアトリーチェ】
LV24 氷属性 魔法攻撃役 魔法使い 人族
【ガストーネ】
LV25 土属性 盾役 騎士 人族
【バルサ】
LV25 土属性 盾役 戦士 熊獣人
【セスト】
LV25 風属性 斥候 狩人 人族
【サンドラ】
LV24 聖属性 回復役 魔法使い エルフ
ミーナPTメンバー
【ミーナ】
LV20 火属性 攻撃役 剣士 ドワーフ
【イチート】
LV20 土属性 盾役 戦士 サイの獣人
【ニート】
LV20 風属性 斥候 狩人 狼の獣人
【サンコン】
LV20 水属性 回復役 魔法使い 人族
ちなみに咲良の事はジャックのPTメンバーの斥候として紹介した。
Fランク冒険者で魔法は初級しか使えないが、剣が使える事にした。
魔法の才能はあるのに初級魔法しか使えないってところでみんなが同情してくれた。
ジャックは目的地に向かいながらメンバーたちと色々話しをした。
「ベアトリーチェ様のPTは盾役が2人なんですね」
「ええ、私の安全の為に父がそうしたの。忙しい教会職員のサンドラもよ」
「冒険者はいつも命がけですから、盾役が多いのと聖属性の回復役がいるのは大切だと思いますよ」
ジャックは戦い方を考えながらモーウルフがいる地を目指した。
(僕以外で盾役が3人か。モーウルフの群れだとしても魔法使いとか後衛を守れそうだな。その間に魔物を減らしていけばなんとかなるか。聖属性の回復役がいるのはかなりの安心材料だ。モーウルフは素早いのと数が多いのが厄介だがミーナも囲まれたりしなければ戦えるだろう。危なそうな所に僕が助けに入れば大丈夫だろう)
ジャックは咲良に相談する。
「咲良、盾役で後衛を守りながら、少しずつ倒していくってのでいいと思うかい?」
「なんで咲良に聞くの?」
「えっ?いやだって、僕よりレベル高くて強いし………」
「…………まあいいわ、モーウルフの数と素早さが心配だけど攻撃魔法を使って来ないから堅実でいいんじゃないかしら。みんなが落ち着いてモーウルフを牽制出来れば大丈夫かしら」
「落ち着いてか………分かった、みんなと相談してやってみるよ」
ジャックはみんなに作戦を話しながら目的地まで進んだ。
* * * * *
モンテラーゴの北門を出て半日、更にそこから1時間くらい森に入った所でモーウルフの群れが目撃されている。そこが今回の目的地だ。
森に入る前にみんなでPTを組む為の円陣を組んだ。
レベル差が20もあってミーナたちに経験値が入らなくなるが、もしもの時に守る為に咲良も参加した。
PTの円陣を組んだ後にベアトリーチェが話しかけてきた。
「あんたはPTに参加して大丈夫なの?参加しないでギルド長に守られてた方がいいんじゃないの?」
「魔法は初級だけだけど、剣でジャックの役に立ちたいから……」
「ふぅ~ん………まあいいわ。あんたFランクよね、モーウルフは早いからその服を傷つけない様に気をつけなさいよ。後で買い取ってあげるから」
「……………」
(ははっ、そうだった。最初会った時からベアトリーチェは巫女の衣装を欲しがってたんだったわ)
* * * * *
ベアトリーチェのPTを先頭に森の中を進んで行った。
その次にジャックと咲良がいて、その後ろにミーナPT。
距離をとった最後尾に試験官のエドモンドギルド長とエンリコがいた。
いつものPTメンバーの方が、咄嗟の連携が取りやすいと考えての配置だ。
ジャックがみんなに聞こえるように声をかける。
「もうすぐモーウルフの縄張りに入る、先頭のセストが警戒してくれているが、みんなも油断しないように」
メンバーからは軽く手を挙げた了解の合図が返ってきた。
森の中を進んでいると、先頭を行くセストの手が上がったので全員立ち止まる。
「みんな予定通りの陣形でスタンバイ!」
ジャックの声に従って先頭のセストが下がり、正面にジャック、右側を騎士ガストーネ、左側を戦士バルサ、後ろをミーナPTの獣人イチートがそれぞれ盾を構えて警戒した。
少し離れた所でギルド長とエンリコが様子をうかがう。
草むらから全員を囲むように10体のモーウルフがゆっくりと現れた。
「「「「10体!!」」」」
みんなモーウルフの数に動揺した。
焦って飛び出そうとするエンリコをエドモンドギルド長が力づくで引き止めていた。
ジャックを含め全員に動揺と緊張が走ったのを感じて咲良が声をかける。
「みんな大丈夫よ、1人で10体と戦う訳じゃないわ落ち着いて!予定通り盾役は自分の前のモーウルフを牽制して。後衛は隙が出来た魔物から確実に仕留めていけばたいしたことないわ」
10才の女の子の発言にみんなは苦笑いしつつも、みんな落ち着きを取り戻した。
魔法使いはそれぞれ詠唱を最終段階で止めて、モーウルフに隙が出来るのを待った。
ぎりぎりの距離を保っていたモーウルフ数体が、痺れを切らして飛びかかって来た。
盾役の騎士ガストーネと大盾を持った熊獣人バルサが飛びかかってくるモーウルフを力強く弾き飛ばした。
