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はじめてのアンデッド!☆2


 虚ろなジャックを先頭にゆっくりと大広間に近づいていく3人。

 ここまで骨折りゾンビ180体と戦いジャックの疲労は限界を超えていた。

 体力は『ヒール』魔法で回復するが、精神的な疲労やストレスはそうはいかないのだ。


 オルセットはここまでのジャックを見て、完全に態度を変えていた。


「すげえ、すげえよジャックの兄貴!この先の大部屋が最後です。ふらふらに見えるけどきっと兄貴なら大丈夫です!」


「「…………」」


 余裕のないジャックと恐怖に怯える咲良には、オルセットの言葉にかまってる余裕はなかった。



 咲良は改めて大広間の魔力を探ってみる。


「………大広間に魔物が40体と………もう一つ」


 これまでの事でオルセットにも、咲良の感知能力の事は何となく分かった。


「やはりさくら姐さんは見えない先の魔物が分かるんですね、流石です!」


「…………咲良はまだ10才よ?」


「いやいや、産まれてからの年月なんて関係ありません。姐さんは姐さんです!」


「他言無用よ」


「はい!命に代えても!」


「……………それよりジャック、採掘場内の魔物はここで最後なんだけど、骨折りゾンビ40体の他にCランクっぽいのが1体いるの」


「40体とCランク1体か…………もしかしてそのCランクの1体が骨折りゾンビたちをまとめてるのか」


「そうかもしれないわね、今回の魔物の数がだいぶ多かっし統率も取れてる感じだったものね」


「流石にキツいか」


「う~ん……オルセットが居なかったら勝てるんだけどね」


 オルセットがいなければ精霊を召喚出来るので問題ないのだ。

 オルセットは自分が足手まといなのを感じた。


「姐さん!!俺が邪魔ですいやせん!俺の事など気にしないで下さい。姐さんの側で死ねるなら本望です!」


 咲良はドン引きした。


「………咲良の側で死んじゃダメよ」


「うぅっ、ありがきお言葉」


「とりあえず魔物の様子を確認してからどうするか決めるか」


 ジャックの提案で大広間を覗いてみる事になった。

 3人が大広間の入口付近に近づくと、突然、地響きと共に背中側の坑道が岩で閉じてしまった。


 ゴォゴォゴォゴォゴォ~~!

 ズゥズ~~ン!


「「「!!!」」」


 (ふさ)がってしまった帰り道を見ながらジャックが呟いた。


「これはもしかしてCランクの魔物の仕業か………」


「逃がさないって事かしらね…………戦うしかなさそうね」


「分かった。体力は回復してもらってるから、後は僕の精神力の問題だ。やってみるよ。40体でも何とかなると思う。あとはCランクの魔物がどう出てくるかだね」


 ジャックは咲良が精霊を召喚すれば楽勝なのは分かっているが、オルセットが居るから出来る限り戦うのは自分だけにしたかった。


「もしもの時は咲良も戦うから心配しないでジャック。じゃあ行きましょう」




 ジャックを先頭にゆっくりと大広間に入った咲良とジャックは困惑した、魔物が何処にも見当たらないのだ。


 大広間は天井が高く、体育館くらいの広さがあった。

 あちこちに採掘道具が置いてあり、壁面には採掘の跡が残っていた。

 咲良たちが入ってきた入口の反対側には5メートル程の高さの高台があった。


 いぶかしげに周りを見渡すジャック。


「静かだ…………誰も居ない」


「おかしいわね、周りじゅう魔物の魔力でいっぱいなんだけど」


 警戒しながらも3人は、大広間の真ん中まで来た。


 咲良はお化けが苦手であまり集中出来ないでいたが、少し頑張って集中してみた。


 咲良はハッとした表情で真上を見て叫んだ。


「ジャック上っ!!」



 ドドドドドォォォ~~~!!



