はじめてのアンデッド!☆1
4,000メートルを超える標高の高い場所に、水属性を帯びた貴重なバトルマリンが採れる採掘場があった。
バトルマリンが使われた武器や防具は火に強く、戦いでは火属性魔法が多く使われるのでかなり重宝されるのだ。
採掘場入口付近にある小屋の中では、標高が高く空気が薄い為に頭痛に苦しむ鉱山労働者たちが横になって休んでいた。
咲良を見送るまではみんな我慢していたのだ。
オルセットは高山病に苦しむから到着した日は身体を慣らす為に休むか咲良に聞いたのだが、高地で育った咲良は高山病など気にした事がなかったのだ。
到着後、少し休憩したら出発なので、ジャックとオルセットは頭痛を我慢して咲良と共に坑道に入っていった。
ジャックは兎も角、オルセットは頭が痛いから明日にしましょうとは言えなかったのだ。
真っ暗な坑道内を咲良の初級魔法『ライト』で照らしながら進む3人。
「あれ?ジャック大丈夫?」
「ちょっと頭痛がね………さくらは大丈夫なの?」
「ええ、なんともないわ。オルセットも辛そうね」
「いやまぁ……こんな標高が高くて空気の薄い場所に来ても平気なんてさくらさんはすごいね」
「あっ高山病か。咲良は高地で育ったから忘れてたわ。流石に戦闘に影響しそうだから少し休憩しましょう」
咲良は頭痛に苦しむ2人にこっそりと『ヒール』と『キュア』をかけた。
ジャックは身体が楽になった事で咲良が魔法で治してくれた事に気づき、視線でお礼を伝えた。
オルセットは急に頭痛が楽になった事を不思議がっていたが、咲良の出発の合図で坑道内の案内に集中した。
オルセットの案内で坑道内1つ目の広間の近くまで来た。
先頭はジャック、2番目が咲良、オルセットは熊の獣人で強そうなのに、通信用の杖を両手で握り締めてビクビクしながら最後尾を歩いていた。
咲良には魔力探知で魔物の居場所が分かるので、少し先に魔物20体が集まっている広間があるのが分かっていた。
「その右の先が広間かしら。魔物は20体ね、通路にいないから大丈夫よ」
「分かった、入口に少しずつ誘い出して倒していこう」
オルセットは2人のやり取りを疑問に思った。
(あれっ?まだその先が広間だとは言って無かったと思うけど………)
広間が近づいてくると微かにウゥ~とかアァ~とかうめき声が聞こえてきた。
3人がゆっくりと広間の中を覗き込むと、『ライト』の光りによって中が照らし出されると、骨折りゾンビたちの姿がうっすら浮かび上がった。
「ひいっ!O(><;)(;><)O!」
幽霊やホラー映画が苦手な咲良は悲鳴を我慢しつつ後ずさった。
実際に骨折りゾンビを見るまでは普通の魔物だと思っていたし別に気にしてなかった。
だが実際に見るリアルゾンビは、体が腐敗して強烈な匂いも漂ってきていたし、ぼろぼろの服には血が乾いたあとがたくさんあり、かなり怖かった。
広間の入口に立つジャックに気がついた骨折りゾンビ数体が、両手を前に差し出しながらゆっくりと近づいて来る。
何処か不自然なバランスで歩く姿が怖さを増す。
涙目の咲良は更に後ずさり、ジャックとも距離をとった。
ジャックは近づいてくる骨折りゾンビを、狭い坑道に誘い込むように数歩さがった。
「!!!」
ジャックが下がると咲良も下がり、後ろに居たオルセットの背中に隠れてしまった。
オルセットは、自分の背中の服を掴んで、震えながら隠れている咲良を見てテンション爆上がりだった。
(さっ、さくらさんに頼られてる?!)
「さくらさん!だっ大丈夫です、俺がついてますから。ジャック!お前に何かあってもさくらさんは俺が連れて逃げるから、安心して戦え!」
オルセットは通信にしか役に立たない杖を構えて咲良を守ろうとしていた。
すぐにやられそうなオルセットは兎も角、ジャックはゾンビを怖がる咲良を守る為に気合いを入れた。
(怖がっている咲良の為にも全て僕が倒す!)