飛ばされたモーウルフ1体にベアトリーチェのアイスアローとサンコンのウォーターアローが突き刺さり、もう1体にはセストのウインドアローとサンドラのホーリーアローが突き刺さった。
そこに騎士ガストーネと熊獣人バルサがそれぞれトドメを刺し元の位置に戻って周りのモーウルフを警戒した。
上手くモーウルフを倒せたベアトリーチェが、得意になってチラッとジャックの様子を見ると、ジャックの横にはすでに2体のモーウルフが倒れていた。
「えっ!!」
ベアトリーチェの声で他のみんなもジャックがすでに〖2体倒している事に気がつき驚いていた。
「「「「!!!」」」」
更に1体のモーウルフがジャックに飛びかかってた。
ジャックは身を低くして素早く1歩踏み込み、盾でモーウルフの下顎をかちあげると喉元から胴体に向け真っ直ぐ剣を突き刺して素早く剣を抜いて元の位置に戻った。
モーウルフを一瞬で倒したジャックを見て、みんな驚きで動きが止まっていた。
「見るべきはジャックじゃなくてモーウルフ!油断すれば誰か死ぬわよ!」
咲良の声で我に返ったみんなはモーウルフに向き直った。
ジャックの勇姿を見て、みんなの身体には力が湧き上がっていった。
離れて見ていたギルド長は、あっという間にモーウルフ3体を倒したジャックに驚いていた。
(頼もしいな…………お陰でみんなから無駄な力みがなくなった)
「ぐぬぬぅぅ小僧生意気な」
ギルド長に羽交い締めにされている執事のエンリコはジャックの戦いを見て悔しそうに歯ぎしりをしていた。
咲良は前回モーウルフに全滅させられそうになったミーナたちの事を心配していた。
(残り5体、ミーナたちはモーウルフにリベンジしておかないと今後冒険者として前に進めないかもしれないわね)
後方を警戒してまだ戦闘になっていなかったミーナたちに、咲良が指示を出す。
「後ろは大丈夫だからミーナPTはジャックと共に正面のモーウルフを相手して、ジャックはミーナPTのカバーをお願い!」
咲良がミーナたちを見ると、ジャックの戦いに勇気づけられたからか気合い充分だった。
ミーナが檄を飛ばす。
「よし!お前たち気合い入れて行くよ!」
「「「おうっ!!」」」
ミーナPTは気合いを入れ直してジャックの所に走って行った。
ジャックとミーナPTが入れ替わり、イチートがモーウルフを睨みつけながら盾を構えて前に出た。
ジャックは1歩下がって2体目以降がイチートに襲いかかるのに備えた。
残ったモーウルフたち5体が一斉に襲いかかった。
1体はイチートが踏ん張って受け止めた。
そこにミーナとニートの『ファイアアロー』と『ウィンドアロー』が突き刺さった。
騎士ガストーネと熊の獣人バルサが1体ずつを弾きかえし、それぞれに魔法攻撃が突き刺さる。
イチートに襲いかかろうとしていた別のモーウルフをジャックが1歩踏み出して剣を突き刺した。
その時、みんなの守りの隙間をモーウルフ走り抜けてベアトリーチェに襲いかかった。
ジャックは剣を抜く間も惜しみ剣を手放してベアトリーチェに向かって走り出した。
ジャックはその瞬間に、咲良が『ヘイスト』をかけてくれたのを感じた。
咲良は自分がベアトリーチェの前に出てモーウルフを倒してもよかったが、ジャックに任せる事にした。
「★♯¦◇!!!」
ベアトリーチェへ迫る危機を離れた所で見ていたエンリコは慌てた。
エドモンドギルド長は、60を過ぎて現役を引退したとは思えない速さですでに走り出していた。
走りながら詠唱を終えたエドモンドギルド長の右拳が紅蓮の炎を纏った。
全力で走るエドモンドギルド長はベアトリーチェの近くにいる咲良と一瞬目が合う。
咲良は思った。
(ギルド長はダメね、間に合わないわ…………ジャックが間に合うからいいけど)
エドモンドギルド長は咲良の視線に何故か悪寒を感じていた。
ベアトリーチェは騎士ガストーネが弾き飛ばしたモーウルフに『アイスアロー』を撃ち込んだところだった。
気がついた時には、自分に襲いかかろうとしているモーウルフはもう目前に迫っていた。
「ひっ!!!」
ベアトリーチェは短いながらもジャックとの思い出が走馬灯のようによぎっていた。
モーウルフの角が当たる寸前、横から現れたジャックがベアトリーチェを抱えてその勢いのまま横に飛んだ。
しかしモーウルフの角は、避けきる寸前のジャックの左足を切り裂いた。
ベアトリーチェを抱えたジャックが避けきると、もの凄い勢いで突っ込んで来たギルド長の真っ赤に燃える拳がモーウルフの顔面に炸裂した。
頭を粉々に砕かれて吹っ飛ばされたモーウルフは、地面に倒れた後も炎に包まれていた。
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読んで頂き有難う御座います。
m(_ _)m
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