 咲良が叫ぶと同時に、天井全体が崩落したかのように多くの黒い物体が落ちてきた。


 咲良は『シールド』魔法も張りジャック盾を上に構えてうずくまるオルセットを守った。



 大量の黒い物体が広間全体を埋め尽くすように落ちた。



 ドンッ、ドスッ、ドタッ、ドカッ、ドババババッ!



 暫くして落ちるのが治まると、咲良は恐る恐る周りを確認した。


「いったい何なのょぉお?………ひぃいぃっ!!!」


 咲良たちの周りには、両腕を伸ばして迫り来る骨折りゾンビがいっぱいいた。


 間近にいる腐敗した骨折りゾンビたちを見て咲良の恐怖メーターが振り切れた。


「ひぃっ!X≧⊗≦X!」


 フードを被った魔法使いらしき者が、いつの間にか大広間奥の高台に現れ高らかに叫び出した。


「はあ~っはっはっはあ~っ!我の祭壇まで来るとは、みあげた奴らじゃ~!貴様らもゾンビとなり、我の兵隊に加わ………」


 大広間に咲良の悲鳴が響き渡った。


「きっ……きやあああぁあぁぁああぁぁぁああぁぁああああっ!!!」



「「「「ウガァッ!!」」」」


 咲良の悲鳴には魔力が乗っているのか、フードの魔法使いも骨折りゾンビも全員耳を塞いで動きが止まった。


「ングッ!なっ何だこれは!」


 咲良の悲鳴は続く。


「ぎゃああぁぁあああ~~っ!ルナ~~~~!!」


 長い黒髪をなびかせたルナが、颯爽さっそうと咲良の側に(ひざまず)いて現れた。

 そして迷わずアンデッド殲滅用の神級魔法を、咲良の耳元でささやく。


「咲良様、聖なる光で死者を浄化する『ホーリーワールド』が最適で御座います!咲良様を怖がらせた魔物たちへ思い知らせてやりましょう。自分の死すら気がつかないでしょう………天罰です。フフフフッ」


「あぅ………」


 神級魔法までは必要無かったのだが、ルナは神級を見たかったのだ、そのまま咲良の側でこれから起こることを目に焼き付けようとしていた。


 咲良は泣きながら両腕を広げて、悪霊退散の思いを込めて詠唱無しで急いで魔法名を言った。



「『ホーリーワールド』!」 



 咲良は魔力がかなり減るのを感じたがゾンビたちの恐怖に比べたら些細な事だった。


 咲良を起点にして丸いドームのような眩い光が全方向へ広がっていった。

 光のドームが通り過ぎると一瞬にして魔物たちの身体が砂の様に崩れ去り魔石だけが残り、高台で何か叫んでいた魔法使いも魔石だけになっていた。


 静けさの中、大広間には自分の呼吸音だけが聞こえている。


 神級魔法の光景を見られてルナは恍惚の表情をしていた。


「こっ………これが神級…………素晴らしい!流石は咲良様!」


 感動を伝える為に咲良を振り返ったルナは、そこで初めて咲良にしがみついている熊 (オルセット)に気がついた。


「んっ?何だこの熊?」


 崇高なる存在の咲良にしがみついている熊に沸々と怒りがわいてきたルナは、いきなり熊の顔面を踏んづけた。


 ゲシッ!!


「おい!熊っ!咲良様に触れるなっ!」


 ゲシッ!ゲシッ!


「離れろっ!離れろやこの熊~~っ!」


 ゲシッ!ゲシッ!ゲシッ!

 ゲシッ!ゲシッ!ゲシッ!


 全力で踏んでもダメージ0のルナの踏んづけ攻撃だが、ルナの怒りを感じたオルセットは気を使って咲良から離れた。


 ルナは踏んづけるのを辞めてオルセットを睨む。


「おい熊、咲良様に無礼を働いておいてこれで済んだと思うなよ」


 オルセットは役目を終えてすうっと消えていくルナを呆然と見つめていた。



 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆


 読んで頂き有難う御座います。

             m(_ _)m


 ☆◦º◦.★◦°◦.☆◦º◦.★◦°◦.☆




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