ジャックに気づいた骨折りゾンビが1体、ゆっくりとした動きで近づいてきた。
するとその回りのジャックに気がついて無かった筈の骨折りゾンビたちが、気がついた骨折りゾンビに続くように近づいて来た。
(なんだ?骨折りゾンビは動きは遅いが、1体が気づくと回りに居る骨折りゾンビが集団で襲ってくるのか)
ジャックは狭い入口に陣取り、横を通り抜けさせないように、骨折りゾンビを広間に押し戻しながら戦い始めた。
「はあっ!ふんっ、んぐっ!おりゃっ!」
掴みかかってくる骨折りゾンビをジャックが片手剣で一方的に攻撃しているのだが、中々倒せないでいた。
「くそっ、中々核に当たらないな」
魔物には魔石とは別に核が存在し、骨折りゾンビはその核を破壊しない限り倒せない。
通常の魔物は核の位置が決まっているが、骨折りゾンビの場合は核の位置は決まっておらず、腕がちぎれようが頭が無くなろうが、核がある限り襲ってくるのだ。
もしも1体に掴まれると、あっという間に囲まれてしまう。
噛まれたりすると浄化しない限り徐々にゾンビ化してしまうのだ。
咲良はずっとオルセットの背中の服を掴んで隠れていた。
(ゾンビってテレビやゲームの中だけだったのに異世界来たら本物って……)
ジャックは核の場所が分からず苦戦していた。
骨折りゾンビの動きはゆっくりで攻撃は当たるのだが、核を破壊出来ないので、骨折りゾンビはすぐに起き上がって来るのだ。
「くっ!お父さんはこんなに苦労して無かったけどな、どうやって倒してたんだ………くそっ!とりゃっ!はぁ~っ!」
ジャックは骨折りゾンビと戦いながら、父ジャンの戦い方を思い出そうとしていた。
前にジャンと一緒に戦った時は、自分の守りで精一杯だった為、ジャンの戦う姿を見ている余裕がどほとんど無く、中々思い出せなかった。
ジャックが骨折りゾンビを蹴り飛ばした時にふと思い出したジャンの戦い方は圧倒的で頼もしい姿だった。
思い出したジャンのやり方を真似てみるジャック。
「そうか、お父さんは核なんて気にしてなかったな。よしっ、大剣じゃないけどやってみるか」
ジャックはチラリと後ろで怯えている咲良を見てから、自分の身体の調子を確認、片手剣を握り直して、もう一度自分に気合いを入れた。
ジャックは大きく振りかぶって近くに居る骨折りゾンビに斬りかかった。
「はああぁぁあぁ~~~っ!!」
ズッバァ~~ッ!
力強く振り下ろされたジャックの剣は、骨折りゾンビの身体を真っ二つに切り裂いた。
倒れる前の骨折りゾンビの身体を足で遠くに蹴り飛ばす。
そして近い骨折りゾンビめがけて剣を振り下ろす。
「おらああぁぁぁ~~~っ!」
ズバ~~ンッ!
真っ二つまでいかず骨折りゾンビに刺さったままの剣を抜く為に足で押さえて強引に抜く。
「ふんっ!」
そしてすぐ骨折りゾンビに剣を振り下ろす。
「はああぁ~っ!」
ズバアァァァァン!
力任せに剣を振り回しては蹴り飛ばし、狂戦士のように暴れまわったジャックは、広間の骨折りゾンビ全てを真っ二つにしてもまだ核を破壊されずに半分の身体で這って近づこうとしている骨折りゾンビにトドメを刺して回った。
全ての骨折りゾンビを倒し終わった頃にジャックはヘトヘトだった。
「はぁっはぁっはぁっ、やった、骨折りゾンビ20体を倒したぞ、はぁっはぁっ」
オルセットは目を見開いて驚いていた。
「でたらめな戦い方だが強えっ!!」
オルセットの背中に隠れていた咲良が、ジャックにこっそりと『ヒール』をかけた。
「お疲れさま」
ジャックは無我夢中で戦っていたので、いつの間にかダメージを受けて体力も減っていた事に気がついた。
「あっ、ありがとうさくら」
ジャックの周りにはゾンビの残骸が散乱しているので、咲良は近づかなかった。
「お礼なんていいのよ、それよりもう反対側にあれが近づいて来てるからよろしくねジャック」
そう言いながら咲良は、自分の後ろの坑道の先を指差した。
「えっ?もしかして………」
ジャックが耳を澄ますと、骨折りゾンビのウ~とかア~とかの唸り声が聞こえてきた。
ある程度の距離で仲間が戦ってると、骨折りゾンビは集まってくるようだった。
「う~わっ、もう少し時間を空けてほしいな……」
休む時間は無かったが、ジャックは体力を回復してもらっているので、怯えている咲良の為に、気合いを入れ直した。
「よしっ!やるかっ!」
倒した骨折りゾンビの魔石を集める間もなく、次の戦いは始まった。
第2戦が終わり、数えてみると骨折りゾンビ20体だった。
「近い広間の20体が来たみたいよ」
「ふむ、戦ってたらいつの間にか挟まれてたなんてならない様に気をつける必要があるのか」
「咲良が気をつけておくから大丈夫だけどね」
第2戦が終わったが他からの骨折りゾンビが来てなかったので、3人は坑道を先に進んだ。
順調に1広間きっちり20体ずつ9部屋180体を倒しきった頃になるとジャックは、魔法で回復してもらっていても骨折りゾンビのように朦朧としてフラフラになっていた。
残るは最後の大広間だけとなった。
「ジャック、この先の大広間が最後みたいだけど………明日にしようか?」
「あぁぁ……うぅっ、へへへっ………」
ズズッ………ズズズッ………
ジャックは返事をする事なく、剣や足を引きずりながら大広間に進んでいった。
オルセットはジャックの戦い方や強さに怯えきっていた。
(ジャックの兄貴の強さ本気ありえねえ!それを従えてるさくら姐さん本気やべえ!)
「…………ジャック頑張ってね」
咲良は骨折りゾンビが怖いので、ジャックを止めようとしなかった………。
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